第49話 あの時の天使さん、本当にありがとう


その話の後すぐに、パパはお城に呼ばれた。そして飛ぶようにしてやってきたパパに、王様は深く頭を下げた。



「ゴードン、大事な娘に…。何と謝っていいか、言葉が見つからん。」

「王様、やめてください…っ!この子が走り回ったせいですので…。」

「いや、謝らせてくれ。じゃないと気が済まん。本当に申し訳なかった。」


パパが断っても、王様は何度も謝った。しばらくすると王妃様もパパの元に来て、何度も何度も謝ってくれた。



「じぃじ、ばぁば。リア、もう痛くないよ?」



いつまでも大人のやり取りが止まらないから、私が間を割って言った。なのに3人とももっと申し訳ない顔になったから、作戦は失敗だなと思った。



「それでは明日、改めてお伺いいたします。」

「ばいばぁい!」



最後まで、二人はとても申し訳なさそうな顔をしていた。そんな顔をさせている事に罪悪感を抱き始めた私は、明日に向けて早く寝るためにも、さっさとお城を後にすることにした。



「リア。」



王城を出てしばらく歩いたところで、パパが足を止めた。驚いて私が顔をあげるとどうじに、パパはしゃがんで私の両肩を持った。



「ダメじゃないか、あそこは家とは違うんだって言っただろ?」



慰めてくれるんだと思ってた。

じぃじが何度も抱きしめてくれたからもうほとんど怖いって気持ちは消えていたけど、パパに会って安心していた自分がいたのも事実だった。なのにパパに怒られたことに動揺して、私は小さい声で「ごめんなさい」と言った。



「もうパパたちに会えなくなってもおかしくなかったんだ、王様のご慈悲がなければ、きっとそうなってた。」

「パ、パパ…。」



パパの様子がおかしくて、少し怖くなった。この世界に転生してからパパに怒られるのは初めてのことで、私はただオロオロとしてその場に立ちすくんでいた。



「本当に、気を付けるんだ。」

「う、うん。リア、今度から…」

「リアがいなくなったら、パパは…っ!!」



パパは泣いていた。それは私がはじめてみるパパの涙だった。その涙を見て固まっていた心が溶けていく感覚がして、私の目からも涙があふれだしていた。



「パパ、ごめんね…っ。ごめんね、リア…っ。」

「お前は謝るな、悪くないんだ。」



さっきとは矛盾したことを言って、パパは私を抱きしめた。私は出来る限りの力でパパを抱きしめ返して「ごめんなさい」を繰り返した。



「パパが悪い、そこに居られなかったパパが、悪いんだ。」

「ちが…っ、違うよ…っ!」

「違わない。パパのせいだ。」



パパは苦しそうに言って、体を離した。そしてガーゼみたいなものをつけてもらった私の頬を手で包み込んで、もう一回「ごめんな」と言った。



「守ってあげられなくて、ごめんな。」

「ううん。」



いつだって、パパは私を守ってくれてる。


パパがもしすべてを自分の手柄だと言っていたら、きっと私は王城に呼ばれることはなかった。もし王城に呼ばれなかったら、王様があの時助けてくれることだってなかったかもしれない。


あれは全部、パパがいつも守ってくれている、そのおかげだ。



「リア、いい子にする。もう痛くない。大丈夫。ごめんなさい。」



伝えたいことがたくさんあって、私は本当に子供みたいに言いたいことを羅列して言った。するとパパはそこで初めて「フフッ」と笑って、頭を撫でてくれた。


「帰ろっか。」

「うん。」


パパはいつも通り私を軽々と抱き上げて歩き出した。

私は家に着くまで一切力をいれることなく、そのぬくもりにすべての体重をゆだねた。



「リア…っ!!!!」



家に着くと、玄関前でうろうろしていたママがこちらに駆け寄ってきた。そしてパパごとしばらく私を抱きしめた後、悲しそうな顔をして頬をさすってくれた。



「アシュリー。リアは明日も王城に呼ばれてるんだ。早く寝かせてあげよう。」

「ええ?!王城に?!」


ママはまた大げさに驚きながらも、家にはいるよう促してくれた。帰りなれたところに帰ると力が一気に抜ける感じがして、もう立てそうもないと思った。



「もう、ベッドに行こうか。」



パパは私の様子を見て、そのまま私の部屋に連れて行こうとした。私はそんなパパの腕をギュっと握るために、初めて力を入れた。



「あのね。」

「ん?」

「一緒に、寝てほしいの。」



目をつぶると、あの時の光景がよみがえってきそうだと思った。こんな夜はいつもメイサがいてくれたけど、そんなメイサはもう家にいない。心細い気持ちを腕に込めてそういうと、パパはニコッと笑った。



「3人で寝ようか。」



パパはそう言った後、パパとママの寝室に私を連れて行ってくれた。そしてすごく優しくベッドに上に私を乗せると、そのまま自分も寝転んで、また抱きしめてくれた。



「痛くない?」



後ろからベッドに乗ってきたママが、優しく頭を撫でながら聞いてくれた。私はママに笑顔で「うん」と言って、ママの手を握った。



「パパ、ママ。」

「ん?」

「リア、このお家に生まれてよかった。」



前世は本当についていなかった。

ある日出会った男と結婚する予定だったはずが、まさかそれは自分が理不尽な死にあう運命の始まりで、結局私はそれから逃げた。

あの天使の言う通り、かわいそうな終わり方をしたからこそ、きっと次はいい人生が待ってると思った。転生先は想像したような貴族の暮らしでも無敵の勇者でもなかったけど、この暖かい家に生まれることができて、本当に良かった。



――――あの時の天使さん、本当にありがとう。

     胡散臭いって言って、ごめんね。



「リア、それはパパとママのセリフだよ。」

「生まれてきてくれてありがとう。私たちの天使。」



ママがそう言っておでこにキスをしてくれたのを最後に、私の記憶は徐々に薄れていった。うとうとしている時にママが「あのクソ王子!!」と汚い言葉を言ったように聞こえたけど、それは聞かなかったことにしてあげた。

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