六歳 航路を整備する

第41話 パパが忙しい理由、探ってみます!


ついに小学校入学の年齢、6歳になりました!

あれからメイサとレオンさんはというと、何回かデートを重ねて順調に交際をすすめて、すぐに結婚っていう運びになった。


身分の差があったから心配はしていたけど、話を盗み聞ぎするところによると、ゾルドおじさんが何とかしてくれたらしい。もしかしてパパがあそこでおじさんにお願いしたのもそのためだったのかなと思うと、パパってとことんどこまでも考えが及ぶ人だなって感心する。



新生児の時は臭いとか言って嫌ってしまったくせに、6歳になっても私のパパっこっぷりはとどまることを知らない。それにパパだって同じように、親バカが止まらないみたいで、私たちの相思相愛っぷりったらママが呆れるくらいまで膨れ上がっている。




「メイサ~~~~っ!」

「リア様、ごきげんよう。」



メイサが引っ越すとき、私はあの時よりずっと泣いた。最後の夜は二人で抱き合って寝て別れを惜しんでみたけど、引っ越してからも私たちはカルカロフ家で毎日会っている。


そしてその上メイサは、私たちが元住んでいた家に二人で住み始めた。私はカルカロフ家でメイサに会うに飽き足らず、元の家に頻繁に遊びに行っている。



「おい、バカリア。うっせーぞ!」

「ベーーーーッ!」



カルカロフ家で勉強するという事は、このクソガキが一緒にいるという意味も等しく含まれている。11歳になってもクソガキはクソガキらしく毎日こうやって私に暴言を吐いてきて、私も毎日飽きずに応戦を繰り返している。



「ほら、二人とも。始めますよ。」

「「は~ぁい。」」



私は今日も元気に、二人と一緒に勉強を始めた。





「ねぇ、メイサ。こっちの端っこの街は、ノールって言うんでしょ?」



相変わらず暇な時間も多かったけど、前世で言う社会の勉強をしているときだけは真剣に取り組んでいた。というのも、最近またパパがすごく忙しそうにしていて、その理由を探ろうとしているからだった。

前の家に住んでいた時は家で仕事をしていることも多くて、盗み聞ぎなんかしているとすぐに理由をつかめた。でも最近家で仕事をしないどころか、帰ってもこないからなかなか確信をつかめていない。


何か理由をつかむにはここしかないと思って、不自然にならないような範囲でメイサには最近の社会情勢とかを聞くことにしている。



「そうです。リア様は覚えが本当に早いですね。」

「へへっ。じゃあさ、こっちは?」

「そちらはキルエアールという街です。」



ほうほう。地図でいうと北の最果ての街が、キルエアールっていうのね。覚えにく。


そう言えばパパの会話でも、そんな街の名前が出てきた気がする。覚えにくい分インパクトがあったってのもあって、しっかりとその名前が頭に入っていた自分を褒めてあげたくなった。



「じゃあ、こっちは?」

「ノバスリーという街ですね。」

「あ、それ、父様と兄様が行ってるとこだ!」



南の最果てはノバスリーねと頭にインプットしながら聞いていると、アルが嬉しそうに叫んだ。


そう言えば最近、二人の姿を全く見ないのはこの街にいないせいか。

タイミングが合わないだけかなと思っていたけど、二人が遠征しているんだとしたら会わないのもおかしくはない。でも今度は、二人がどうして最果ての街に遠征をしているのかという理由が気になり始めた。



「どうして遠くに行ってるの?」



こうやって気になったことを素直に聞けるのは、子供の特権だと思う。まだ6歳だから遠慮することなく特権を使い続けているけど、これって何歳まで使えるんだろう。


前の人生では自然と気が使えるようになっていったのかもしれないけど、いつから気を使わなければいけないかって逆算するのは絶妙に難しい。でもとりあえず今はそんなことを考えても仕方ないかと思っていると、アルが「お前しらね~の?」と得意げな顔をして言った。



「ぼうどうが起きてるからだよ。」

「ぼうどう?」



アルの言った"ぼうどう"は"暴動"なんだろうけど、どう考えてもそれはひらがなだった。その証拠に私が「それなに?」と聞くと、アルはけろっとした顔をして「わからん」と答えた。



「"暴動"とは、不満がある人たちが声をあげること、ですかね。」

「不満?」



メイサは"暴動"をすごくかみ砕いて、そして優しいニュアンスで言った。暴動なんてもっとひどくて残酷なものなんじゃないかって想像はしてみたけど、言葉の意味をしっていてもそれに遭遇したことがない私では、どんなものなのかなんて説明がつけられなかった。



「私たちが住んでいるこの王都"レルディア"は、周辺の都市だけじゃなく、隣の国のテムライムからもたくさん食べ物が運ばれてきます。」

「パパのお仕事だ!」



メイサは優しく笑って「はい」と言って、私の言葉を肯定した。



「リア様のお父様の活躍でずいぶん道も整備されましたし、移動も便利になりました。それでもやっぱりレルディアと比べるとまだまだで、値段がすごく高いんです。同じ国の中でもそうやって差が生まれていることに、反発している人たちがいるんです。」



「ちょっと難しいですかね」と付け足して、メイサは言った。



いや、めちゃくちゃ分かりやすいですって思いながら、「うん、わかんない!」と表面上は言っておいた。



「おい、バカリア。バカのくせに難しいこと聞くな!」



11歳のくせに6歳と一緒に勉強してるお前にだけは絶対言われたくないと、精いっぱい怖い顔をしてアルをにらみつけておいた。



なるほど。やっと少し理由が見てきた気がする。私は話を切り替えて先へ進むメイサの言葉を垂れ流すようにして聞いて、どうやって今の状況を解消したらいいのか真剣に考え始めた。

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