第5話 スズメは、いずこに…。


ウマスズメを使った運送方法を思いついたはいいものの、まずはウマスズメがどこにいるのか調査する必要があった。少なくとも私が遊びに行く家の前の範囲では、ウマスズメなんて見たことがない。

それに私はまだ3歳で、行動範囲だってそんなに広くはない。



「ねぇ、メイサ!」

「どうしました、アリア様。」

「私、ウマスズメが見たい!」



好奇心という武器を使って、とりあえず使えそうなウマスズメがどこかにいないかメイサに聞いてみた。するとメイサは少し考えた後、「難しいかもしれませんね」と言った。


ウマスズメは山の奥深くに住んでるんです。それに獰猛な生き物なので、あまり近づくことも出来ません。」



メイサは慌てて「"獰猛どうもう"っていうのは怒りやすいってことです!」と言葉の説明を付け足してくれていたけど、私はそれをあまり聞いていなかった。



せっかく活路を見つけた気がしたのに、それが使えないなんて…。



私は馬にだってそんなに詳しくないけど、馬は人間になつきやすかった、はずだ。もしウマスズメが獰猛で人に扱えるような生き物じゃないとしたら、とてもじゃないけど運送になんて使えない。



「ダメかぁ…。」

「はい、すみません。」



全く別のことを考えているはずなのに、私たちは嚙み合ったような会話をしていた。



――――また、別の方法を考えなくては…。



せめて前世で車がどうやって走っているかの原理くらい、勉強しておけばよかったと後悔した。でも後悔したところでまた元の世界に戻れるわけじゃなさそうだから、私は必死でなぐさめてくれるメイサを無視して、次の方法を考え始めた。






ウマスズメがダメなら、後はなんだ。

何か他にためになりそうな動物を探し出そうとしたけど、絵本に登場してくる動物はブタみたいな姿の"ミミズ"とか、ウサギみたいな姿の"カイジュウ"とかばかりで、全く運送の役には立ちそうになかった。



馬がだめなら、ロバとかなんならウシでもいいのに…。



速さがなくても力があればいいんだけど、そもそもこの世界では、動物と共存して暮らすっていう概念すらなくて、ほとんど"動物=食べ物"という認識がされているみたいだった。



せっかく活路を見出したはずなのに、また一からやり直しになってしまった。



「パパァ…。」



3歳の力では、パパを助けることはやっぱり無理なのか…。

せめてもう少し成長して、自分の足でどこか出歩けるようになってから考えるか。


その頃には私にも思春期が再来して、「パパ臭い!帰ってくんな!」とか言ってる可能性もあるなと将来のパパを哀れみながらお菓子を食べていると、家の向こうにある森の茂みが少し動くのが見えた。




「なんか、いる。」



そこには確実に、何かいる気配がした。動物と共存していないこの世界だから、森の奥にしか動物はいないはずなのに、そこには確かに私たち以外のがいるのを感じた。


私は咄嗟に、自分の周りを見渡した。

今ちょうど、メイサはトイレに行っていて不在だ。そしてその間私を見るように頼まれたママも、キッチンで向こう側を向いて料理に夢中になっている。



―――――チャンスだ。



私はママにバレないようにそっと玄関のドアを開けて、この人生ではじめて、一人で家の外に出てみることにした。




多分大人の足だったら5分もかからないんだろうけど、私は今は3歳だ。途中で歩いてきたことを後悔するほどその距離は遠く感じられて、茂みにたどり着くまでにハァハァと息は切れていた。


それでももしかしたらこの国の運送の未来を担ってくれるかもしれない動物が、そこにいるかもしれない。私は襲われるリスクなんてこれっぽっちも考えないまま、慎重に、その茂みに近づいて行った。




「あのぉ~。そこに誰かいますかぁ??」



茂みに近づくと、そこはとても静かだった。

さっきまで何かいる気配がしていたはずなのにそこはピクリとも動かなくて、私は思わず誰かに話しかけるみたいにそう言った。



「どっか、いっちゃったかなぁ?」



もしかして私がここにたどり着くまでに、その何かはどこかに行ってしまったかもしれない。半分は諦めつつ、もう少しだけその茂みに近づいてみることにした。



「あの~…誰か…っ」



最後に話しかけて何もなかったら帰ろう。

そう決めて少し大きな声で話しかけてみると、茂みから大きな影が、こちらに覆いかぶさるみたいにして出てくる影が見えた。



「きゃあっ!」



咄嗟に両手で顔を覆ったけど、私は転生しても別に特殊能力を備えていない。



―――ああ。

    ここで私の2回目の人生も

     終わってしまうのか…。



ママとメイサの目を盗んでこんなところに来てしまったことを、私はそこでようやく後悔し始めた。

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