第32話 クソガキと再会


そして次の日、私は2回目の王城の門にたどり着いた。2回目だから緊張もほとんどすることなく、門番のおじさんたちにもあざとく振舞った。


でもメイサは、私以上に緊張していた。

それもそうだ、だってメイサはこの世界ではカースト制度の一番下に居て、王城に入るなんて、想像もしていなかったと思う。


メイサの方を見つめてみると、両手を握って少し震えているように見えた。私はそんなメイサの腕の服を手で2回引っ張って、自分の左手を差し出した。



「行こっ。」



こんなとこ、来るもんじゃないよね。わかる。

平凡な商人の娘として生まれて、平凡で幸せな人生を歩んでいこうと思った。なのになぜか私は今日2回目の王城に足を踏み入れていて、メイサまでその道に引き込んでしまった。



本当はパパをどうにかしてあげようって思っただけなのに。

ごめんね、メイサ。



申し訳ない気持ちを少しでも伝えようとすると、メイサはいつもの優しい顔で笑って「はい」と言ってくれた。




「お待ちしておりました。」

「初めまして、メイサ・グロリアです。」



今日はミアさんではなく、カルカロフ家の執事が私たちを出迎えてくれた。私たちはそれぞれ丁寧にあいさつをして、その人の後をついて行った。


入る門は一緒だけど、カルカロフの家は王城とは違う道に行ったほうにあった。どんだけこの敷地広いんだよと思いつつ進んでいくと、お城まではいかないけど、私が今住んでいる家の3倍くらいの大きさの建物が見えた。



「わぁ~!」



その建物の周りには、美しい庭が広がっていた。キレイに整えられた庭の真ん中には噴水があって、見たこともないキレイな花がそこら中に咲いていた。



「キレイだね、メイサ!」

「本当ですね、リア様。」


メイサもキレイな目を輝かせて、その美しい庭を見ていた。連れてきたことを申し訳なく思っていたけど、こんな目をしてくれるならよかったのかもしれないと思いなおした。



「こちらです。」


そのまま使用人の人は、家の中へと案内してくれた。すると入ってすぐのところにはジルさんがいて、私を見てにっこりと笑ってくれた。



「リアちゃん!また会えたね。」



私は敵ばかりの場所で味方を見つけたみたいな気持ちになって、走ってジルさんのところに向かった。そしていつも通り作法をした後、今度は思いっきり彼に抱き着いた。



「ジルにぃにっ!」

「リア様、いけません!」

「いいんだよ。」



メイサは私を止めようとしたけど、ジルさんが笑顔で許してくれた。本人から正式に許しを得たから、これからジルさんのことはジルにぃと呼ぶことに決めた。


私はそんな大胆で失礼なことを考えているのとは反対に、メイサはぺこぺこと頭をさげながら自己紹介をしていた。



「弟のために、ありがとうございます。」

「いえ、私なんて…恐れ多いです。」



ジルにぃは私を抱っこしながら、丁寧に言った。イケメンだし優しいし礼儀正しいし、なんてすばらしい青年なんだと思った。



「ゴードンさん、父のわがままを聞いていただいたみたいで…。ありがとうござました。」

「そんな、いいんだよ。こちらとしてもすごくありがたいお話だ。」



そう言ってパパは、ジルにぃと握手をした。

そういえばパパは、自分より身分が高いジルにぃにため口を使っている。多分ジルにぃがそうして欲しいって言ったんだろう。身分の差をあまり気にしないってところからしても、ジルにぃは本当にいい人なんだなと思った。



「今日はご挨拶だけさせていただきに参りました。」

「はい、聞いてます。こっちに。」



そう言ってジルにぃは使用人に「そこでいい」と片手をあげて合図をして、自らアルの部屋へと案内してくれた。私はお言葉に甘えてずっとジルにぃに抱き着いたまま、豪華すぎる家の中をじっくりと観察した。



「アル、入るよ。」



ジルにぃは大きな扉の前でそう言って、ノックもなしで扉を開けた。すると部屋の中ではクソガキがもじもじと、相変わらず愛想の悪い顔をして立っていた。



「こちら、メイサさん。お前の新しい先生だ。」

「初めまして、アラスター様。メイサ・グロリアと申します。」



メイサはいつも通り深く腰を下げて、丁寧にあいさつをした。するとアルは顔を下に向けたまま、何も言わなかった。



「おい、アル。お前は挨拶も出来ないのか。」

「アラスター・カルカロフです。」



ジルにぃに怒られて、アルは聞こえるか聞こえないくらいの小さな声で言った。全く精神年齢の低いガキだなとあきれて、聞こえない程度のため息をついた。



「明日からどうぞよろしくお願いいたします。」



メイサがそう言ってもアルが何も言わないから、見かねたジルにぃにアルは無理やり敬礼をさえられた。



メイサ、私はとってもいい子だけど、こいつはすごく手ごわそうなクソガキね。



前世ならげんこつくらいしてやってもいいのにと思いながら、私は今後のメイサのことが心配になって、もう一回聞こえないようにため息をついておいた。

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