弐の7

「色々と、待たせちゃったわね」

「いや、そんなことよりも……」

「ああ、大丈夫よ。今日はここに泊まっていって」

「はい?」

「もう、すべて手配は終わってるから」

 目を丸くするいち華をよそに、エリスはエレベーターの昇降口へさっさと向かう。経緯がわからず、その場で立ち竦んでしまったものの、背後からレンジがせっつかせるように迫ってくる。手間を取らせるなと無言の表情で訴えているようだった。

「ちょっと、待って。手配ってなに?」

 だが、昇りボタンを夢中で連打するエリスの耳には話など入ってはいない。

 魔女の無粋な性格に呆れつつ、いち華は苛立ちながら詰め寄っていくと、チンと音が鳴ってエレベーターのドアが開いた。何があったのかを問い正そうにも、タイミングを逃してばかり。「ここの最上階だから」といわれ、あとは調子よく中に押し込まれると、否応なくドアを閉めるのだった。

 勢いよく上がっていく昇降機の音だけが虚しく響き渡り、二人の間に軽い沈黙が流れる。もはや何を聴いたところで暖簾に腕押しな気もしたが、気遅れしている場合でもない。再び、いち華は半ばあきらめ気味に聴いてみることにした。

「あのさ、手配が済んでるってどういうこと?」

「うん? ああ、問題解決を図るための手配と、その手伝いってとこかしらね……」

 階数表示板を見上げながら、魔女はさらりとそんなことを云う。

 いったい、いつの間に事情を調べ上げたのか。動きの迅速さもさることながら、此方の狙いすら見透かされてる気がしてならない。いち華の不満は次第に募るばかりだった。

「もう、そんな顔しないで。わたしは、いち華ちゃんの味方よ」

「……それなら、話ばかり先に進めないでよ。こっちが余計に混乱するわ」

「だって、諜報戦は時間との勝負でもあるから、仕方ないじゃない?」

「諜報戦? 諜報戦って、誰と戦ってるの? なにをするつもりなの??」

 指を顎に充てて、エリスは意味深に「えへへ」と笑って可愛こぶってみせたものの、常に誤魔化してる感じが若干する。もう一言、二言は言い返してやろうと思った瞬間、チンと音が鳴り、話の腰を折るかのように到着したのだった。

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