第9話 ポチ、お前、もしかして…



まぶしい感覚で私は目を覚ました。目を開けるとポチは私を守るみたいにして眠っていて、辺りはすっかり明るくなっていた。



「やっっっっばぁい!!!!!」



寝起きで私が叫んだ声に反応して、ポチが頭を上げた。もっと別れを惜しみたかったけど、今何時かも分からないし、もしかしたらもう私がいないことがばれているかもしれない。


私は急いで立ち上がって、背中に着いた葉っぱを払った。



「ポチ!元気で生きるんだよ!」



ごみを落としながら、流れ作業みたいにして言った。ポチはそれに「クゥ~ン」と反応して、別れを惜しんでいるみたいだった。




「そんなに悲しまないで。お前は仲間のところに…」



本当に最後の別れをしようと、私はポチの方を振り返った。するとポチの奥にある茂みに、いくつか目のようなものが光っているのが見えた。



「う、嘘だろ…。」



これは、やばい。

私の動物としての本能がそう言っていた。


姿はまだ見えていないけど、あの目は何か、大きな動物の目だ。私は思わず体をこわばらせて、その場に固まってしまった。




「アリア――――――――――!」



するとどこか遠くで、大人が私を呼んでいる声が聞こえた。



ピンチからのピンチ。

絶対に、命を絶する状況。つまり、絶体絶命だ。



このまま逃げても、あの生物から逃げ切れる自信がない。もし逃げ切れたとしても、大人たちにめちゃくちゃ怒られる。



いっそのこと、食べられちゃおうかな…。



どう動いてもピンチという状況に余計体をこわばらせていると、ポチがおもむろに立ち上がって、その茂みの方に近づき始めた。



「ちょっとポチ!食われるよ!」



ポチは獣とは言っても、小さくてか弱い動物だ。あんなに大きな動物に遭遇したら、食べられてしまうに違いない。


同じ動物としてポチに警告をしたのに、ポチは足を止めることなくどんどん進んでいってしまった。



「ポチ…っ!!!」



弱肉強食の世界だから、いつか食べられてしまうことだってあるのかもしれない。でもせめて、私の前ではやめてくれ。



そう思いながら動かない体を一歩動かして暗闇の方に進むと、暗闇からは、ひょっこり見覚えのある顔が、こちらを覗いていた。




「あれって…。」



そこにいたのは5頭のウマスズメだった。絵本で見ていたより何倍もリアルで迫力があったけど、それは紛れもなく、ほんでみたウマスズメそのものだった。



「おっきい…。」



その大きさは、私の知っている馬より一回り大きいくらいだった。たくさん馬を見たことがあるわけじゃないから大きい方なのかもわからないけど、とにかくデカくて、そして鮮やかな青が、とてもきれいだった。



「そうだ…ポチ!」



初めて見る動物に、見惚れている場合ではない。あのサイズなら簡単にポチなんて食べてしまう。


慌ててポチの姿を探すと、ポチはそのウマスズメの群れの中の1頭の、おっぱいをすすっていた。



「ポチ、お前、もしかして…。ウマスズメ…なの?」



固まった体のまま見ていると、ポチは大きなウマスズメにすり寄って、そのウマスズメもポチの体を舐め始めた。



「そう、だったのか…。」



赤ちゃんの頃は、ウマスズメってピンクなんだ…。


のんきなことを考えていると、ポチの母親らしきウマスズメが、こちらにゆっくり近づいてきた。



「えっと、ごめんなさい。違うの、私とポチは…。」



迫力がすごすぎて、やっぱり私の体は動かなかった。それでも少しずつ後ずさりをしていったけど、ウマスズメと私の距離は、どんどんこちらに近づいてきた。



「た、食べないで…っ!!!」



運送に利用しようなんて考えてごめんなさい!!!

近づいてくるウマスズメから両手で頭を守りながら、心の中で必死に叫んだ。そもそも言葉も通じてないんだから心の声が聞こえるわけもないんだけど、私は必死で目をつぶって頭を守った。



「ひゃ…っ。」



すると次に私が感じたのは、何かが手を舐める感覚だった。ゆっくり眼を開けてみると目の前にはウマスズメの顔があって、その目が「ありがとう」と、言っているみたいに思えた。



「分かるの…?」



私は最初にポチを撫でた時みたいに、そっとポチママの頭を撫でた。するとポチママは目を気持ちよさそうに閉じて、私の手を受け入れてくれた。




「あの、初めまして。お世話になってます。アリアです。」



ポチママは挨拶を返すみたいに遠吠えをあげた。思わず嬉しくなってポチにしたみたいに顔に抱き着くと、ポチママはポチと同じように、私を背中に乗せてくれた。



「いいの?」



するとポチママは私を乗せて、茂みから外に出た。

姿を見せていいものなのかと私は戸惑っていたけど、ポチママは一切そんなことは気にしている様子もなく、堂々とした姿で凛としてあるいていた。


茂みを出ると家の方では近所の大人たちが私を探している姿が見えて、隣の家のおじさんは猟銃を手に持って、こちらを見ていた。


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