第7話 これが最後のチャンスらしい


「信じてもらえました?」


家に帰って目をつぶると、次の瞬間にはまた真っ白な空間に私はいた。そして今度は挨拶もすることなく、天使が私の顔を覗き込んでそう言った。



「いや、確かにその通りになったんだけど…。」

「まだ信じ切れてないみたいですね。」



天使は「疑い深い人ですね」と言ったけど、これで「そうですか!転生します!」と言える人がいるなら教えてほしい。やっぱり煮え切らない私がぐちぐちと言い訳をしていると、天使は「はぁ」と大きくため息をついた。



「それではもう一度、確認するチャンスを与えましょう。」

「は、はい。」



天使はそう言って、またモニターを目の前に出した。



「明日、南出様が田中華様に別れ話をされます。ぜひ見に行ってください。」



まるで動物園をおすすめするかのように、天使が言った。そんな修羅場に行けるかと内心思いながら、興味津々に話を聞いている自分もいた。

モニターには確かに南出さんとこないだ私を刺した女の人が公園で話をしていて、女の人は泣きながら取り乱しているように見えた。



「南出様の台詞はこうです。

"華と一生一緒にやっていける自信がない。いつも俺のこと束縛して、信用されていないのも辛い。GPSをつけてることだって、気付いているんだ。"」

「え~こっわ。」



彼氏にGPSをつける人なんて、都市伝説でしかいないと思っていた。でもこれが本当なら本気でいるんだと、なぜかそこに驚いている自分がいた。



「特別にチャンスをもう一度与えますが、これが最後です。」

「はい…。」

「明日またここにお呼びしますが、もしそこでお断りされるか、もしくは迷われて決められないようでしたら、このチャンスはなかったことになります。」

「と、いうことは…。」

「はい。田中華様に刺されて、死にます。」


天使はとても怖いことを、満面の笑みを作って言った。

その笑顔にゾッとしながら、「転生したらさ」と具体的な話を進めてみることにした。



「もし転生を選んだら、今の私ってどうなるの?」



転生する人って、だいたい死んでからするはず。

いやそもそも"転生する人"ってなんなのと自分にツッコミつつ、天使の方を見た。



「死にます。」

「いや結局死ぬのかい!」



キレッキレのツッコミを入れて、私は白い空間でズッコケた。今すぐお笑い界からスカウトを受けそうな、豪快なコケ芸だった。



「でも眠るように死ねます。」

「死ぬのは確定なんですね…。」



天使は笑って「そうですね」と答えた。全然笑い事ではないのにと、私はため息をついた。



「でも菜月さんのお母様からしたらどうでしょう?」

「え?」

「娘さんが眠るように死ぬのか、誰かに殺されるのか。どちらが辛いかは一目瞭然です。」



まあ、そうですけど…。結局私って、お母さんより先に、死ぬのか。

今まで親孝行なんて全くしてこなかったことを、後悔し始めた。後悔したところでどうせ明日か1年後に、私は死んでしまうみたいだった。



「あと1日、よく考えてみてください。」

「はい…。」

「ちなみに私は天使ですので、特別にお母様に電話することだけ、許可させていただきますね。」

「はあ…。」



"優しいでしょ?"のテンションで、天使は言った。優しいのかそうでないのかは、うまく判断が出来なかった。



「ってゆうかさ。」

「はい。」

「どうして、私が選ばれたの?」



どう考えても、私は転生してから生かせる能力もなさそうだし、転生に選ばれるほど優秀な人材である気がしない。天使は私の質問を聞いて少し「う~ん」と考えた後、ひらめいたような顔をした。。



「かわいそうだったから、ですかね。」



かわいそう…。

まあもし本当に婚約している彼氏の元カノに刺されて死ぬんだとしたら、かわいそうにもほどがあると思う。



「人口不足の世界はいくつかあるので、私たちはこのように人選をして転生を打診するのですが…。菜月様の今後がすごくかわいそうな展開に思えたので選ばせていただきました!」



自分でも"かわいそう"だとはおもうけど、天に同情されるくらい私の人生って悲惨だったのか。自分で聞いたくせになんだか悲しくなってきて、やっぱり聞かなきゃよかったと思った。



「それでは、いってらっしゃい。明日またお会いしましょう。」

「ふぁい…。」



天使は私のスマホに公園の場所を送ってくれると言った。目を覚ますと言った通りスマホには宛先のない人から位置情報が送られていて、天使の世界も電子化しているのねと、意味の分からないことを考えた。

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