第4話 契約書を作ってみよう!


「来週テムライムの王が久しぶりにこちらに来るんだ。」

「ちょうどいいじゃない!」



王様と契約を結ぶことが出来るなら、これ以上の機会はないと思った。「よかったね」というテンションでそう言うと、じぃじはにっこり笑った。



「リアも、来てくれないか?」

「え…?」



出た出た出た出た。

じぃじはす~~ぐそうやって、私を参加させようとする。

こうならないためにせっかく紙にまでまとめたのに、そこ察してほしいんだよ?ね?

察しがいいのにどうしてそこ察してくれないの?

いや、そもそも察した上でそういってるのか~しら???

だとしたらだいぶ性格が…っ



「いやなら断るが、テムライムの王もリアに会いたがってるんだ。運送王の娘がすごいって噂になっているらしくてな。」


私が思いっきり不満そうな顔をしているだろうに、じぃじはにっこり笑った顔を崩さずに言った。


"運送王"と呼ばれているのは、お察しの通りうちの父です。ウマスズメによる配送方法を確立して国内各地に営業所をつくっただけでなく、王の指示で航路の開拓をして国内の運送を活性化したという噂がどんどん広まって、次第に運送王って呼ばれるようになったらしい。


初めて聞いた時は「なにそのクソださなあだ名」って思ったけど、"王"ってついてるんだからパパは評価されてるんだって、割り切ることにしている。



いやいや。のんきに説明してる場合じゃなくてさ。

なぜテムライムにまで私の噂が通っているんだよ。通っていたとしても、だからと言って私みたいなものが隣国の王様にお会いするなんて…



「残念だな。またリアの好きな色のドレスをプレゼントしようって…。」

「行きます、行かせていただきます!!!」



国が儲かると同時に、実はパパの会社もめちゃくちゃに儲かっている。だからうちの財力と言えば今や貴族にも匹敵するなんて噂されているのにかかわらず、なんとウチのママは死ぬほどにケチだ。



だから私がいくら頑張って勉強をしたりパパのお手伝いをしたりしても、ドレスなんていいものはたまにしか買ってくれないことを、じぃじはよーーーく理解しているらしかった。



「ありがとう。助かるよ。」

「はぁあああ~~~~~。やっぱりじぃじには勝てないや。」



私の言葉を聞いて、じぃじは「頼りにしてるよ」と笑った。一国の王がこんな小娘を頼りにしているなんていいのかなって思ったけど、私の経験が使えるうちはじぃじのためにもパパのためにも頑張ろうって私は決めている。



「じゃあその約束を書いた紙を用意してみるから、一度見てもらえるかい?」

「もちろん。あ!紙は2枚用意しないとだめよ。」

「2枚?」

「うん。こっちの確認用と、テムライムの確認用に。そうすればお互い悪用されないでしょ?」




それから数日後、じぃじは契約書の草案を作ったらしく、さっそく私に見せてくれた。


"流通約束状


1.テムライムとリオレッドの間で商品の売買が行われる時、売る側の国で商品が船に置かれるまで、費用は売る側が負担をする。

2.同様にして、トラブルも船に置かれるまでは売る側の負担とする。"



貿易事務として働いていた時、どうして11個も貿易条件があるのかと、疑問に思っていた。


輸出入する商品やその時の状況によって適した条件があるのかもしれないけど、増えれば増えるほどややこしい。そして覚えられない。


新しく作るのならもう1つに絞ってしまおうと思って、私はあえてじぃじにFOB以外の貿易条件の説明をしなかった。そしてじぃじの作った約束状には、私が説明した通りの条件が書かれていた。


ほぼ、完璧だと思った。でも私はじぃじが作った草案に、3番目と4番目の項目と2人の王様のサイン欄を追加することにした。


"流通約束状


1.テムライムとリオレッドの間で商品の売買が行われる時、自国側で船に商品がおかれるまで、費用は売る側が負担をする。

2.同様にして、トラブルも船に置かれるまでは売る側の負担とする。

3.商品の代金を決める時は、そのことを加味して金額を相手側に提案する。お互い合意した場合、商品金額約束状にて、お互いの意思を書面として残す。

やむを得ず金額の変更が必要となった場合は相談をし、変更が決まった場合には再発行をする。

4.以上の条件を含む一切の情報を、許可なく他国に提供しない。


以上の項目に同意する。


テムライム王国  リオレッド王国"



「約束状は条件のことだけじゃなくて、商品の金額のことも追加した方がいいと思う。小さな金額の差でもめたくないしね。それにサインとスタンプがあれば、これが間違いなく王様が発行したものですって証拠になるでしょ?」

「なるほど。」



私が昔よく見ていた、契約書そのもののようなものが出来た。私は法律の専門家ではなかったからこれで十分かはわからないけど、なにか追加したいことがあったらその度じぃじを使ったらいいと、無責任なことを考えた。



「これで大丈夫。あとはじぃじの交渉力にかかってるね。」

「はは、リアは厳しいな。」

「それはこっちのセリフ。」



一度は任せたはずなのに、なぜか一緒に行かなくてはいけなくなったことはいまだに不服に思っている。でも今までの恩を考えたら、行かないわけにはいかない。

もう一回色んなマナーをメイサに叩きなおしてもらわなきゃなと考えながら、嬉しそうに"流通約束状"を眺めているじぃじの横顔を、ほっこりした気持ちで眺めた。



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