第10話 ここはどこ?私は、誰…?
は…っ!!!!!!
次目覚めると、私は暖かい何かに包まれていた。でも視界はあまり良好ではなくて、それが何なのかはよくわからなかった。
私、本当に転生してる…っぽい?!
何になった?かわいそうだって言ってたから王女か?最強の戦士か?なんだ?
意識ははっきりしていたけど、視界はやっぱり不明瞭だった。そして何かを話そうとすると「あー」としか声が出なくて、それがとてもストレスに感じられた。
「あら、アリア。今日はすごく話すわね。」
すると上から、女の人の声が振ってきた。女の人は楽しそうに「ふふふ」と笑って、暖かい何かで、私の頭を撫でてくれた。
――――赤ちゃんだ。
暖かいものが女の人の胸の中だと、ようやくそこで理解し始めた。目はまだはっきりみえなかったけど女の人のぬくもりはとても暖かくて、声はすごく優しかった。
「あなた、今日はアリアが良くおしゃべりするんです。あなたがいるからかしら。」
「アリア、こっちを向いて。パパにもお話してくれ。」
私の新しい名前は、どうやらアリアだ。そしてアリアって名前から推測してみると、転生先でも女の子として生まれた、んだと思う。
菜月って名前も気に入っていたけど、新しい名前もすごくかわいいから大好きだ。
とりあえず人間?の女の子に転生できたらしいことにホッとしてみたものの、この家がどんな家なのかは全く分からない。
「ほら、こっちにおいで。」
私が色々と勘ぐっている間に、ママは私をパパに手渡したらしい。パパに抱かれた瞬間、私のまだ研ぎ澄まされていないはずの鼻を、異臭が襲ってきた。
え?!くっさ!!パパくっさ!!!無理すぎ!!!くさい!!!!
「うわぁああん!」
心の中で叫ぶと、それが泣き声になって口からでた。するとパパは焦ったように「どうしたどうした」と言って、ママに私を返した。
全く、どこの世界の男も情けないわね。
「びっくりしただけだもんね、アリア。」
「これからは定期的に帰ってきて抱かないと嫌われるな。」
いや、ほんとやめてほしい。ママはすごくいい匂いだけど、パパ臭い。もはや臭い。マジ無理。
しばらくは鼻にこびりついたパパの臭さに悶絶していたけど、ママのいい香りと暖かさに包まれて、強い眠気が襲ってきた。
あ~最高。食べて寝て起きるだけの人生、再来。
「眠かったのね、ゆっくりお休み。」
ママはそう言って、心地よく私を揺らしてくれた。顔はまだはっきりと見えないけど、ママ、産んでくれてありがとう。転生してよかったです。
早くもそんなことを考えている私は、意外と薄情な人間だったのかもしれない。そう思っているうちに眠気に負けて、私はまた意識を失った。
☆
転生生活で意識が芽生えて、しばらく時間がたった。何日たったのかは寝ているだけの私にはあまり分からないけど、この期間で徐々に色々なことが分かってきた。
まずママの名前はアシュリー。
お手伝いさんはいる家みたいだけど、私は少なくとも王女ではなさそうだ。
そしてパパの名前はゴードン。
何をしているかは分からないけど、仕事でほとんど家に帰ってこない。ラッキー。
あともう一人一緒に住んでいるのがお手伝いのメイサ。
優しくてあたたかくてふかふかでいい匂いで、すごく大好き。
まあとりあえずそんなことはいいんだけど、お腹がすいた。
ママ―――!乳ちょうだい――――!!!
「うぇええん!」
「あらアリア。またお腹がすいたの?」
だいたいママは泣き声で、私が何を求めているか分かってくれるようになった。さすがママ。最強すぎる。
それに加えてママのおっぱいは超絶美味しい。何味かって言われたら…ん~。言い表せないけど、とりあえずあったかくて甘くて、すごくおいしい。
一生赤ん坊のまま、寝て泣いて起きて乳をのむだけの生活を続けられないだろうか。
王女には転生できなかったけど、特殊能力なんていらないから、このまま成長しない体にしてくれないかしら。
「アシュリー、ただいま。」
「おかえりなさい。早かったのね。」
うとうとし始めたその時、私の今の唯一のストレスの現況が帰宅した声が聞こえた。
「早くアリアに会いたくて。」
「まあ、すっかり子煩悩なパパね。」
「この間泣かれてしまったからな。今日こそは…。」
おいおい、パパさん。こちらおっぱい飲んでねんねの時間なんですよ。そんな時臭いにおいかいで安心して寝れるかよ。頼むからママかメイサに抱かれたままでいさせてくれよ。
「アリア~ただいま。今日も天使だね。」
私の小さな願いは届くことなく、今日も抱き方が少しぎこちないパパに私は抱かれた。やっぱりパパはちょっと臭いけど、今日は幾分か匂いがマシだった。
「あら。今日は大丈夫そう。」
ママは嬉しそうな声でそう言った。パパもなんだか浮かれた声で、「このまま寝かせられるかな」と言った。
しょうがない。ママが嬉しそうだから、今日はパパの腕で寝てやろう。
この世界で私が男の人の腕で寝るバージンを、お前にやろうじゃないか。
そんなあほなことを考えているうちに、私の意識はどんどん遠のいていった。パパはやっぱり少し臭いけど、でも腕の中は誰よりもあったかくてすごく安定感があった。
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