第54話 ついに船会社を作ります!


「それではそのあとの話をしよう。」



一旦大臣たちをなだめたあと、改めて座り直した王様が言った。その言葉を聞いて私も地図に注目しなおすと、地図には昨日私がいたときには書いていなかったはずの、2本の線が足されていた。



「この国には現在、2隻の船がある。4つ全ての停留所が開通した暁には、この船を北ルート、南ルートに分けて運航させようと思う。」


じぃじがそう言ったのを聞いて、遠くの方でパパが「なるほど」っていうのが聞こえた。

2つの船で同じ方向にぐるぐると回るとしたら、どうしても配達が最後になる都市が出てくる。かと言って反対方向に1周すれば、正面衝突の事故を起こしかねない。そのルートはとても合理的で、理想的なものだった。



「今はただテムライムとの往復だからスケジュールはそこまで厳密に決まっていないかもしれないが、停留所が増えたら、それだけスケジュールや物量のコントロールは複雑化する。」



それもその通りだ。

北ルートと南ルートで船を分ければ事故が減るっていうのはもちろんだけど、それがレルディアで合流した時に事故を起こす可能性はゼロではない。それに物量のコントロールがおろそかになって必要以上のものを運んでしまっても、お金の無駄になってしまう。



私が考えなくてもそこまで考えてくれる王様がいることを、心強く思った。



「そこでだ、ゴードン。」



するとじぃじは、唐突にパパを呼んだ。驚いたパパが「はいっ」と大きく返事をして勢いよく立ち上がったのをみて、私は思わず笑ってしまった。



「その仕事を、お前に任せたい。」



予想はしていたけど、じぃじは言った。

断る理由も意味もないパパは食い気味で敬礼の姿勢になって、「もちろんです!」と答えた。



――――ん?待てよ?



そこで私は、自分の本来の目的を思い出し始めた。



――――パパ、また忙しくなるんじゃね?



確かに暴動は早くおさまってほしい。国がもっとよくなれば私だって嬉しいんだけど、かといってパパが帰ってこないのだって困る。本末転倒過ぎる。



「ありがとう。」



じぃじは私の考えはさすがに読めないみたいで、パパに丁寧にお礼を言った。ここで終わってしまってはもう取り返しがつかなくなることは、私にもよくわかった。


後で個別に言えばよかったのかもしれないけど、あろうことか私は「はいっ!」と元気に言って右手を高く上げた。


「リアっ!」


するとそれを見たパパが、慌てて私を止めようとした。

でもそんなパパに「いいんだ」と言ったじぃじは、「どうしたんだい」と優しく聞いてくれた。



「もっと忙しくなって、パパが帰ってこないのは、嫌です!」



私の発言を聞いて、大臣たちが頭にハテナを浮かべてこちらを見た。ジルにぃだけが笑いをこらえて、ニヤニヤと座っていた。



「でもトマトチヂミが食べられない人がいるのはかわいそうだから、船のお休みの場所はたくさん作ってほしいです!」



すごく矛盾したことを言った。するとじぃじは私の言葉を否定することなく「それで?」と続きを促してくれた。



「だからね、イーサンおじさんみたいな人に、いつか船のお仕事をしてほしいの。」



それはつまり、船会社を作ってほしいという打診だった。

さすが察しのいいじぃじは私の一言を聞いて「そうだね」と言って、笑ってくれた。



「ゴードン。人選はお前に任せる。統括はこれからもやってほしいが、船の運航専門のトップを置くこと、許可する。」

「はっ!」



タッタラ~!

ついにこの世界で、船会社を作る事に成功しました!



私の心の中では、ゲームをクリアした時の音が鳴っていた。

数人の大臣が私をにらんでいた気がしたし、やっぱりクソ王子は私を厳しい目でみていたけど、もう一生会わないかもしれないから、そんなことはどうでもいい。



「ありがとうっ!」



私は半分飛びつくみたいにして、じぃじを抱きしめた。

私の行動を見てパパがまた焦った声を出したのは聞こえていたけど、もうそんなことは気にならなかった。じぃじの体温を全身で感じながら、この国がもっともっとよくなることを、心の底から願った。

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