壱の4

 スマホの画面を鏡代わりに、エリスはさっと身なりを整えた。

 肝心の初対面、第一印象で大体が決まってしまう。相手に失礼がないよう、なるべく気を配らないとならなかった。身だしなみから読み取れる情報はそれだけ多い。どうせなら、こんな辺鄙な片田舎の雑貨店などではなく、もっと趣のある場所で出会いたかったものだ。出逢いには、それなりの細かい演出と慎重さが必要。事と成り行き次第では長い付き合いになるかもしれないからだった。

 ……とはいえ、なんの計画性もなく勢いだけでここまで追ってきてしまった懸念も残る。少し浮かれ過ぎた。だが、いまは一刻を争う。時間だけは待ってはくれぬのだ。はやきこと風の如く、相手の裏をかくには迅速に行動し、これ以上は出遅れるわけにはいかなかった。

 窓越しから伺うように、エリスはそっと店内を覗いた。

 営業しているにも関わらず中は薄暗く、他に客はいなさそうだった。普段から日用品を扱っていそうだが、商品も疎らで品揃えも悪い。店主の姿など、別にどうでもいい。どうせ、店の奥にでも引っ込んでしまっているのだろう。

 それよりも気ばかりが焦ってしまい、自然といち華の姿ばかりを目で追ってしまう。柄にもなく少しは緊張しているようだ。彼女はいったい、どんな顔をしているのだろうか。逸る気持ちを抑えきれず、否が応でも高鳴る期待で胸が張り裂けそうだ。少なくとも、いち華が絶世の美少女であることには間違いないだろう。


 ──そうなのだ。なんせ、彼女は……

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