第23話 いざ、出陣です!


「さあ、リア。最後にもう一回やってみて。」

「初めまして、王様。アリア・サンチェスでごじゃいます。」


あれから毎日、ママには作法や礼儀を叩き込まれた。何回やっても幼女の口ではその部分を噛んでしまうんだけど、それもご愛嬌なので許してほしい。



「うん、完璧。ドレスもキレイだし…。あとは…。」

「アシュリー、大丈夫だよ。」



焦るママに対して、パパはとても冷静だった。何でもパパは営業所を開くときに、王様に一度会いに行ったらしい。一度会ったくらいで肝を据わらせられるパパは、なかなか大物だなって思った。



「ママ…。」



それでもやっぱり不安で、私は思いっきり不安そうな顔をしてママを見た。するとママは一瞬泣きそうな顔をしながら、私を抱き寄せた。



「リア。大丈夫。パパがついてるわ。」

「ママも一緒ならいいのに…。」



あざとく生きてきた私だけど、それは本心だった。今まで2回の人生を通して縁のなかった城という場所に、私はパパっていう味方一人で挑まなくてはならない。少しでも味方が多い方が安心なのにと本心を込めて言うと、ママはより一層強く、私を抱きしめた。



「リア。」

「ん?」

「いい子ね、本当に。」



ママの"ギュッ"と"なでなで"には、とても力がある。そうしてくれただけで冷たく張り詰めた心が少し溶けていく感じがして、私はママをギュっと抱き締め返した。



「ママ、待ってるからね。」

「うん。行ってきます。」



ママは最後に、私の頬に優しくキスをしてくれた。私もママのほっぺにチュッと可愛くキスをして、ママが不安にならないように、にっこりと笑ってみせた。



「よし、乗って。」

「いってらっしゃい。」



私たちはポチパパの背中に乗って、また街の方に出かけた。私はママが見えなくなるまで後ろを振り返って、不安げな顔で送り出してくれるママとメイサの方を見ていた。

あれ以来何度か街に連れて行ってもらってはいるけど、こんなにワクワクしないのは初めてだった。





「リア、着いたよ。」



街について、パパは私を優しくポチパパから降ろした。そして手を優しく握ってくれて、一緒にゆっくりとお城までの道を歩いた。



「パパ?」

「ん?」

「王様は、どんな人?」



戦いに行くにも、事前情報があった方がいい。そう思って一応聞いてみると、パパは「そうだな」と考え込んだ。



「とても優しくて、素晴らしい方だよ。」

「ほんとに?怒らない?」

「大丈夫。怒らない。」



パパが私を不安にさせないためにそう言っているのか本当にそうなのかはわからないけど、とりあえずその言葉を信じることにした。相変わらず街を歩くだけでパパはいろんな人に話しかけられていて、前より一層、その信頼は厚くなっている気がした。


私がパパをここまでにしたって自信を持って言えるんだけど、自分が前に出ることはしたくなかったから、パパを誘導してたのにな…。



王様と謁見とか、マジで嫌なんだけど。



憂鬱な気持ちはいつになっても晴れなかったけど、街の人が私をやっぱり天使扱いしてくれるから、私は天使らしくニコニコ笑っていた。念のため言っておくけど、5歳になっても私は天使だ。何ならより一層、天使に拍車がかかってる気がする。



「…リア?」

「な、なに?」

「疲れちゃったかな?もうつくからね。」



ボーっとしているうちに、遠くに見えていたお城が近づいてきたことに気が付いた。それでもまだまだ遠く見えるのになと思っていると、パパの言葉のすぐ後に、私たちの目の前に大きな門が立ちはだかった。



「サンチェス家、ゴードンと娘のアリアです。王からの命で、参りました。」



門を守っている騎士みたいな人に、パパは届いた手紙を手渡した。すると騎士のおじさんはそれをしっかりと確認した後、「こちらへどうぞ」と言って門を開けてくれた。



「ありがとうごじゃいます。」



練習のために、私はおじさんたちに丁寧にあいさつをしてみせた。すると怖い顔をしていたおじさんはその顔を崩してにっこり笑って、「どうぞお入りください」と言った。



私って、自分が思っているよりもっと天使なのかもしれない。

おじさんたちのおかげで少し自信をつけて、私は人生初のお城へと、足を踏み入れた。

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