青単痕子の日常

 

 「ありゃま。また殴られたの?ちっとお姉ちゃんに見せてみぃ。」

 

 やたらと砕けた口調の女性が、私の姉ーー青単眠子。オレンジ髪の気さくな人だ。私より早く生まれて、私より殴られているはずなのに、肌には傷一つない。

 

 「黙ってたら殴られた。」


 姉にはその一言で一から十まで伝わったらしく、不快そうに眉を潜める。そう。この人は私に唯一共感してくれる人なのだ。同じ環境下で育ったから当然と言えばそうなのだが、同じ環境下で育っているはずなのに、私とは違い過ぎる。それなのに私と一緒に居てくれるとは、どこまでできた存在なのだろう。


 「……ありゃー。こりゃひどい……。」


 確かに私の傷はいつにも増して酷かった。血が大量に出た痕があるのは勿論、もう直ぐで骨まで見えそうなほどパックリと綺麗に割れていた。


 「ほいそれじゃ、いつも通りめーつぶってねー」


 そして私の目は私の意思によって閉じられる。この瞬間は結構好きだ。何か凄いものに守られているような、温かみがある感じがするのだ。

世間一般ではそれを『母性』と言うのだろう。親に守られたことのない私たちには無縁の言葉だ。


 「えい。もういいよー。」


 そしてしばらくその温かみに浸っていると、姉から声がかかる。正直惜しかったが、このままの訳にもいかない。私はゆっくりと目を開いた。


 「当たり前だけど、他のみんなには絶対言っちゃダメだかんねー」


 眼の前に、姉の顔があった。そうそう驚くことでもないのだが、毎回ちょっとだけ驚かされる。毎回今度こそは驚かないぞと心に決めるのだが、こうなってしまう。今回も例に漏れず、今度こそは驚かないぞと静かに誓う。


 「わかってる。」


 そう口少なに言うと、姉は満足そうに頷いた。姉は口に含んでいた飴を噛み砕くと何処かに去っていった。


 切れていたほっぺに手を触れる。やはり綺麗に治っていた。携帯している手鏡に写すと、まるで赤子の肌のような、垢やニキビがないとても綺麗な肌だった。


 そう言えば、私たちが親から排斥される理由を話していなかった。それは至極単純で、アルビノの子供が敬遠されるような、そんな理由。


 私と姉は、魔法使いなのだ。

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