第21話

 ※今回と次回はFPS視点となります



 さて、ここからがオレの再生への一歩だ。

 地の底を突き破って落下中の兄の威厳を取り戻さなければならない。


 気合いを入れて前に進む。

 バンッと大きな音がして、右の一番手前のドアが内に開いた。

 おうっ、いきなりはやめてね。

「なに?なに?どうしたの?」

 目を瞑っているらしい雪奈が、何が起こったか確かめてきた。

「ドアが開いただけだ。」

 雪奈に答えて、開いた部屋を覗き込む。

 中には、血まみれの男が床に倒れていた。

 これぐらいは何ともないな。

 左のドアは閉まったままだった。


 ゆっくりと先に進む。

 雪奈もオレに合わせて歩んでいる。

 今度は、二番目の左のドアが開いた。

 覗こうとしたら、ホッケーマスクを被った男が斧を持って突進してきた。

「わあああああああああああ。」

「きゃあああああああああ。」

 驚いて声を上げる。

 雪奈は、オレの声にびっくりして悲鳴を上げた。

 突進してきた男は、その勢いのまま向かいのドアを開け中に入った。

 ガチャンと鍵を掛けた音が聞こえた。

 な、なるほど、ここは人間が驚かせるタイプのやつか。

 一旦、激しく高まった鼓動が収まるまで待つ。

 雪奈は顔を肩にぴったりと付けている。


 さて、とまたゆっくりと足を進める。

 雪奈が、首筋に顔を擦り付けていた。

 三つ目の右側のドアが開いた。

 さっきのような、突進してくる男が出てこないか用心深く中を覗き込んだ。

 白い血まみれの看護師姿の女の人が立っていた。

 長い髪をしていて、大きな注射器を手にしている。

 注目すべきはその衣装だった。

 胸元が大きく開き、豊満な胸の谷間が露わになっている。

 スカートは短く、むっちりとした白い太腿が眩しい。

 思わず見とれてしまう。

 オレの視線に気付いたのか、その女性が左手でスカートの裾を僅かに上げた。

「ありがとうございますっ!」

 感激のあまり感謝の言葉を投げかけた。

 女性がその言葉にウィンクを返してきた。

 お辞儀をすると、ドアがゆっくりと閉められた。

 こんなサービスがあるならもう一周したいな。


 軽やかな足取りで、次のドアに向かう。

 四番目の左側のドアが開いた。

 さっきのような女性がいないかなと、警戒もせずに中を見る。

 誰もいなかった。

 今度はなにもないのかと、振り返ると血まみれの男が眼前に立っていた。

「うわっ!」

 び、びっくりした。

 一瞬心臓が止まりかけた。

 男が、仕事は済んだとばかり右側の部屋に戻って行った。

 ふう。

 また心臓の鼓動が早くなったので、暫く呼吸を整えた。


 最後のドアに向かう。

 最後だからすごいのが待ち構えていそうだ。

 バンッと大きな音がして、左右のドアが激しく開け閉めしている。

 じっと待っていたら、ドアは固く閉ざされ動かなくなった。

 えっと、これだけか?何だか拍子抜けしてしまった。

 ネタが尽きたのかな。

 目の前に真っ白なスウィングドアがあった。

 このエリアはこれで終了のようだった。




 廊下に出て、次のエリアに向かう。

 そう言えば、雪奈がやけに静かだ。

 雪奈は、顔を首にくっつけ、やたらと鼻をくんくんとさせていた。

 匂いを嗅いでいるのだろうか。

 今日は結構汗をかいたしな。


「雪奈さん。お兄ちゃん汗臭いからあんまり匂わないで。」

「ううん、いい匂いだよ。あたし、この匂いが好き。」

「そ、そうか。」

「うん。ずっと嗅いでいたい。」

 心なしか、雪奈が抱き締めている腕に力が入ってきた気がする。

 鼻息も荒くなっていた。


 また同じようなスウィングドアがあった。

 今度は、そう気負いせず中に入る。

「こ、これはなかなか。」

 部屋の中は、青白く薄暗い。

 どうやら惨殺現場を再現しているらしく、左に風呂場があり、血まみれの手や足が転がっている。

 右はリビングで、マネキンらしき血まみれの裸体が、数体床に倒れていた。

 どれも、首や手足が無かった。

 お経がずっと流れていて、精神的にくるものがあった。

 時折り悲鳴が聞こえてくる。


「お兄ちゃん。あたし変な気分になっちゃった。うふふ。」

「そ、そうか。お兄ちゃんも少し変な気分だぞ。」


 少し歩くと、左側にぼんやりと照らされた部屋が見えてきた。

 小さめの机と椅子があり、床におもちゃが転がっている。

 どうやら子ども部屋のようだ。

 白い壁に、赤い小さな手の跡や指で引っ掻いたような跡があった。

 出して、出してよう、という子どもの泣き声が聞こえる。

 くっ、これはなかなか堪えるな。

 上から子どもが落ちてきた。

「わああああああああああ。」

 驚いて、思わず後ずさる。

 雪奈の体に、自分の体を押し付ける格好になった。

 片目が飛び出た青白い子どもと目が合う。


「お兄ちゃん、あたしの胸に体をくっつけたらダメだよ。」

「ご、ごめん。」

「あたしの胸、大きいでしょ。」

「そ、そうだな。」

 落ちてきたマネキンの子どもが、するすると天井に戻って行く。

 どうやらワイヤーで繋がっているらしい。


「お兄ちゃん。」

「何?」

 右側を見ると、小さな和室があった。

 少し近付く。


「今日のあたしの下着は白だよ。」

「そうか。」

 中央に、着物を着た小柄な女性が座っている。


「見たい?」

「また今度な。」

 壁のほうを向いていて顔が見えない。

 手に何かを持っている。


「じゃ、今度見せてあげる。」

「うん。」

 もう少し近付くと、ぶつぶつ話す声が聞こえた。

 孫はかわいいのう、食べちゃいたいのう、と言っている。


「お兄ちゃんの下着は?」

「赤と緑のチェック柄。」

 何を持っているか、気になった。

 すぐ近くまで寄る。

 首の千切れた赤ん坊を抱いていた。


「見せて。」

 雪奈が、背中からズボンの隙間に手を差し込んでくる。

 同時に目の前の女性の首が180度まわり、顔を向き合う形になった。

 口のまわりが血まみれの老婆が笑っている。

「うわああああああ。」

 驚いて、また後ずさった。

「また胸に押し付けてきて。そんなに触りたいの?」

「あ、ああ。」

「じゃ、触っていいよ。」

「ま、またね。」

 少し先に進むと、見慣れたスウィングドアが見えてきた。

 雪奈が、柔らかい胸をぐいぐい押し付けてくる。


 ふう。

 廊下に出て一息吐いた。

 少し汗をかいたな。

 雪奈が盛んに匂いを嗅いでくる。

 耳の後ろがお気に入りらしい。

 手もあちこち動いて、胸や腹を触られている。

 抱き締める力も強くなっているが、この間のような感じではないから放っておいた。


 これで二つのエリアを制覇した。


 残りはあと一つ。

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