第50話 順調にあざとく生きていきます!

「リア、起きれるかい?」

「ん…。」


目を覚ますと、あたりはすっかり明るくなっていた。まだしっかりと開かない目をこすりながら体を上げると、体のそこら中が痛む感じがした。



あのクソ王子、まじでやってくれたな。覚えてろ。



寝起きで言うセリフじゃないことを心で思っていると、どこかで聞いたことがあるセリフのような気がした。どこで聞いたんだろうと頭の中を検索していると、ママが「早く!」と言って私たちをせかした。



「ほら、リア。着替えて!」

「えぇ~?もう行くのぉ?」

「当たり前じゃない!もうお昼過ぎてるのよ!」



どうやら私は疲れていたってのもあって、昼まで寝てしまったらしい。もっと早く起こしてくれればよかったのにという文句をなんとか飲み込みながらベッドから降りると、ママはわたしが持っているドレスの中でも一番白くてキレイなものを持ってきて、魔法みたいに私に着せた。



「まぁ、本当に天使みたい。」


親ばかなことをいいながら、ママは最速のスピードで私の髪を結んだ。私は着せ替え人形みたいに微動だにせず、支度のすべてをママに任せた。



「リア、行けるかな。」

「いけるいける!急いで!」

「はぁ~行きたくないよぉ~。」



あの事件から1日も経ってないのに、王城に足を踏み入れる事すらおっくうに感じられた。でも私の小言なんて耳にも入れずに、ママは追い出すみたいにして家から私たちを出した。



「気を付けてね。」

「今日は俺がいる、大丈夫だよ。」



それでも私たちが行くときには、ママはとても心配そうな顔をしていた。そんな顔するくらいなら家に居させてくれってわがままを言いたかったけど、これ以上困らせないためにも、おとなしく王城に向かうことにした。



「リア、今日は難しいお話をするんだ。」

「うん。大臣さんがくるんでしょ~?私寝ちゃいそう。」



本当に寝てしまいそうだって思うくらい、全く疲れが抜けてなかった。

でもパパは私の言葉を聞いて「ダメだよ」と言って、困った顔で笑った。


「王様がどうしてリアを呼んだのか分からないけど、分からなくてもとりあえず聞いていてほしい。」

「うん、わかった。じゃないとワッフルせんべいもらえないかもしれないしね!」


いやなものはいやだけど、お給料が支給されるんだからその分くらいは働かないといけない。だらけたい気持ちに何とか喝を入れて、どんどん迫ってくる王城を見つめた。




「お待ちしておりました。」



王城に着くと、いつも通りミアさんが待っていてくれた。でもミアさんまで申し訳なさそうな顔で私をみるもんだから、私は出来る限りの笑顔を作って「ごきげんよう」とあいさつをした。



「それではどうぞ。」



それからミアさんがスムーズに通してくれたのは、前王様に会ったのとは違う場所だった。でもやっぱりドアはとても大きくて、子供の手では開けられそうにもないくらい重そうだ。


それだけここに入るにはハードルがあるってことなんだろうけど、私は6歳にして、ここをくぐりぬけてしまう。



――――私よ、やっぱりやりすぎだと思う。



自分自身に問いかけてみたけど、もうそれは遅い。

私は昨日王様の前にいたときみたいに決意を固くして、パパの手を強く握ってその部屋へと足を踏み入れた。



「失礼いたします。」



部屋に入って、パパはいつも通りの挨拶をした。それが終わったのを見て私も丁寧に腰を下げて、初めて会う大臣の皆様の顔を見た。



部屋の中にはすでに、7人の大臣がいた。

みんな想像通りの"大臣"って感じのおじさんで、パパよりもずっといい服を着ていた。


その大臣のおじさんたちは、私たちをすごく厳しい目で見ていた。想像はしていたものの、風当たりの強さに今すぐ引き返したくなる気持ちを何とかおさえて、私はパパの横を堂々と歩いた。



――――ん、待てよ。



昨日クソ男に会ったせいで忘れかけていたことを、私はそこで思い出した。



――――そうだ、私、天使なんじゃん。



大事なことを忘れていた。

私がそんなことを考えている間にパパが用意されている席に遠慮がちに座ったから、私もその椅子に座った後、まだ怖い顔でこちらを見ている大臣の一人のことを、見つめてみることにした。



私と目が合った大臣は、私が目をそらさないのを見て少し動揺した。それでも私は視線を外すことなく、うるうるした瞳で大臣を見つめて、最後はにっこりと笑ってみせた。



「…っ。」



そこで大臣が、私から目をそらした。その頬が緩んでいるのを、私は一瞬たりとも見逃さなかった。



――――コレコレ。待ってましたっ!

     6歳も順調に、あざとく生きていきます!

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