壱の2
「あれね、日本刀らしいよ……」
と、少女はアイスの棒を刀に見立て、得意げに振ってみせる。
「日本刀って、お侍さんが持ってる?」
「すごくない?」
「本物……? えっ、大丈夫なの?」
少女は意味深に微笑み、物欲しそうな目つきと共に手を伸ばした。さらなるアイスの催促か、それとも金銭の要求なのか。いずれにせよ、ここから先の情報は無料とはいかない様子。呆れるほど図々しい態度だが、なかなかしたたかな少女だった。
「とっておきの情報だよ。どうする?」
少女はやや下から大きな瞳で此方を覗き込むと、なんだか勝ち誇ったように小さく口角を上げた。
「……そうね。でも、結構よ。あとは本人を尋ねてみるから」
「え? ああ、そうなの……?」
少々あてが外れたのか、少女は口をへの字に曲げて不貞腐れた顔をする。すると、今度は向こうからすっと手が伸びてきて、おもむろに名刺を渡されたのだった。名刺には彼女の名前と見慣れぬ家紋、それと携帯番号が記載されている。
「なにこれ、せいえん……てら?」
「さいおんじ〝西園寺エリス〟もし、気が変わったら、連絡をちょうだいな」
優しい口調ながらも威圧的な強い視線を感じる。ほぼ同年代とは思えない迫力にたじろいながらも「なによ、偉そうに」と、少女は不服そうに言葉を返したのだった。
深々と丁寧に少女に向かってお辞儀をしながら「聡明であれば、返事があることを期待するわ」と、ひらひらと手を振りながら優雅にその場を後にする。心なしか、どこか急いでいるような雰囲気もあった。
……それにしても、いったい何者だろうか。
この近辺では見慣れぬ顔だった。それとも、近所の転校生だろうか。年齢は同じぐらいに見えたが、妙な気品に溢れている。まるで、大人の女性と話している余裕すら感じた。少女は手渡された名刺を眺めながら小首をかしげると、徐々に消えゆく彼女の後ろ姿を見送ったのだった。
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