弐の3
ベイカー・フィールズの黒糖入りカフェラテに、特製タマゴサンドがお気に入り。空調が程よく効いた洒落た店内で、少女は至福のひと時を過ごしていた。
夏場のエアコンは物臭な怠け者にとって、これとない文明の利器。まさに現代科学のもたらした勝利といえよう。
気分も良く、タマゴサンドを口に頬張り、昼間に手渡された名刺を何気に眺めていた。趣もへったくれもない地味な名刺だったが、手触りからして、上等な和紙が使われている。〝西園寺エリス〟という女が何者なのか気になっていた部分もあるが、身につけていた装飾品や小物から推察しても、金持ち特有の雰囲気が漂っているのは確かだ。
「さて、どうしたものか……」と、名刺を片手にタマゴサンドを咀嚼しながら、少女はちらりと店員に目をやった。
今日も今日とて、彼女らは忙しいそうに働いてる。
店長に注意を受けたり、客に頭を下げたりと、大変な仕事の割には収入が見合わないのではないかと常々思っていたところだ。ただ、このままダラダラと人生が進めば、自分が似たような職に就くのは必然となってしまう。
世の中、なんだかんだと言っても、結局は「金」だ。いくら綺麗事を並べたところで、取れそうなところからとっていくしか術がない。金は力であり、大変な世の中を生き抜く為の知恵でもある。少女は贅沢な暮らしを望んでいるわけではなかったが、金銭面で苦労するのだけは御免だった。
ならば、話は単純明快。西園寺エリスの素性をすぐ調べる必要があるだろう。事情を探り、うまく取り入ればひと儲けできるかもしれない。幸い、世代的な恩恵を受けている少女にとって、ネットでの情報収集は得意分野でもあった。
カフェラテをひと口含むと、少女は意気揚々とノートパソコンを開く。
ネット検索とサイトの脆弱性を調べるハッキングは趣味が嵩じて身についてしまった得意分野でもある。基礎的な理論は祖父から譲り受け、暇な田舎町だからと、小さな頃からパソコンを買い与えてくれたお陰とも言えよう。少女にとっては平凡な両親の唯一の成果とも思えた。それとも、娘の気質を熟知した上での教育だったのだろうか……。
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