第5話

 学校が終わり、優人が校門を出て暫く歩いていると、後ろから声をかけられた。

「あら、奇遇ね。」

「あ、委員長。」

 霧沢きりさわが、優人の隣に並ぶ。


「もうすぐ中間テストね。」

「そうだね。」


「あなた、きちんと勉強しているの?」

「毎日してるよ。今度は委員長に負けないかも。」


「相当自信があるのね。」

「じょ、冗談だよ。でも、毎日勉強はしてるからいい点は取れると思う。」


「なら、わたしと勝負しない?」

「ええっ、委員長に勝つなんて無理無理。」


「やる前から、そんな負け犬根性でどうするの。」

「そんなこと言われてもなあ。」


「あなたがヘタレだというのが良く分かったわ。」

「やりますっ。勝負しますっ。」


「ふふ。それでいいのよ。」

「それで、勝負のルールはどうする?」


「単純に、全教科の点数を足した総合得点で決めましょう。」

「賭けるものは何?」


「そうね、わたしが勝てば駅前のカフェで奢ってちょうだい。」

「じゃあ、オレが勝てばねえ、何にしようかな?」


「公園にある自販機のジュースでどう?」

「ひでえ。それは、差がありすぎる。」


「勝てる自信が無いなら、何でも一緒だわ。」

「そうなんだけど、せめてオレが頑張る気になれるものにしたいなあ。」


「あなたが発奮できるのは何なの?」

「委員長のパンツが貰えるとか。」

 優人が暴投を放った。何でも一緒と言われて、少し意地悪なことをしたくなったからだ。


「構わないわ。」

「ええええっ!マジで?マジでいいの?」


「何を狼狽えているの?」

「あっいや、こんな暴投を受け取るとは思わなかったからびっくりした。」


「まあ、あなたにも本気になってもらわないとね。」

「こんなお宝が貰えるなら頑張るよ、オレ。」


「せっかくだから、あなたの目の前で脱いで渡してあげるわ。」

「やったああああああああああああああああああああああああああ。」

 優人が両腕を天に向かって突き上げる。二人の側を歩いていたスーツ姿の男がぎょっとして優人を見ていた。


「ちょ、ちょっと、そんな大声を出さないで。」

「ご、ごめん。嬉しくってつい。」


「あくまでも、あなたが勝った場合よ。結果が出る前にあまり喜ばないことね。」

「うんうん。でも、こんな約束しちゃっていいの?」


「わたしもその方が本気になれるからいいわ。」

「よしっ。オレ頑張るよ、委員長。」


「男って単純ね。」

 二人は、乗る電車がお互い反対方向なので駅で別れた。

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