第7話 反省は、しているつもりです


「この子、一緒に住めないの?」

「ダメよ、リア。今は楽しく遊んでても、何があるかわからないんだから。」



しばらく遊んだ後、ママはその子をそこに置いていくように言った。

連れて帰ってもママには何のメリットもないだろうし、近所の人にどんな目で見られるかだって分かったもんじゃない。


大人な私は大人の事情をしっかり理解した上で、泣く泣くその子とお別れすることにした…




――――フリをした。



反省した顔をしながら、私はこれからも二人の目を盗んでここに来ることを決めた。またこの子がここにいてくれるか分からないし、ママの言う通りこの子が私を襲わない可能性だってゼロではない。でもかと言って、掴み始めた可能性をここで手放すわけにはいかない。




「バイバイ、ポチ。元気でね。」

「ポチって?」

「この子の名前。」



ポチとは、私が実家で飼っていた柴犬の名前だ。ポチみたいに無邪気にじゃれてくるあの子にもう一回会おうと心の中でいって、私はママに手を引かれるがまま素直に家まで帰った。




あの後追加でママに怒られた私は、ちゃんと反省したフリをするためにも、しばらくシュンとした表情で座っていた。でも私よりメイサがママに何回も謝っているのを聞いて、反省したフリだけじゃなくて、しっかりと反省もした。



でもやっぱり、私はポチに何か可能性を見出したい。



その日ベッドに入った後、また運送方法について考えてみることにした。



ポチは大型犬くらいのサイズしかないから、馬車みたいな荷台を引くのは確かに無理だ。でも体重で言ったら多分私の倍くらいはありそうだし、脚力もありそう。だとしたら小さい荷台くらいなら、十分引いていけるはず。



そう考えたらまず荷台を作って実験をしたかったけど、3歳の私では大きな木を運ぶことも、車輪を作ることも出来ない。



まず、この世界に"車輪"って概念はあるのかな。



大事に大事に育てられている私は、今まで街にすら出たことがない。勉強するためにも今度、パパにおねだりして連れて行ってもらわなきゃなと思った。




――――さあ、とりあえず寝るか。



ベッドの中でグダグダと考えていてもらちが明かない。3歳の体力はそんなに無限ではないので、寝ないと明日元気に遊べない。


ひとまず寝ようと目をつぶろうとして横をみると、ママがぐっすり寝ている姿が目に入った。



――――夜しか、ないんでは…?



簡単に"二人の目を盗んで抜け出す"なんて思っていた私だけど、さっき一人で家を抜け出したせいで、多分ママもメイサも私が抜け出すことに対しての警戒心を強めている。ママは今、私が寝たと思っているからぐっすり寝ているけど、私が昼寝をしているときだって、多分起きている。




「ごめんなさい。」



それから私は、ゆっくり慎重にベッドを抜け出した。ママはそれでもピクリとも動かず寝ていて、メイサも部屋の中でぐっすり寝ているみたいだった。



昼間より簡単に、私は家を抜け出した。そして疲れている体にムチを打ちながら、昼にポチに会った場所に向かった。



「ポチ!いる?」



抜け出してみたはいいものの、ポチがまだそこにいてくれる可能性は低かった。もしかして仲間が迎えに来ているかもしれないし、もう逃げてどこかに行ってしまったかもしれない。


そうなればまた新しい可能性を探すしかないなと思っていたんだけど、ポチはちゃんとそこにいて、私の声で茂みからひょっこり顔を出した。




「ポチ!お昼ぶり!」



ポチは私の顔を見てこちらに寄ってきて、また顔を胸のあたりに摺り寄せてきた。私はキッチンから持ち出してきた名前をカシオレという牛乳みたいな飲み物を取り出して、お皿に注いであげた。



「お腹減ったでしょ。」



ポチはやっぱり、足が痛くて動けないみたいだった。これでは運送方法を考えるなんて出来そうにないなとおもったけど、もうすでに愛着が湧いている私は、ケガが治るまでポチの世話をしたくなっていた。



「これも食べて。」



私は昼間も持ってきたバナナニボシを手に、それをポチにあげた。ポチが嬉しそうにそれを平らげていく姿を、私は昔飼っていた方のポチに、重ねながら眺めていた。

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