お前ら、無限回死ぬとどうなるか知ってる?

やバミ

お前ら、無限回死ぬとどうなるか知ってる?

 この世の絶対的なルール。覆しようのない事実。

それは、”死んだら終わり”ということ。人間は皆、死んだことがない。

 ……当たり前だ。

死はゴールだ。始まりじゃない。それは誰しもが知る当たり前だと思っていた――。


 今日までは……。


茂嶋もじまさん、聞こえますか!?」

「ぁ……はっ……は……」

 なんだ?声が出ない。

「聞こえてたら手をあげてくださいね!」

 腕も……上がらない。

「大丈夫ですよ!ご家族の方がすぐに伺いますから!」

 家族?やめてくれ。さっき喧嘩してきたばかりなんだ。それより何か……。体が重い……。まるで底なしの沼に沈んでいくような――。

「も……さ……聞こ……!」

 眠い――。頼むから騒がないでくれ……。もういいから……。

 寝かせてくれ。


「……!」

 目が覚めると俺は知らない草原で寝ころんでいた。そよ風が心地いい。俺はさっきまで寝ていたはずだ。……待て。どこで……?

 二十秒ほど考えて俺は理解した。俺は病院に運ばれたのだ。そこで死んだのだ。家族と喧嘩をし、家を飛び出した。公園のベンチで寝ている所に、不審者の包丁がグサリ。我ながら間抜けな死に方だ。

 ……するとここはどこだ?天国か?にしては薄汚れている。見える範囲はすべて草原で、小さい丘がちらほらと見える。強いて言うならば左側の丘の向こうに小さく雑木林が見えるだけ。だろうか。足元に小さな花が咲いている。見たことがない花だ。どこか大陸の田舎という感じか。

 いや待て、俺は死んだ筈だ。草原で寝ているはずがない。ここが天国でも地獄でもないとするならば……。

 そうだ。この状況を俺は見たことがある。帰宅途中、酔った勢いで書店で買ってしまった若者向けの小説……。ライトノベル……だったか。その本に似たような状況が書かれていた。

 胸が高鳴るのを感じる。小さいころからそういう気質があったのだ。自分は特別なんだと妄想したり、エネルギー弾やビームを打とうとしたこともある。期待せずにはいられなかった。意味のないつまらない人生を送ってきた俺にとって、この広大すぎる草原は幼少に見た夢そのものだったのだ。そう、これは……。


 「異世界転生ってやつだ」


 目を輝かせながら一人呟く。まるで初めて漫画を読んだあの頃のように、俺は胸に弾む高揚感と自分は選ばれた勇者なのだという優越感に心を乱した。まさに俺が今置かれている状況こそまさに俺の人生のスタートに相応しいものだったのだ。

 そうすると話が見えてくる。死んだと思ったら知らない場所にいる。これが意味する所とはつまり、俺は何らかの使命を与えられ転生したということだ。それが神か仏か、はたまた悪魔か……。それはわからないが、俺はここで第二の人生を歩まなければならない。そういうことだろう。

 半分妄想の決意を胸に立ち上がった俺。ふと視界がいつもとは違うように思えた。自分の手のひらに目をやる。小さい。肌のハリ艶でさえ、ここ数十年見れなかったものだ。まさか。俺は焦りつつ自らの体をまさぐった。

 俺の頬に涙が伝った。俺は子供になっていた。それも七歳くらいだろうか。俺自身はもう死んでしまっていたのだ。しかしあっさりと俺はその状況に納得した。体が違うからか、自分という存在が曖昧になっているのだ。だから自分が死んだとわかっても動揺しなかった。

 しかし俺にはまだ不安要素が残っていた。それは……、戦闘力だ。せっかく異世界に転生したのだから派手な剣技で敵を倒したり、魔法で敵をなぎ倒したりしたいものだ。しかし、俺の体には何の力も感じない。ただの子供って感じだ。

 まさか俺は転生してもまた、つまらない平凡な生活をしなければならないのか!? それは嫌だ。とても嫌だ。なんとか考えるのだ……。楽しく生きるために……。

 そして俺は気付いた。

 「そうか!俺はまだレベルが1なんだな!?」

 そう。俺は能力の低さをステータスのせいだと考えたのだ。考えてみれば実質生まれたばかりの俺がいきなり強いわけがないのだ。RPGの定石だからな。

 「そうと決まればレベル上げだ!まずはステータスを確認したいが……。どうやるんだ?」

 普通、ゲームならボタンを押せばステータスが出てくるが、ここは現実だ。ボタンなどあるわけがない。そもそも、現実に”ステータス”なんて概念があるのかさえ分からないんだ。手探りでやってみるしかない。俺は周辺をうろうろしながらテストを始めた。試しにボタンがあると思って手で空を押してみる。……失敗。次に頭でステータス出ろ!と念じてみる。……失敗。

 多種多様、いろいろなことを試したがステータスなど現れなかった。やはりステータスの概念などこの世界にはないのだろうか……。そこで俺は最後に自分が生まれた場所……もとい自分が寝ていた場所へと戻ってきた。ここで空を押してみる。すると突然目の前にゲームのウィンドウのような映像が現れた。ステータス画面だ。

 「よし!成功だ!」

 喜びも束の間、俺は落胆した。

 「必要経験値……1,110,000!?」

 なんとレベル1からレベル2にレベルアップするためには、経験値が相当量必要なようだ。現在の経験値は3。これはさっきテストついでにそこらの草をむしった時のものだろうか。草むしりで経験値が入るのはありがたいが……、これでレベルアップを目指すのは難しそうだ。

 しかし落ち込んでいる場合ではない。この何もない草原で生きていくためにはまず、強くならなければいけないのだ。たかが七歳のレベル1の子供に何が出来るというのか。早速俺は冒険を始めることにした。

 まず出会ったのは一匹の子犬……?だろうか。しかしなにか角が生えているし、尻尾が三本もある。RPG的思考で考えればこれはモンスターで、モンスターを倒せば経験値が多めにもらえるのは常識だろう。しかし……。

 「どう見ても子犬……。」

 しかし、その子犬のように見えたモンスターは俺の躊躇を見逃さなかった。その獣はトコトコと近づいて来たかと思うと俺の足を前足で小突いたのだ。

 瞬間、足元に激痛が走った。

 「う”あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”!!」

 鈍い音を立てて俺の脛は半分に折れた。

 「ぅ”……。ヒュッ……ゥ……ぅ”……」

 激痛で息ができない。俺はうずくまり胃の内容物を吐き出した。それでもなお、その獣は俺のもとへ歩み寄ってくる。俺は恐怖で痛みを忘れ、片足で走り出した。もてる全力のスピードで遠くに見える雑木林に逃げこみ、木の傍に身を隠した。

 しかし、これがダメだった。ガサッと奥の茂みが鳴ったかと思うと、俺の体に経験したことがないような衝撃がぶつかってきた。視界がブレて定まらない。なんだ?と思う隙も無く、俺の体は人形のように地面に打ち付けられ転がった。辛うじて視野に捉えることができたのは赤黒い塊。獣だろうか。

 そんなことを考えながら、俺は人類初にして最速であろう二度目の死を迎えた。


 目が覚めると、さっきまで自分がいた、そして死んだ草原に寝ていた。夢……だったのだろうか。いや、あの痛み、衝撃。何をとっても現実以外の何物でもなかった。ではなぜおれは生きているのだろうか……。不思議に思うが、思い当たるところもある。残機である。残機がいくつかあって、死んでもここに戻ってこれたのだろうか。ならここはセーブポイントということになるが……。

 「実質初めからってことね」

 俺は俯瞰した目で言い放ち、ステータス画面を開いた。そして、目を疑った。


 「レベル……52…………!?」

そう。ここから俺の地獄が始まったのだった。

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