第52話 えらいことになりました



「王様が入られます!」



それからしばらくして、弟王子が入ってきた方の扉を門番さんが開けた。するとじぃじが凛々しい顔をして入ってきて、それを見た私はどこかでホッとした。



「忙しいのに、すまんな。」



2人の王子を含めて部屋の全員が、今日一番の敬礼でそこに立っていた。昨日も会っていたから手を振ってしまいそうになる気持ちを私もおさえて、丁寧に作法をしてみせた。



「座ってくれ。」


王様の号令で、全員姿勢よく着席した。私もどう見てもサイズの合っていない椅子に出来るだけ背筋を伸ばして座って、じぃじがどんな言葉を発するかを待った。



「まずはみんな。わしの力不足で暴動が長引いていること、本当に申し訳なく思う。」


じぃじは部屋で見せる顔とは全然違う仕事をする時の顔をして、みんなに頭を下げた。国のトップが頭を下げている姿を見て、偉い人たちはあたふたとし始めた。



「やめてください、王様。力不足はこちらのセリフです。」



するとジルにぃが、勇ましい声で言った。隠してはいるけどジルにぃの腕には傷があったから、きっと毎日体を張って戦ってくれているんだなと思った。



「ジル。お前たちは最前線で命を懸けて戦ってくれているだろう。力不足など、もってのほかだ。本当にお前たちには感謝している。」

「もったいない、お言葉です。」



よく知っている2人のはずなのに、全く別人に見えた。さっきはじぃじの姿を見てホッとしていたはずの私の両手は、いつの間にかグッと強く握られていた。



「我が国は今、最前線で戦ってくれている彼らのおかげで、なんとか最小限で暴動が抑えられているような状況だ。」

「おさえているだけで止められてないんじゃ何の意味もないがな。」



そこでクソ王子が、口をはさんでクソみたいなことを言った。


それじゃあ自分で止めに行けよ!!!!!!!!!!


と、心の中の私が叫び続けていた。



「そうだ、イグニア。ただ止めているだけじゃ意味がないんだ。」



するとじぃじがそれにつけ足して言った。



えぇ、イケおじどうしちゃったの?



「その通りです、王様。」

「カルカロフ家の武力も、落ちてきたのかな。」

「数年前までは無敵と言われていても、平和ボケしたんじゃないです?」



すると我先にと言わんばかりに、大臣たちが言い始めた。



まじでクソジジイども、ふざけんじゃねぇぞ?



心配になってジルさんの方を見ると、少し複雑そうな顔をしていた。命を懸けて戦ってくれている人に、それ以上何も言わないでくれと、本気で思った。



「そういう意味ではない。」



するとじぃじが、今までで一番大きな声を出した。どこか半分ニヤけた顔でカルカロフ家をディスり始めていたくそ大臣たちは、その一言でピタッと動きを止めた。



「たとえ暴動を止めることが出来ても、その原因の根本となっているものを改善しなくては、また同じことが起こるという意味だ。」」



王様モードのじぃじは、とても穏やかな声で言った。するとクソ王子がそれを聞いて、また鼻で「フッ」っと笑った。



「父様がそのようにして甘やかすから、平民たちが調子に乗るのです。もっと強い力でねじ伏せれば何も言わなくなるはずです。」



そのクソ発言に、数人の大臣が「その通りですね」とごまをすりながらいった。アイツらは敵だと一瞬で判断ができたから、そいつらの顔と名前をしっかりインプットしておくことにした。



「武力でおさえつけることに、何の意味があるんだ。」



するとじぃじは厳しい顔をしてクソ王子をみた。その顔があまりにも怖かったから、思わず背筋がピンと伸びる感覚がした。



「武力でおさえつけて恐怖を与えても、それはバネになっていつか反発に変わるだけだ。それでは何もよくならない。誰も幸せにならない。」

「ですが…。」

「イグニア。お前はなんのために政治を行うんだ。」



クソ王子の話を中断させて、じぃじは言った。部屋にいる全員が、その様子を固唾をのんで見守っていた。



「上に立つ者の、勤めだからです。」

「それは違う。」


クソ王子の言葉を、じぃじはビシッと否定した。そして大臣たちみんなの方をみて、「いいか」と言って注目を改めて集めた。



「わしらのつとめは国民を幸せにすることだ。それを絶対に忘れてはいけない。」



もうほんと、この人が日本にいたとしたら、最短で総理大臣に就任してもおかしくない。っていうか就任してほしい。


どこまですばらしい王様なんだって心の底から感動した。クソ王子はそれを聞いて何も言わなくなって、王子派のクソ大臣たちも、一気に言葉を失った。



「リア。」



するとその時、唐突にじぃじが私を呼んだ。

もしかして空耳かなと思って顔をあげると、じぃじはこちらを見て、とても穏やかな顔をして笑っていた。



「こっちに、来てくれるかな。」



えぇ…。

大臣たちの驚いた顔が、一気にこちらを向いた。


驚きすぎて私は固まっていたけど、パパがそんな私を「リア」と呼んで、前に行けと促してきた。



ねぇ、前世のお父さんお母さん。

私、えらいことになってるけど大丈夫かな?

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