壱の9
早速、そうきたか。毎度のことだが、軽く目眩を覚えるほどの紛らわしい質問だ。しかし、魔女と聴いてなにかを期待してる可能性もある。あらかじめ想定できていた返しとはいえ、正直なところ億劫で仕方がない。順を追っていちから説明するには些か骨が折れる。
……さて、どこまで話してよいのやら。
エリスは少し逡巡してながら、気怠そうに懐からスマホを取り出したのだった。
「高度に発展した『科学』とは、もはや『魔術』と区別がつかない。……なんて、比喩があるのはご存知かしら?」
怪訝な顔をしながら、いち華は眉をへの字に歪ませる。「どういうこと?」
すると、エリスは目立つように、わざとらしくスマホを天高く掲げ、いち華の前で誇らしげに振ってみせた。
「例えばこのスマートフォンね。現在では誰でも扱える携帯情報端末でしょ? 通話にネット、地図のナビに写真に録画、なんでもござれよ。ゲームはもちろん、音楽だって聴けちゃうわっ!」
「……それがなんだっていうの? 魔法となんの関係があるのよ」
「ところが、大ありなの。仮に、……あくまでも仮に、この見たことも聞いたこともないような技術を何百年前の人たちが目の当たりにしたら、他人からはどう映るかしら?」
エリスは意見を伺うように一瞥すると、いち華は、ハッとしたように目を丸く見開いた。表情から察するに一応の理解は示したようだ。とても賢い娘だ。飲み込みが早くて手間が省ける。
「まさか、魔法は科学だと同じだって言いたいの?」
「そのまさかよ。当時、魔女たちが扱う科学技術は随分と発達していたの。特に秘薬と呼ばれる薬物関係、化学に関しては群を抜いてたわ。ただ、昔の人たちが誤解していたのよ。複雑な話だけど、その技術を見知らぬ女たちが操っていたらとしたら……、人々になんて呼ばれるか安易に想像がつくじゃない?」
「……魔女」
「そうね。だから、魔法を見せろと言われてしまうと困っちゃうの。だって、いまや何処にでも魔法が溢れているから。さながら、この携帯情報端末は現代の魔法の杖といったところかしら?」
そう云うと、エリスは茶目っ気たっぷりでスマホを魔法の杖に見立てて陽気に振り回してみせた。
……な、なんとか誤魔化せたであろうか。
ただ、いち華は興が削がれてしまったのか、落胆しているようにも見える。なにか傷つけてしまったのだろうか。もし、アニメの魔法少女のような類を夢見ていたとしたら、悪いことをしてしまったのかもしれない。
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