第24話 あの日憧れたお姫さま


門を入ってからも、お城まではずいぶん距離があった。パパに抱っこしていこうかと言われたのを一度は断ったけど、これでは王様に会うまでに疲れてしまいそうだと思って、途中で抱っこをせがんだ。



「リア、もうそろそろ降ろすよ。」



パパは城までもう少しってところで、私を降ろした。するとお城の方から絵にかいた執事って感じのお兄さんが歩いてきて、私たちに手を胸に当てて、何かポーズのようなものを取った。


そしてそれを見てパパも、同じポーズをした。

なるほどこれって、多分敬礼みたいなものか。即座にそう理解した私も真似して同じポーズをすると、二人は「ふふふ」と声を出して笑った。



「リア、これは男の人がやるものなんだ。」

「お噂通り、とても可愛らしいお嬢様ですね。」



それを聞いて一気に顔を赤くして、私はママに習ってきた作法で挨拶をした。すると執事さんはもう一回同じポーズをとって頭を軽く下げて、「初めまして」と言った。



「セイミア・マルクス・ウィルソンと申します。」

「せ、セイミア、マリュ、クシュ…。」


名前が長くて思わず噛んでしまった私に、執事さんはまたにっこり笑顔を向けてくれた。


「ミア、とお呼びください。」


最初からそう言ってくれよ。

笑われたことが恥ずかしくて心の中で悪態をつきながら、「ミア様、初めまして」とあいさつを返した。



「お待ちしておりました。こちらへどうぞ。」



そこからはミアさんが誘導してくれる後ろをついて、城の中に入った。パパはミアさんも知り合いみたいで楽しそうに会話をしていたけど、私の耳にはそんな会話全く耳に入らなかった。



「うわぁ…。」



お城の中は、前世の映画やドラマに出てくるような、ヨーロッパのお城みたいな造りをしていた。何もかもが大きくて広くてきれいで、そして壮大だった。



「パパ、お城って、すごいねぇ!」

「そうだね。大きいね。」



童心に帰って無邪気に言うと、パパとミアさんは私の様子を見てやっぱり微笑ましそうな顔をして笑った。最初は恥ずかしくて気になっていたはずなのに、次第にそんなことも気にしないで、我慢することもなくいちいちすべてに感動してみせた。



「ねぇ、パパ。」

「ん?」

「お城には、お姫さまも、いるの?」



本当に私が想像する通りの空間だったから、私は5歳の気持ちを取り戻して聞いてみた。するとパパはまたクスクスと笑って、「王妃様がいらっしゃるよ」と言った。



「わぁ、すごい!いるんだぁ!」



いつか憧れた、お姫様。そして前世で本当に子供だった時は、いつかなれると信じてやまなかった、お姫様。


転生したらそうなるのかもって思っていた位置取りではあるけど、今はあまりうらやましいとは思わない。始めてきたからお城だってすごくキレイで素敵に見えるけど、毎日こんな広い場所に居たら、寂しくなってしまいそうだ。



「お会いできるかもしれないね。」

「うん!会えるといいなぁ。」



でもシンプルに、どんな人なのかは興味がある。

優しくて温厚な人なのか、それともとっても意地悪な人なのか。どっちの可能性だってあると思う。


緊張はしつつも未知の世界に踏み込むことに関しては、少しワクワクし始めた自分に気づいた。パパに似て私ってすごくたくましいのかもしれないって思うと、なんだか心の底から勇気が湧いてくる感じがした。




「ゴードン様、アリア様。こちらで王がお待ちです。」



しばらく他愛もない話をしてお城の中を進んでいくと、お城の中でもひときわ大きな扉に到着した。

ミアさんはその扉の前でもう一度あのポーズをとって、少し頭を下げた。するとそれを合図にドアを守っていた騎士の方たちが勢いよくドアを開けて、私の目には真っ赤な絨毯が飛び込んできた。





――――さあ、菜月。いや、アリア。

    王様の前でもあざとく振舞うのよ。



私は自分が天使だってことをもう一度思い返して自分に言い聞かせた。そしてさっき沸き上がった少しの勇気を胸に、出来るだけ背筋を伸ばして、自信をもって堂々とその場に立ってみせた。

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