第5話

 ※今回と次回の話は毛色が違います。皆様にご理解頂けると幸いです。




 翌日、優人はまた12時間以上も寝てしまった。


 二日連続で12時間以上寝続けるとは

 あの人形に体力でも奪われているのか

 雪奈が大丈夫と言ってくれたが気になる


 簡単な食事を一人で摂りながら、スマホでお祓いをしてもらえる神社を調べると、電車で一駅行ったところに良さそうなのが一社あった。




 優人は、駅に降り立ちスマホの地図を頼りに目的の神社を目指した。

 住宅街を抜け、田畑が広がる中にぽつんとその神社はあった。こんもりと小さな山のようになっており、神社らしく周りを背の高い樹々で覆われている。それほど大きくない鳥居に、天願神社と書かれた神額が飾ってあった。


「こ、これは・・・。」

 赤い鳥居の下で一礼し、神社に足を踏み入れた優人は、思わず驚きの声を上げた。

 狭い参道の脇には、蛍光色の派手なのぼりが所狭しと立ち並んでいる。降魔厄除、明朗会計、魔除完全保証、大出血サービス中など、様々な煽り文句が踊っていた。まるでパチンコ屋の新装開店で並ぶのぼりのようだ。


「ここは本当に神社なのか?」

 参道の先に、ピンクと黄色で塗られた本殿らしき建物が見えた。何だか風俗店のようにどぎつい色彩だ。どんな御神体が収められているのか優人は気になった。

 参拝する人の影は無く、境内は静寂に包まれていた。

 身を浄めようと近くにある手水舎に向かう。


「何だこれ?」

 水盤の縁に小便小僧が建っていて、おちんちんの先から水がちょろちょろと垂れ落ちている。

 柄杓で水を掬い、手を清め口をゆすぐ。何だかおしっこを口に含んでいる気がした。せっかくなので、小便小僧のおちんちんを指で摘まむ。


 コールド勝ちだな。

 優人は余裕の笑みを浮かべた。



 受付を済ませるために社務所を訪ねると、巫女服を着た若い女性が一人いた。


「あの。お祓いをお願いしたいんですが。」

「それではこちらに名前・住所・生年月日・祈祷内容をご記入下さい。」

 手渡された紙にボールペンで記入して、それを女性に返す。


「こちら料金表になります。」

 ラミネート加工された料金表を手渡される。

 最低料金一万円から最高料金十万円まで、結構幅広い料金設定だった。

 今なら半額サービス、とシールが貼ってある。


「この料金の差は何でしょうか?」

「授与物の違いですね。お祓いする内容はほとんど一緒です。」

「なるほど。この一万円の授与物は何ですか。」

「神主の写真と御守りです。」


 御守りは分かるが神主の写真などどうするのだろう、と優人は疑問に思った。それに写真なら目の前にいる女性のほうが良い。


「僕は神主さんより、お姉様の写真が欲しいです~。」

 優人は、握った右手を口に当て、恥じらいを見せながらおねだりをした。


「うふふ。正直な坊やね。やっぱり、私のような20代でピチピチな女子のほうがいいわよね?」

 女性の話し方が、今までの事務的な口調から砕けたものになった。これが本来の話し方なのだろう。


「もちろんです、お姉様。こんなお美しい女性は他にいませんよ。」

「まあ坊やったら。お世辞が上手いのね。」


 確かに、眼前の巫女服姿の女性は中々綺麗な人だった。

 茶色の髪は、額の中央で分けられ、なだらかにウェーブしながら胸元に届いていた。

 眼の大きさは普通だが、涙袋がしっかりとあり、目尻がやや下がっているので柔和な印象を受ける。

 真っ赤に塗られた厚めの唇と、口元の黒子がとても色っぽい。

 そして何より、服を押し上げるように膨らんだ豊満な胸が素晴らしかった。


「お世辞じゃありません!顔も体も全て完璧ですよ、お姉様。」

「ふふ。そこまで褒められたのは初めてよ。」

「世の男性は全てお姉様の虜です。それだけの魅力がお姉様に存在しています。」

「嬉しいことを言うわね。それじゃあ、特別に私の写真を撮らせてあげる。」

「本当ですか。ありがとうございます!」

 優人がスマホを取り出し、画面に女性を捉える。


「これは、褒めてくれた坊やのために大出血サービスよ。」

 女性が両手で襟を掴み、焦らすように胸元を広げ始めた。

 綺麗な白い肌に柔らかそうな双丘が徐々に露わになる。


「さ、最高ですっ!お姉様っ!!」


 このおっぱいで溺死したい。

 嬉しさのあまり、優人の意識は、女性の深く彫り込まれた胸の谷間に吸い込まれそうになった。


 こらっ!!


「うっ。」

 頭の中でいきなり怒声が響き、優人の意識はあっさりと舞い戻って来た。


「どうしたの坊や?」

 虚空へ向かって頭を下げ続けている優人を、胸の上部をはだけていた女性が不思議そうに見つめている。


「あ、いえ、何でもありません。早速、世界一のお姉様を撮らせて頂きますね。」

「出来れば綺麗に撮って欲しいわ。」

「被写体が素晴らしいので大丈夫ですよ、お姉様。」

「うふふ。ホント坊やは褒めるのが上手ね。」

 女性の頬がほんのりと上気していた。


「お姉様を見れば、美の化身のようだと男子は皆言いますよ。」

「ありがとう。でもSNSにはアップしちゃダメよ。」

「そんなことは絶対しません。僕の一生の家宝にします。」

 優人は、宝石のようです、まるでヴィーナスです、世界遺産に登録すべきです、と女性を褒め称えながら何回もシャッターのボタンを押した。



「素晴らしい写真を撮らせて頂いて、ありがとうございました。」

 優人は深々と頭を下げた。


「いいのよ。坊やになら写真ぐらいいつでも撮らせてあげるわ。」

「是非、また撮らせて下さい。」


「これも何かの縁だから、坊やの名前を教えて頂戴。」

「優しいに、人という字で優人と言います。」


「坊やにぴったりな良い名前ね。」

「ありがとうございます。あの、僕もお姉様の名前を知りたいのですが。」


「私の名前は鈴音すずね。鈴の音という字を充てるの。」

「鈴音さんですか。華やかさの中に儚げな空気が漂う素敵な名前ですね。」


「ふふ。的確な表現ね。ところで、優人は綺麗な色をしているのね。」

「色ですか?」


「そう。色。優人の場合、綺麗な乳白色。一点の曇りもない純粋な色。」


 肌の色のことだろうか。

 何のことか理解出来ない優人は黙ったまま、優しく微笑む鈴音の顔を見つめた。


「優人は、今まで他人を恨んだり憎んだりしたことがないのね。普通は少しずつ汚れていくものなんだけれど、優人はまるで生まれたての赤子のようだわ。」

「あの、何のことなのかさっぱり・・・。」


「ふふ。優人は分からなくていいのよ。必要のないことだから。」

「そうですか。」

 鈴音に何も教えて貰えず、がっかりしたように優人は俯いた。


「優人は可愛いわね。今すぐ私が食べちゃいたいぐらい。」

「た、食べちゃって下さい!お姉様!」


「でも、怖い人に恨まれそうだからやっぱり遠慮しておくわ。」

 鈴音が、優人の肩の辺りを眺めながら謎めいた笑みを浮かべる。


「怖い人?」

 また意味不明なことを言われて、優人は曖昧な表情になった。



「ちょっと長話が過ぎたわね。悪いものを早く落として貰ってきなさい。」


 鈴音に促され、優人は五千円を支払い本殿の中へ入った。

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