第4話 運送方法を考えよう


まず今の状況を改善するためにはどうしたらいいのか、考えることにした。


もっとも簡単な方法と言えるのが、単純な人員増強。人を増やせば手が増える。そうすればパパの負担だって、おのずと減るはずだ。でも人口不足だと言われるこの世界では、その方法は現実的ではない。手があったとしても、3歳の私にはどうすることも出来なさそうだ。



「他の方法か…。」



別の方法として浮かぶのが、運送方法の見直しだ。

私は前の世界では貿易を担当していたから日本国内の運送がどうなっていたか詳しく知っているわけではないけど、パパの方法は効率が悪すぎるってことはわかる。


あのカゴで運ぶようになって効率が良くなったとは言っていたけど、とてもじゃないけどそれがベストとは思えない。



「車があればな~。」

「リア様、どうしましたか?」



外で泥遊びをしているというのに、考え込んでしまった私を心配そうな顔で覗き込んで、メイサは言った。


人の手で運ぶことが効率が悪いことだって、そんなことは分かっている。でもこの世界には、多分"車"なんてものは存在しない。そして私には車を作り出す技術なんて、備わっているわけはない。



こんなに考えなきゃいけないなら、やっぱり特殊能力をつけて転生させてもらって、最強の騎士とか目指したほうが楽だったんでは…。



「リア様、大丈夫ですか?お熱でも…。」

「ど、泥がい~っぱいあるなぁ!って考えただけだよっ!」



精神年齢は32歳だから、どうしても考え込んでしまう癖が抜けない。メイサが心配そうに言うのをごまかすためにも無邪気にそう言うと、メイサは安心したようにニコッと笑った。



「そろそろお家に入りましょうか。」

「うん!」



しばらく泥まみれになりながら考えてみたけど、結論は全然でなかった。私はメイサの言う通り家に入って、とりあえずシャワーで全身の泥を落とした。



「メイサ!本読んで!」

「はい。」



最近私は文字を覚えるためにも、メイサに本を読んでもらうことにしている。言葉は一緒のはずなのに、この世界の文字はアラビア文字みたいに複雑でわかりにくい。でも毎日読んでもらっていると、なんとなく、読める文字が増えてきた。



――――3歳児の脳は、本当にすごい。



私は今日もメイサの膝に座って、物語を聞くというより、文字を目で追う事に集中した。



「今日は新しい本を持ってきました。」

「わぁい!」



メイサが持ってきたの絵本の表紙には、見たことのない動物が描かれていた。体は馬みたいに大きくてスリムな感じだけど、色は青色。顔はなんていうか、牛みたいなバッファローみたいな、イカつめの見た目をしている。



「これ、なにぃ?」

「これはスズメという動物です。」



はい、出ました。

この世界あるあるの、見た目と名前が伴わない現象に私はまた困惑した。この見た目でスズメって、無理ありすぎるだろ…。



「では、始めますね。」

「は~い!」



メイサは優しい声で、物語を読み始めてくれた。その物語はウマスズメが小さな女の子の頼みを聞いて、遠くに住んでいるお母さんにリンゴを届けてくれるような、そんなストーリーだった。




いや、待てよ…?


文字を必死に追うことを一瞬やめて、考えた。

私の知っている人類だって、何も最初から車を持っていたわけじゃない。そのルーツを詳しく知っているわけではないけど、そもそも人間は、



――――馬で、運送をしていたはずじゃないか。




「メイサ、ウマスズメって、走ると速いの?」

「ええ、すごく速いです。」

「大きいの?」

「はい。とても大きいです。」

「パパより大きい?」

「はい。旦那様よりもっともっと大きいです。」



メイサはクスクスと笑いながら、そう答えてくれた。彼女には多分私が3歳の好奇心旺盛な少女に見えているんだろうけど、それは違う。



私はやっとそこでひらめいた。


パパに、ウマスズメ使と。



物をわざわざ手で運んでいるところから見ると、多分この世界にはまだ、"何かを使って物を運ぶ"という概念自体が存在しない。歴史をあんまり勉強してきたタイプじゃないけど、人類は弥生時代とかそんなものから馬を使って物を運んでいた気がするけど、まだここはその考えに至っていないみたいだ。



船は作れたみたいだから海路は少しは発達してるみたいだけど、陸路の発展にはまだまだ改善の余地がありそうだ。


そちらの専門家ではないから自信はない。でもそこを改善するだけでも、きっとパパは家に帰ってきやすくなるなと、活路をウマスズメに見出した。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る