第37話 カルカロフ家でお食事

それからも変わらず、私たちはカルカロフ家に通った。

メイサとレオン兄ちゃんは会うたびに挨拶を交わしていて、その度お互い顔を赤らめていた。


心の中のおばさんが「こーくはくっ!こーくはくっ!」と叫んでいたけど、そもそもこの世界の常識が付き合ってから結婚っていう風なのか、もういきなり結婚ってなるのかすら分からない私には、これ以上何もできないように思えた。



そしてメイサの頑張りもあって、アルの学力はずいぶん向上した。今までは勉強ができないことをずっとバカにしていたけど、訓練をしている痕跡を見てからは、あんまり馬鹿にしないようにしている。


それでもクソガキであることには変わりないからムカつきはするんだけど、最近少しはアルのこともまともな目でみてあげることにした。



「リア、そろそろ行くよ。」

「はぁい。」



今日はアルの学力がずいぶんまともになったお礼にと、家族全員でカルカロフ家にお食事のお誘いを受けている。どうやらアルやジルにぃのお母さんは早くに亡くなってるみたいだったから多分私からしたら見知った人たちしかいないんだろうけど、初めて行くママは朝からソワソワとしていた。



「ママ、今日もかわいいっ。」

「あ、ありがとう。リア。」


メイサも随分慣れてきていたから、今日はママの手を握って歩いてあげた。

私も十分に天使だけど、ママだって大人になっても天使みたいな見た目をしている。だから笑って座っているだけで大丈夫ってのは分かっているんだけど、かといって緊張するなというのは無理な話なんだと思う。



「ねぇ、ママ?」

「なぁに?」

「ゾルドおじさんはね、すごい怖い顔なんだよ。」

「こら。」



事前に前置きをしておいた方が心の準備が出来ると思って言ってみると、ママに怒られてしまった。でも私はそれを無視して、「でもね」と話を続けた。



「本当は、すごく優しいんだ。」



きっと今日も、おじさんは怖い顔をして座っているんだとおもう。慣れていないママはそれを怖いと思うんだろうけど、心の中はきっと優しい気持ちでいっぱいの人だ。この間抱きしめてみてそれを十分に理解した私がママにそう説明すると、ママはにっこり笑って「そうなのね」と言った。




「本日はお招きいただき、ありがとうございます。」



カルカロフ家に着くと、おじさんが直々にお出迎えしてくれた。パパもママもメイサもいつもより数倍丁寧にあいさつをしていたけど、私はおじさんを見てすぐに抱き着いた。



「おじさん、今日はなに食べるの?」

「リアッ!」


パパはいつもは見せない顔で私を叱った。でもゾルドおじさんは片手でパパを止めて、「見に行こうか」と私に言った。



「さあ、こっちだ。」



おじさんは私を抱っこしたまま、会場へと私たちを案内してくれた。よく見るとおじさんの鎖骨辺りには大きな傷があって、それはきっと戦争をしていたころの傷跡なんだろうなと思った。



「いらっしゃい。」



会場は何十人も人が入りそうなほど広くて、真ん中には大きなテーブルに椅子が人数分並んでいた。すでに部屋にいたジルにぃはにっこり笑ってそう言って、私たちのところまでアルを連れて歩いてきた。



「アシュリーさん、初めまして。ジル・カルカロフと申します。」

「アラスター・カルカロフです。」



ジルにぃもアルも、ママに丁寧にあいさつをした。ママはそれ以上に腰を低くして挨拶を返して、「本日は本当にありがとうございます」と言った。



「敬語はおやめください。僕たちのような若輩者に。」

「でも…。」

「そうして欲しいんです。その方が落ち着きます。」



ジルにぃは相変わらず気持ちのいい笑顔でそう言った。ママは渋々「じゃあ…」と言っていたけど、多分これからも敬語で話すんだろうなって思った。



「それでは、お座りください。」



ジルにぃはそう言って、自分の席に着いた。

パパやママやメイサも使用人の人に案内されるがまま席について、私はというとおじさんが席に座らせてくれた。


後ろの方をチラッとみると、レオン兄ちゃんが今日は部屋の警備を担当していた。目を合わせたレオン兄ちゃんとメイサが小さく挨拶をしたのを、私はまた微笑ましい気持ちで見つめていた。



「おい、リア。残さず食べろよ。」

「アル。」


いつも通りクソガキが私をからかうと、ゾルドおじさんは一言でアルを黙らせた。私は得意げな顔をして笑って、バレないように「ベーッ」としておいた。



この世界のテーブルマナーは、元住んでいた世界とあまり変わりがない。礼儀作法は小さい頃からママやメイサに叩き込まれてきたし、元の世界でだってしっかりと学んできた。


でも本格コース料理が運ばれてきそうな雰囲気を感じるのは久しぶりで、私はワクワクしながら、食事が到着するのを待った。

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