リリスvsラヴィ2

リリスは改めて覚悟を決めたつもりだった。


「お友達助けられないなぁ」


そう言われ、また躊躇ってしまった。


「あたしを石化させるのは構わない。こういうことやってるから、いつ死んでも悔いはない。

だが、お前はそうじゃないよなあ?あたしはもう石化を解除するつもりはないぞぉ」


独特な笑い方に不快感を感じた。


「良い事教えてやろう。あいつらはまだ生きている」


「……まだ?」


「そう、一歩づつ死への階段を上がってるんだよ」


最悪な答えだ。


やはり石化解除には時間制限があったようだ。


「しかも、お前が見た通り、同じ系統の魔法を使えるヤツにしか解除出来ない。

つぅまぁりぃ~あたしが死んだら、解除出来ないお前はお友達が死ぬのを

指を咥えて待ってるしか出来なくなるなあ、いっひっひっひっ」


ラヴィを殺せば、ミナとルーも確実に死んでしまう。


リリスの覚悟が天秤のように大きく揺れていた。


「あと何分持つかなあ?個体差があるから急いだほうがいいぞ」


急がなければ、リリスに焦る気持ちが出てきた。


「さっさと決めろよ!!」


「!?」


怒鳴り、近づいて来るラヴィに思わず結界の穴を広げてしまった。


そしてそれを待っていたかのようにラヴィはリリスに迫った。


「ざぁこ」


ラヴィを殺すことを躊躇った結果、結界を解いてしまい接近を許してしまった。


そしてラヴィはリリスの顔を力一杯殴った。


「仲間がお前を弱くしたんだよ」


殴られ大きく吹っ飛んだリリスはその場で力無く倒れてる。


「あたし達蛇魔族じゃまぞくは体の大部分がしなやかで強い筋肉で出来ている。

そこに強化系の魔法が加われば硬く切れないのに変幻自在に動く鞭のような体になる。

ただのパンチでも効くだろ?お前らとは作りが全く違うんだよ!」


防御は間に合った。だから頭が飛んでいない。


だが防ぎきれずダメージが大きい。


意識が朦朧とする中でも、リリスはいろいろな考えが頭の中を巡っている。


崩れる石像ストーンアッシェ”は変化系かもしれない。


なぜ石にしてる?なぜ石化と砂化の二段構え?


急いで解かないと死んでしまう。


……


……


仲間がお前を弱くしたんだよ。


……


……


確かに。昔のままならこんな人にやられることはなかった。


即石化して崩してしまえば簡単に殺せる。


だがミナやルーを、仲間を救いたいから殺さないようにしている。


その結果、手痛い反撃を受け倒れている。


……仲間を、救いたい?


この魔法、医療行為に使ってたんだよな?


なら使いやすく改良したかもしれない。


どんな魔法でも強弱くらいはつけられる。


現にスプニールやリヤナのような異能でも強弱をつけたりして使っている。


必要な効果、不要な効果その強弱を変えた結果が石化?


いや、強いと言われてるのは内側。つまり砂化の方だ。


リリスの“崩れる石像ストーンアッシェ”は砂化の魔法。


それが効果が弱まって石化となった。


じゃあ、その砂は何?


そういえば前にこの砂は非常に軽くスカスカで、

飛んでいく様子から灰と勘違いされたと聞いた。


その灰の主成分は……


「ははっ……」


思わずリリスは笑ってしまった。


「およ?頭打っておかしくなったか?」


リリスは体を横にしながらも、ラヴィに顔を向ける。


「助けたい仲間がいないあんたにはわからないでしょうね」


「……いひひひ、負け犬が吠えてんじゃねぇよ!」


ラヴィは渾身の力でリリスを殴ろうとした。


だが腕は石化して崩れ、砂となって飛んでいった。


「あぎっ!?う、腕が……!?」


砂となり飛んでいった腕は石化を解いても元に戻らない。


「ああ、そうか。強弱も気を付けないといけないんだね」


リリスがポツリと呟き、立ち上がった。


「て、てめぇ!よくもあたしの腕を――!?」


今度はもう片方の腕が石化した。


「いぎっ!?……いひひひ、仲間を見捨てる覚悟が出来たみたいだな」


ラヴィがそう言うと石化が割れ、生身の腕が現れた。


「!?……まさか……」


石化の解除はラヴィの意志ではない。


とすると……


「石化は人の細胞と魔力を、石に変化させたもの。ならばその逆に変化させれば解除出来る」


リリスの石化もラヴィの石化も手順は違えど本質は同じ。


だからこそ互いに石化を解除し合えたのだ。


「そしてその変化に細胞の活性化を行うことで医療行為にまで発展させたのね」


「医療……行為……?」


ラヴィは気付いた。


腕を失ったのに出血どころか、体の不調を感じない。


腕があった場所を確認すると、切断面と思われる場所は綺麗な肌をしている。


まるで初めから存在しなかったかのように。


「ありがとう、実験に付き合ってくれて」


リリスが笑うとラヴィの背中にゾワゾワした何かが走った。


「お前……まさか……」


ラヴィは亜人にのみ伝わるある話を思い出し、震え上がった。


リリスはそれを気にする様子も無く、次の目的に移る。


「こっちも試させてもらえるかな?」


「ひっ!」


ラヴィはいつ死んでもいいと思っていた。


こんな戦争ばかりの世界に居れば当然だ。


だが、いざ自らの死を悟ると恐怖が勝った。


もう何も無い。あのお方の声を聞くことも、顔を見ることも出来ない。


それに後悔し、恐れてしまった。


「キョウさ……まあぁぁ……」


ラヴィは体を痙攣させ、白目を向き、口から泡と涎を垂らしながら倒れた。


「……っ!こっちはまだ……」


禁止魔法の“魅了チャーム”は微弱なら、相手の自白を促せると聞いたが、

結果としては最悪。ラヴィは廃人と同じようになってしまったようだ。


リリスはラヴィの体を石にし、砂と変えて飛ばした。


そして念話を繋ぐ。


「マリア?リリスだけど」


「リリス!?戦闘中だって聞いたけど」


「勝った」


「さすが!」


「それで、石化解除を試したい。どこか安全な場所に転移して」


「出来るようになったの!?」


「敵で試した」


「よ、余裕ね」


「余裕……そんなことなかったよ」


無関心、切り捨てるべき相手なのに嫌な感じが残った。


それだけラヴィは特別な存在だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る