第8話 なんでそんな簡単な事に気が付かなかったんだ!



それから毎日、バレることなく私はポチのところに通った。

夜あまり寝ていなくてその分昼間たくさん寝るようになったけど、そこは3歳児だからママもメイサもあまり気にしていないようだった。



「リア、明日パパが帰ってくるって!」

「やった――――!パパに会える!!」

「ほら、パパにすぐ会えるように早く寝ましょう。」

「はぁい!」



パパが帰ってきたら、街に行ってみたいと言ってみよう。

私はもう一回そう決意を決めて、今日もどこか罪悪感を抱えながら、寝たふりをした。




「ポチ!」



この数日間で、ポチのケガはだいぶ良くなった。最初とは違って足を大きく上げて、私にじゃれてくるようになった。



「もうすぐお別れかもね。」


でもそれは同時に、私とポチのお別れが近いことも意味していた。

完全に感情移入してしまっている私はそれを名残惜しく思いつつも、野生に帰るのが幸せだよなと、なんとか自分に言い聞かせた。



「元気でやるんだよ~!」



いつ帰ってしまうか分からないから、毎日お別れを言うようにしている。私はポチの顔に思いっきり抱き着いて、全身で愛情を表現した。



「ウォ~ン」



するとポチは、急にオオカミみたいな犬みたいな遠吠えをあげて、顔を上に向けた。



「きゃあっ!」



顔に抱き着いていた私は、ポチの力に持ち上げられてそのまま宙を浮いた。




――――ああ、ママの言う通りだった。


落ちていく感覚を感じながら、けがをする覚悟を決めた。

今度はどれほどママに怒られるだろう。こうやって毎日ここに来ていたことも、バレるだろうか。


次はもしかしたらベッドに縛り付けられるかもしれないと思っていると、いつになっても地面に叩き続けられた感覚がなくて、むしろ次の瞬間には、ふわっと背中が何かに触れる感覚があった。



「え…?」



ゆっくりと目を開けると、私はポチの背中に乗っていた。ポチは私が背中に乗ったのを見て嬉しそうに足を動かしていたから、私は振り落とされないようにポチの背中をつかんだ。



「ポチ、のせてくれたの?」

「ウォ~ン!」



ポチは草食動物の顔をしているのに、また犬みたいにないた。けがをしていたから今までは無理だったんだろうけど、ポチは私を背中に乗せたまま、軽々とあたりを走って見せた。




「…そうかっ!」



そもそも、運ぶのに荷台なんて必要ないじゃないか。

いずれ荷台を作ればもっと効率が良くなるんだろうけど、こうやって背中に乗せてもらえば、人も物も運べるじゃないか。



ポチの大きさでは私を運ぶので精いっぱいだろう。それにウマスズメは獰猛で仲良くなることすらできないらしいけど、でもウマスズメほど大きくない動物でも、人間や荷物を背中に乗せて走ってくれる動物が見つかるかもしれない!



「ありがとう、ポチ!」



なんでそんな簡単なことに気が付かなかったんだろう。

今まで"3歳では荷台なんて作れない"としか考えられなかった。でも最初は、そもそも荷台なんて必要ない。



――――動物自体に、乗せればいいんだから。



ポチは3歳の私では想像もつかないくらい風を切って速く走った。久しぶりに感じる爽快感を、私も存分に味わった。



「へへ、ポチ!こんな早く走れるんだね!」



ポチは嬉しそうに、しばらく辺りをぐるぐると走り続けた。そしてしばらくすると元の場所に戻って、私を下ろすみたいにしてその場にしゃがんだ。



「ありがとう。」

「クゥ~ン」

「ポチはほんとに、犬だね。」



私はその場に座り込んで、今度はポチのお腹に寝転んだ。ポチもそれを受け入れてくれて、本当に犬みたいに丸まってふかふかのベッドを作ってくれた。



「もうお別れなんだよ、私たち。」



初めて出来た友達だった。

この世界で出会ったママもメイサもパパもみんないい人だけど、みんなにとって私は3歳の子供だ。でもポチは初めて、私のままで接することができる、唯一の友達だった。



「元気で、ね。」



でもやっぱり、私がポチを飼うことは出来ない。まだ現実的ではない。

いつかそういう社会が来たら、きっと飼ってあげるからねとポチの頭を撫でていると、そのうちに眠気が来てしまった。



「ちょっとだけ。朝になる前に、帰ろう。」



私はそう言って、静かに目を閉じた。ポチの体は本当に暖かくて、そのぬくもりを感じている間に自分でも全く分からないうちに、夢の世界へと入って行ってしまった。

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