第16話 人不足の解消が、先決みたいです
とはいっても、知っての通りこの世界は人不足だ。
会社の中の人たちもせわしなく動いていて、社長的な立場のパパですらよく配達に行っている話を聞く。
業者を立ち上げたとしても、人手がなければ意味がない。
まるで現代の問題と同じだなと思いながら、私は頭を抱えながらパパの机に広がっている地図に目線を落とした。
――――これは…。
その地図には、前見たみたいに経路と人の配置が書いてあった。前は3歳だったし、ゆっくり見る時間もなかったから何とも思わなかったけど、その経路はどう見ても、無駄だらけだった。
まず、一人一人が一つの2~3個の配送先に行っているみたいなんだけど、同じような場所に向かっている人が数人いる。物量が分からないから数人に分けないと運べないのかもしれないけど、同じ時間、同じ場所に人が数人行くことは、どうみても無駄が多い。
――――わかった、営業所みたいなのがないんだ。
例えば前の世界では、各地に営業所とか拠点みたいなものがあって、同じような場所に行く荷物はまずそこで降ろされる。そしてその場所で荷物は振り分けられて、そこの営業所の人たちが、最終配達地に配達をする。
陸路の配送にはそんなに詳しくないけど、いくつか営業所みたいなものを作れば、今より少しは効率が良くなりそうだと思った。
――――そうか、その場所で人を探せば…。
そしてその街で働き手を探せば、人員不足も解消されるかもしれない。
パパの会社は、多分今儲かっている。人手不足とはいえ働き手を探している人はいるだろうし、給料が高ければ働きに来てくれる人も増えるだろうな。
私は地図を眺めながら、しめしめとそう考えた。
そして今度はそれを、どうパパに気が付かせるか考える方向に思考回路を向けた。
「リア、お待たせ。」
そんな時、イーサンおじさんと話を終えたパパが私のところに戻ってきた。もう少し観察したかったけど、今日はこの辺で勘弁してやるか。
「リアちゃん、ごめんね。パパと遊びに来たのに。」
「ううん、リアいい子だからだいじょぶだよぉ~。」
パパ、おじさん。
わたしいい子だから、めちゃくちゃ稼がせてあげるね。
出来るだけ不気味にならないように笑って、心の中でそう言った。私の頭の中には文明が発展していく様子と同時に、パパがどんどんお金持ちになっていく道が見えていた。
「お待たせいたしました。」
その時、ちょうど買い物を終えたメイサが戻ってきた。パパはメイサが抱えている荷物を少しもってあげて、「重かっただろ」と言っていた。イケメンかよ。イケメンなんだけど。
「じゃあみんなごめん、今日は帰らせてもらうね。」
「もちろんです!たまには休んでください。」
働いている人たちにパパがそう言うと、みんな呆れた顔で笑っていた。パパは本当に働きすぎだ。
でもそんな状況も、私がちゃんと解消してあげるからね。
「メイサさん、お久しぶりです!」
倉庫を去ろうとしたその時、配送から帰って来たんでろう若い男の人が、こちらに寄ってきた。爽やかな笑顔を浮かべた青年は深くてきれいな緑色の髪をしていて、瞳もキレイなグリーンをしていた。
「ポートウェルさん。お久しぶりです。」
メイサはスカートを両手で少し引き上げて、腰を落としながら挨拶をした。
わぁ、こんなあいさつ、本当にするんだ。
日本で生まれ育った私の挨拶と言えば、もちろんお辞儀だ。今だって癖で不意にしてしまいそうになるくらいお辞儀が染みついている私には、その挨拶がとても新鮮に見えた。
「ウェル。お疲れ。」
「ゴードンさん、今日はお休みされるっておっしゃってたじゃないですか。」
「ああ、娘に色々と見せたくてな。ちょうどよかった、
「もちろんです。」
そう言えば次の課題を見つけることに集中するあまり、馬車をみることを忘れていた。パパの言う通りポートウェルさんは一旦戻って、馬車をこちらに持ってきてくれた。
「うわぁ。」
それは思っているより、ずっとしっかりとした馬車だった。
木で出来た土台には4つの大きな車輪がついていて、その上にはたくさんの空の箱が乗っていた。
私が発想を与えたとはいえ、こんなものを半年足らずで作ってしまえるパパとケルシュさんは、本当にすごいと心から感心した。
「どうだ?リア。」
「すごい!パパすごい!」
「そうだろ。」
すごい。文明が、出来上がっている。
一歩ずつの歩幅はとても小さいのかもしれないけど、着実に前へ進んでいる。
「ポチパパくらい大きいね!」
パパがいうには、物を運ぶときには体の大きい雄を使っているらしい。その子はいつも見ているポチパパより一回り大きくて、勇ましくてかっこよかった。
私はそんな大きな
「いつもありがとう。」
そう言って顔に抱き着くと、
やっぱり
私がしばらくじゃれている光景を、大人たちは少し驚きながらも、微笑ましく見てくれていた。
「ありがとう、ウェル。今日は先に失礼するね。」
「はい!お疲れ様です!」
「お兄ちゃん、バイバイ。」
ウェルさんは緑のキレイな色をした目を細めて、にっこり笑ってくれた。
働いた後ってこともあってウェルさんの体や顔は汚れていたけど、瞳の奥はとてもキレイだなと、33歳の私がそう思った。
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