第51話 いや、弟どうした!
それからもその部屋では、誰も話そうとしなかった。思わずその空気に飲まれそうになったけど、私は負けずに目が合った大臣全員にあざとさアピールを続けていた。
あざとく生きんのも、全然楽じゃないな。
だんだん疲れてきて会議が始まる前に帰ってしまおうかと無理なことを考えていると、ドアを勢いよくノックする音が聞こえた。
「イグニア王子が入られます!」
げげげげげぇ!!!!
アイツくんのぉ?!???!?!
よくよく見てみると、椅子は大臣のものが8個と、王様のもの。その他に2つ、豪華なものがおいてあった。そう言えば王様の子供は2人兄弟って聞いてたから、あのクソ王子ともう一人、その弟もここに来るはずだ。
えええ~、マジ無理。
あんなセクハラパワハラDV最低最悪男に会うくらいなら、ワッフルなんて断ってしまえばよかったぁああ!!!!!
私の心の叫びなんて聞こえるはずもなく、勢いよく空いたドアからあのクソ男が登場した。クソ男は部屋に入って私たちをギロっとにらんだあと、すぐに目をそらして椅子にドカンと座った。きもい。
「リア。」
するとそれをみて、パパが椅子から立ち上がった。絶対に近づきたくないのにパパは私の手を引いて、あの男の後ろまで歩いて行った。
「イグニア様。」
そしてパパはあろうことか、その男に丁寧な敬礼をした。ふざけんなよと思いながらも、私はいい子なので空気を読んで作法をしてやった。
「昨日は娘が、大変失礼いたしました。」
「申し訳、ございませんでした。」
絶対いつか、お前から私に謝らせてやる。
空気を読んで謝りながらも、心の中ではそんな決意を決めた。
こっちが一大決心をして言っているなんて考えもしないのか、クソ王子は私たちの謝罪を無視した。
ざっけんなよ、まじで。見てろよお前、いつかぶちのめす!
覚えてろ。と最弱敵キャラみたいなことを心で言いながら、私はまた丁寧に作法をした。パパが帰りにさりげなく頭を撫でてくれて、きっと同じ気持ちなんだろうな、と思った。
「失礼いたします!」
するとその時、外から大きな声が聞こえた。そのあとすぐに重そうな扉が開いたと思うと、入口からは、予想もしていなかった大好きな人が登場した。
「ジルにぃ!」
私は思わず、その人の名前を呼んでしまった。
ジルさんは私の言葉をとりあえず無視して王子の元に向かって、見たこともない位ビシッと敬礼をした。
「昨日は弟が、大変失礼いたしました。」
「どうしてお前が。」
クソ王子はすごい迫力でそう言ったけど、ジルさんはキレイな姿勢を崩さなかった。その後ろ姿が凛々しくて、めちゃくちゃかっこよかった。
「父が不在のため、急遽代わりに出席させていただきます。」
そうか。ゾルドおじさんも大臣の一人なのか。
私が納得している間にクソ王子も「そうか」と無難な返事をしたから、ジルさんはもう一度敬礼しなおして、今度はくるっと体を反転させた。そしてまたすごく凛々しい姿勢で私の元まで歩いてきた後、私の目の前でしゃがんで、王子や大臣たちには見えないように私の頬に手を添えた。
「リア。ただいま。」
好き。
思わずそう言いそうになったのを飲み込んで、私は笑顔で「おかえり」と伝えた。するとジルさんはまた凛々しく立ち上がって、空席に堂々と座った。
するとその時、私たちが入ってきたのとは別の扉が開いた。
あっちにも入口があったんだと思って注目していると、そこから少し猫背気味の男の人が部屋に入ってきた。
「す、すみません。お、おおそくなりましたっ!」
見るからにおどおどしている男の人は、何度も噛みながら言った。王族に仕える執事さんでもこんな人がいるんだとぼんやり眺めていると、部屋にいた全員が、勢いよく立ち上がった。
「マージニア王子、お久しぶりです。」
え、えぇ?!?
あれ、あのクソ王子の弟?!?!?
似ても似つかんし、
王子にしては腰が低すぎんだろぉ!!
心の中で芸人さんばりのツッコミを入れながらも、私も急いで姿勢を正した。すると王子はおどおどしたまま「や、やめてください」と言って、そのままの様子で自分の席に着いた。
座ってからもマージニア王子は落ち着きなく周りをキョロキョロしていた。クソ王子は弟を見て鼻で「フッ」と笑って、目も合わせようとしなかった。
ねぇ、じぃじ。
あんたの息子、極端すぎるでしょ。
次期王様になる人たちなのに、どちらも全くそれにふさわしくは見えなかった。私は自分が成長した後のこの国が心配になって、大きくため息をついておいた。
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