第4話 マジカルジャイアント
「私はとてつもない損害を被っているのよ!」
「でも彼をバーサーク状態にするのは、あなたの許可が必要ですよね?」
「あたりまえじゃないの、私の魔力を使ってバーサーカーになるのよ」
「あなたの権利を行使した結果、なんですよね?」
「彼が大丈夫だって言ったんだもの!でもとにかくひどい目にあったわ!」
「それは、物理的な不利益ではないんですよね?」
「そうよ!とにかく、もう、不快!不快不快不快不快不愉快!!」
「具体的には……」
「口に出したくもないわ!どう見ても不愉快なものは不愉快!他人の気分をこんなに害しておいて、よくもまあ平気な顔でいられるわね!」
さっきからこの調子なので、ヨダカは正直なところ辟易していた。
彼女が気分を害したということ以外は要領を得ない。
冒険のパートナーになった彼は横でなんとなく縮こまっており、なんというかこれまで何度も目にしたことのある、「気分の問題でヒステリーを起こした女性に対して、なにが悪かったのかわからないのでとりあえず大人しくしておこう」という顔だった。
「えー……意識が好戦的に変性して、筋肉が一時的に発達して身体の形状が変化する、そして腕力などの一時的な向上を得る……そのことには、事前に同意していた」
「あたりまえじゃないの!それがバーサーク状態よ!」
「えーと……思いのほか弱かったので損害を得た、などではない?」
「そうよ!ものすごく強かったわ!一瞬でモンスターを殴り倒した、でもそんなことはどうでもいいくらいに私は気分を害した!」
「それは、具体的には……」
「言いたくもないって言ってるでしょうが!もうとにかく嫌だったの!本当に嫌!とにかく不快!」
「その理屈じゃあ、どうにもならないですね……」
下の方に目を泳がせている彼に、ダメ元で訊ねてみる。
「不愉快にさせることに心当たりは……」
「本当になにもないので、困ってるんです……ただの彼女のわがままにしか思えない。
バーサーク状態はすごく強いので、やめろと言われると僕の戦力は雀の涙です」
「なるほど」
「ただ自分はバーサーク状態のことはなにも覚えていないので……」
「ですよね」
「あんたどっちの味方なのよ!調停とかしてくれるんでしょう!」
「もちろん、そのためにお話をうかがっています」
「私はさっさとパーティーを解消したいの!でもこいつ、約束が違うって、違約金ていうの?とんでもない額を請求してきたのよ!」
「事前の取り決めでは君も同意したじゃないか!そういう契約だろう!命を預けあう契約を確かにした!こんなに僕の力を引き出してくれる使い手ははじめてなんだ!理由もわからずに解消できるか!」
「埒が明かないので、再現してもらってもいいですか?ちょっと外に出てもらって」
「わかりました」
「光の軌跡の加護を得よ、汝は狂える獅子、狂える疾風、狂える流星なりて」
彼女が手をかざし呪文を唱えると、彼に光が集まっていき、彼の目は異様な光をともし、やがて獣のように唸り出した。
むくむくと筋肉が隆起して背中が盛りあがり、肩が盛りあがり、頭部が変形した。
頭部が、変形した。
巨大な、人間の勃起した男性器のかたちだった。
妖精がくすくす笑って通り過ぎた。
「やあ、巨根持ちのお嬢さんがまたハッスルしてるぞ」
「立派なもんだね」
「あんなサイズ、おまたが破けちゃうよ」
彼女は真っ赤になった。
地団駄を踏んで、頭を抱えて、涙目になって、
「本当に、不快としか言いようがないのだけれど……!どうしたらいいかしら……!」
「ヒャッハー!今日は誰をブチ○せばいい、ハニー!」
彼は陽気なステップを踏みながら、ぐいんぐいんと竿をスイングさせてハイテンションに舞い踊っている。
「漢の!汁を!噴き上げろ!ヒャッハー!!」
証拠の動画(空間を記録する魔法だ。これは探偵をはじめるにあたって最初に覚えた。この世界の住人には基本的に証拠という概念はないので、役に立たないことも多いのだが、もちろん役に立つ場合もある。たとえば今回のように)をそっと彼に見せると、
「ど、どうしていままで誰も教えてくれなかったんだ……」
抜け殻みたいにぽかんとして、パーティー解消を受け入れてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます