第31話 私が出来すぎてメイサまで召喚されます。

メイサと勉強を始めて2か月くらいが経った。

色んなことがだんだんわかるようになってきて、自分自身すごく暮らしやすくなった感じがある。


今まで勉強ってやらされるものでしかなかったけど、でもこうやって物事が分かることって、楽しい事なんじゃないか。


34年間でやっとこんな当たり前のことに気が付いて、私はむしろ意欲的に勉強を続けていた。



「リアちゃん、おはよう!」

「ベンおじさん、ご機嫌よう。」



最初はなれなかったここでの生活にも、最近はずいぶんと慣れてきた。近所の人たちも私の天使さにメロメロになっていて、あざとさのランキングで言ったら私はこの国一番なんじゃないかって思っている。



「今日もメイサとお出かけかい?」

「うん!今日はね、お買い物だよ!」



どんな人にも愛想よく接して、とにかく笑顔を振りまいた。そうしていると暮らしやすいってのもあったし、何よりここをプレゼントしてくれた王様のために、そうしなければいけないと思った。


それは忠誠心っていうより、日本という国で生まれ育った私に染みついた"礼儀"みたいなものだった。それに階級が上の人たちの場所で暮らしているんだから、少しでも悪い印象をつけたら暮らしにくくなってしまう。


外に出るときは出来るだけいい子で賢い女の子を演じて、私は今日もニコニコと街を歩いた。




「ただいま!」

「パパ、おかえり~!」


そしてこの家に越してから職場が近いってこともあって、パパが帰ってくる頻度が格段にあがった。それでも私は毎日パパが帰ってくると玄関まで走って迎えに行って、大げさな愛情表現をするようにしている。


パパはいつも私を愛おしそうに、ギュっと抱き締めたまま軽々と抱き上げてくれる。その後いつもは自分の部屋に行って服を着替えたりするんだけど、今日はなぜかすぐにキッチンダイニングの方に向かっていった。



「メイサ。」



パパはママにただいまを言う前に、メイサの名前を呼んだ。おかしいなと思って首を傾げていると、メイサはもっと不思議そうな顔をして「おかえりなさいませ」と言った。



「メイサ、今度は君に召集がかかっている。」

「わ、わたしに、でしょうか?!」



メイサは私が今まで聞いた中で一番大きな声を出して言った。メイサの驚きように私も驚いていると、パパは笑って「うん」と言った。



「あんまりにも近所でリアがいい子だって評判になっているらしくて、その評判が城まで届いたんだ。教育が行き届いているってね。」

「い、いや…。」

「リアと一緒にカルカロフ家のアルの教育をしてくれないかって、騎士王からの依頼だよ。」



前王城であったカルカロフ家のこわ顔ゾルドおじさんは、この国で"騎士王"と呼ばれている。今は戦争なんかしていないから主に警察みたいな役割を果たしているらしいけど、昔その無敵さから隣国みんなに恐れられていたらしい。


そしてカルカロフ家は王家直属の、伝統的な騎士の家系だ。だからあの大きな王城の中に家があるらしくて、身分で言うとラグジュに相当する。



って偉そうに説明しているこれは、全部メイサから教えてもらったことだ。



「すごいじゃない、メイサ。」

「わ、わたしなんて…。リア様が優秀だっただけです。」



確かに、私は優秀だ。てへっ。

でもメイサの教え方は確かにとても分かりやすい。前の人生から合わせたらたくさんの先生と接してきた私だから、それは自信をもっていう事ができる。



「じゃあ、私もお城に行けるの?」

「うん、そうだね。これからは毎日お城にいって、アル君と勉強するんだ。」

「やったー!」


メイサが謙遜して断らないように、私が先に喜んで言った。するとメイサはまだ動揺した様子で、「本当にいいのでしょうか」と言った。



「頼むよ、メイサ。俺の顔を立てる意味でも。」


パパは優しい声でそう言った。

今まで渋っていたメイサだけど、パパの言葉を聞いてもう断れないと判断したのか「それでは…」と小さい声で言った。



どうやら私、優秀すぎてついにメイサまで影響を及ぼしたようです。


今はいい影響だからいいんだけど、一歩間違えたら悪い影響だって起こしかねない。これからはより一層気をつけなきゃいけないなと思いながら、まだ不安そうな顔をしているメイサを、「一緒にいこうね」と明るく言って励ました。

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