第2話 医学生の本(1)
長峰は頭に流れてきた映像を眺めていた。
自分より数歳年上に見える男子大学生の映像であった。
彼の私生活をのぞき見しているような感覚であった。
彼は大学では成績優秀であったが、奨学金を借りているらしい。
彼の名前は羽本 翼(はねもと つばさ)であった。
今頃は、立派なお医者さんになっているのだろうと思いながら、長峰はその映像を眺めていた。
映像は彼がこの本を本屋で買うところからスタートしていた。
彼には同じ大学で他学部の彼女がいた。
名前は吉本 明菜(よしもと あきな)であった。
彼女は静かでありながら芯がある女性であった。
吉本も彼と同じように成績優秀で、奨学金を借りている学生であった。
ある日、羽本と吉本がデートでカフェにいると、羽本は吉本が浮かない顔していることに気がついた。
吉本は「大丈夫!最近、勉強しすぎて少し疲れちゃっただけ!」と言った。
羽本は彼女を心配していたが、深く話を聞くことはできなかった。
今、思えばそれが彼女からのSOSであったのだろう。
日に日に彼女は表情が暗くなっていった。
今までなら、大学が終わった後に二人で帰っていたのに、吉本がいない。
吉本と同じ学部の人に話を聞くと、大学に来てないらしい。
心配した羽本は、彼女の家まで行った。
吉本は地方から出てきたばっかりで、一人暮らしをしていた。
吉本は羽本が来たが、ドアを開けなかった。
二人は玄関のドア越しに会話をした。
「何のために勉強しているのか分からない。
私って何のために生きてるの?」と吉本は言った。
羽本は彼女がうつ病の可能性があると思い、一緒に病院に行くことを提案した。
吉本の羽本を好きな気持ちは変わらないようで、その気持ちに従って、吉本はゆっくりと扉を開けた。
目の前にいたのは、クマがひどい吉本であった。
羽本は、吉本と一緒に地元の心療内科と精神科のあるクリニックに行った。
吉本は医師の診断でうつ病となった。
羽本も地方から出てきた一人暮らしであったが、うつ病の彼女を支えるために彼女と同居をすることにした。
彼女はテレビを見ても笑わず、活字を読むこともできなくなっていた。
「ごめんなさい。私がこんなになっちゃったから、翼くんに迷惑をかけちゃってるよね。」
「迷惑じゃないよ。ぼくはただ明菜さんを支えたいんだ。」
吉本は泣いてしまった。
羽本は彼女に休学を提案した。
吉本も休学を受け入れ、休学することになった。
羽本は大学に通いながら、バイトもして、帰宅後は彼女に寄り添っていた。
思い出トリップ 薄めたみそ汁 @cumenhydroperoxide
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