弐の2

 ──再び、携帯端末が震えた。


 《はやく迎えにこい》という文字列が画面に表示されている。

 それを軽く目視すると、男は小さく舌打ちをしてアクセルを強めに踏んだ。

 まだ五分も経っていないというのに、この催促のしようだ。愚痴は滅多に口にしない主義だが、雇い主でもある魔女たちはやたらと人使いが荒い。

 いちいち細かい指示が多すぎるのだ。たとえ、耳がよく聴こえずとも、その騒々しさは目や肌を通して嫌でも伝わってくる。無理に頼まれた仕事とはいえ、神経質で厄介な魔女たちを相手にしてることには変わりなかった。

 駐車場を抜け、北側の大通りを右折してからすぐに、なだらかに続く長い坂道が現れた。

 天高く、青空まで吸い込まれてしまいそうな気持ちの良い一本道。見晴らしも素晴らしく天気も良好。休日であれば絶好なドライブ日和だったろう。

 しかし、ふと周りを見渡してみれば景観を著しく崩すようなタワーマンションや近代的なビルがいくつも建っている。

 山際に乱立する建物を見ても、なにか様子がおかしかった。

 地盤強度などの見地から見ても、常軌を逸したような場所ばかりに建設されている。いったい、どんな理由にかこつけて国や役所から許可を受けているのだろうか。各所に散見されている熊を祀った石像もさることながら、地域の住民でさえ偉そうな態度で接してくる有様だ。

 ……見れば見るほどに、奇妙で滑稽な風景。東京という土地は何処かしら狂っている。

 男が待機していたショッピングモールも同様だった。

 地元の住民はおろか、観光客でさえまばらなのに赤字経営を不思議と続けている。それだけの魅力や価値が、この土地にあるとはとても思えなかった。

 情報は極力、仲間で共有するようになってはいたが、あくまでも仕事上の建前でしかない。どうせ、あの魔女たちのやることだ。裏の営利目的が絡んでいるとみるのが妥当だろう。はたまた、金にモノを言わせて良からぬことを企んでいるに違いなかった。少なくとも、男が知っている過去の彼女らは善人ではない。

 

 ──すると三度、携帯端末がまた震えた。


 男は眉をひそめながら、携帯端末に視線を移した。

 まだ他に用事があるというのか。……だが、渋々と手に取ってみると、珍しく知らない番号からかかってきている。運転中といえども、後回しにするわけにはいかなかった。仮に、緊急時や重要な案件であれば尚更だろう。

 魔女たちから支給された見慣れぬ補聴器をつけ、男はハンズフリーに切り替えてから憮然とした表情で電話に出たのだった。


 ──『だれだ? おまえは、なぜこの番号を知っている』

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