第30話 お勉強、始めます!


「おはようございます、リア様。」

「メイサァ~、眠い…。」



引っ越しの疲れからか、私は新しい場所でもコテッと寝てしまった。

次の朝メイサに起こされてもしゃきっと起きれないでいると、扉からママが入ってくるのが見えた。



「リア、起きて。」

「ママァ、おはよう。」



部屋に入ってきたママにハグをして、そのあと軽くほっぺにキスをした。するとママは優しく笑った後、「リア」と優しく言って私の頭を撫でた。



「あのね、リアにもそろそろ、お勉強を始めてもらおうと思うの。」

「おべん、きょう?」



え、まじ?私まだ5歳なのに?

義務教育なんてとっくにとっくの昔に終えて、年齢ももうそれを2週目まで終えたはずの私が、また勉強することになるなんて思ってもみなかった。


それに男が働くものっていう考え方がなんとなくあるこの世界で、女の私が勉強なんてするんだと思っていると、ママは私の言葉に「うん」と笑ってうなずいた。



「リアはね、とっても賢いでしょ。だから早くからお勉強した方がいいって、パパもママもそう思うの。」



ああ、やりすぎたかな。


まだ寝て起きて遊んでって生活を謳歌したかったのに、ちょっと頑張りすぎたせいで勉強を始めることになりそうだ。昨日まで頑張ってよかったと思っていたはずなのに、やっぱりやめておけばよかったと矛盾したことを考えた。



「メイサがお家で教えてくれるから、大丈夫よ。」

「うん!」



まあでも、これからも暮らしを便利にしていきたいとか意識の高いことを考えている私にとって、この世界のことを少しでも多く知ることはとても大切な気がする。勉強が好きなタイプではないけどママが嬉しそうに言うから仕方なくうなずいて、ひとまず朝ご飯を食べた。



「それでは早速今日から、文字を書く練習をしましょうか。」



朝ご飯を食べた後、早速本を広げてメイサが言った。



「リア、書けるよ。」



本当は出来ないふりをして、少しずつ学んで行こうかとも思った。

でもみんなが私のことを"天才"だと思ってくれているなら、それを利用しない手はない。こんな初期段階に時間をかけているほど私も暇じゃないと思って、私はスラスラと紙に文字を書いてみせた。



「リア様、どこで…。」

「だってメイサがたくさん本を読んでくれたじゃない!」



メイサの本を見て文字を覚えたのは事実だ。だからウソをつくことなくそのまま伝えると、メイサは少し感動した顔をして「リア様、本当にすごいです」とほめてくれた。



「で、では…。次は数の勉強をしましょうか。」



さすがにそこからは知っているふりはできなくて、私は小学校1年生レベルの算数を必死でやっていくふりをした。

そしてそれから毎日数時間、前世で言う算数や国語、理科や歴史の勉強をメイサが根気よくしてくれた。最初は面倒くさいと思っていた勉強だったけど、勉強したおかげで少しずつこの世界のことが分かり始めた。



まず、私たちみたいに耳のとがった種族は、エルフと呼ばれている。アニメとかで見るエルフっぽい見た目をしているなとは思ったけど、本当にそうだと知って驚いた。だとしたら魔法くらい使えていいもんだと思ったけど、それはただの種族名であって、私の知っている"エルフ"とは似て非なるものだと知った。


そしてメイサのように耳が人間のように丸い種族のことを、ラリーという。見た目が違うだけでエルフとの差は特になくて、いうなれば日本人とアメリカ人みたいな、そういう違いだと思う。



そしてこの国、リオレッド王国は、昔パパの地図で見た通り、楕円形みたいな島国だ。そして隣のテムライム王国とルミエラス王国も同じく島国で、テムライム王国とは昔から交流があるらしくて、その影響もあって海路は大きく発展してきたらしい。



さらに身分の階級としては、一番高い位が王族、そしてその次に位置する騎士や貴族はラグジュと呼ばれている。そして私たちはその次のマールンという階級に位置していて、市場で働いている人たちやメイサみたいな待女は、イヘンミと呼ばれているそうだ。



「それじゃ、街で座ってた人たちは、イヘンミなの?」

「いいえ、あの人たちは"階級外"と呼ばれています。」



いや、急に呼び方雑かよ。

よっぽど私が変な顔をしていたのか、メイサは少し困ったように笑って、「あの人たちはですね」と話を続けた。



「昔戦争で負けたり商売がうまくいかなかったりして、お家がなくなったって人がほとんどなんです。」

「へぇ~。」



ようは破産したり覇権争いに敗れたりして、ホームレスになってしまった人たちということか。

理由は分かったけど、人口不足だって言ってるんだから、そういう人だって雇って働いてもらった方が絶対いいのに。



その方法は慎重に考えないといけないけど、やっぱりいつかは何とかしないとなと、使命感一杯にそう思った。



「リア様、本当に覚えがいいです。5歳とは思えませんね。」

「へへへ、そう?」



だって、34ですからね。

って思ったけど、私は34歳の理解力に5歳の脳みその吸収力を持った、最強の頭脳の持ち主となっていた。


あっちにいた時は覚えが悪くなったなんて嘆いていたのに、どんどん覚えられることが楽しくて、昔よりもずっと、勉強が楽しく感じられていた。

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