第2話 パパの仕事を邪魔してみたら…


「いただきますっ!」


パパが帰ってきたからママとメイサが用意をしてくれて、私たちは遅めのランチを食べ始めた。パパは私が勢いよくご飯を食べるのを嬉しそうに見た後、自分もご飯に手を付けた。



「リア、美味しいか?」

「うんっ!ママとメイサのご飯大好き!」



私はこうやって、すごくあざとく生きている。

子供を経験するのが2回目の私にとって、3歳児なんてイージーモード中のイージーモードだ。それからも出来るだけ勢いよくご飯を食べつつ、大人の会話に耳を傾けた。



「あなた、仕事はどうなの?」

「そうだな…。人員不足がなかなか解消されなくて。」



この3年間で、パパの口から何度も"人手不足"っていうワードを聞いた。

そう言えばあの天使も、転生先は人口不足になっている場所だと言っていた。だからパパは社長のくせにこれだけ真っ黒になって働いているのかと思ったら、少しは納得がいく気がした。


「でもこの間、一度にたくさん商品を運べるように、大きなカゴを木で作ってみたんだ。そうしたら少し効率がよくなった。」

「そう。」

「でもその分運ぶ負担がすごく増えたから、重労働になってしまって、みんなへとへとだよ。」



パパは商人だけど、物を運ぶ仕事もしてるのか。ってことは前の世界の私と同じような仕事だなと、ミネストローネみたいなスープを食べながら思った。

ちなみにこの世界の食べ物は、前の世界と似ているものもあれば、全く初めて食べるものもある。



この世界で全てにおいてイージーモードで暮らしている私だけど、一つだけ苦労していることがある。それが、食べ物の名前を覚える事だ。


例えばこのミネストローネみたいなスープの元になっているのが、トマトとリンゴの間みたいな甘酸っぱい味のする野菜で、名前をチヂミという。

この世界ではよく分からない食べ物が、全く違った種類の食べ物の名前になっている。いっそのこと全く違った名前の方が覚えやすいのに、それがとても複雑だ。



「この後も少し仕事するよ。明日の計画を立てないと。」

「あまり無理しないでくださいね。」

「ああ、分かってる。」



私が食べ物の名前を復習しながらご飯を食べている間に、大人たちは仕事の話を続けていた。


働くって、どの世界でも大変だな~。

でも私はこの世界では、この天使さを生かして絶世のイケメンと結婚してやるんだ。



「リア、おかわりは?」

「いる―――っ!」

「ハハッ。リアのために俺も頑張らなきゃな。」



私たちは絵にかいたような幸せな光景のままご飯を食べ続けていた。でもしばらくすると私がご飯を食べ終わる前に、パパは仕事をするために自分の部屋に入ってしまった。






「リア、パパに会ってくる!」

「邪魔しちゃだめよ!」

「はぁい。頑張ってって言うだけ!」



ご飯を食べ終わってすることもない私は、パパの書斎に行ってみることにした。普段もあんまり入らないから緊張しながらそっとドアを開けると、パパはその音に反応して「リア」と名前を呼んでくれた。



「パパ?そっち行ってもいい?」

「うん、おいで。」



あざとい表情で聞くと、パパは分かりやすくニヤッと笑って言った。こいつもチョロい男だなと思いながら近づくと、パパは私を膝にのせてくれた。



「パパ、お仕事?」

「そうだよ。」



机の上には地図が広げられていた。まだこの世界の文字を勉強していないから読めないけど、何となくそれがこの街の周辺の地図だってことは分かる。

パパはその地図の上に線を書いていて、それぞれその線の上に何かを書いていた。



「何してるの?」

「ん?これはね、明日誰がどこに行くのか考えてるんだよ。」



その線は全て港から始まって、街の中や周辺都市に伸びていた。そして多分その線の上に書かれているのは、人の名前だ。



なるほど。

パパの会社は商社でありながら、運送まで請け負っているのか。



前の世界で言う通関業者、商社、運送業者の役割を、パパは一つの会社でしているらしいことが、この地図から分かった。貿易事務をしていた私からしたら、それがどれだけ大変なことか、一瞬で理解できた。



そりゃ、忙しいわ。


同業者として、私はやっぱりパパに同情した。私がそんな具体的な同情を抱いている事なんて知るわけもなく、パパは頭を抱えながら明日の配送の予定を組み立てていた。

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