再訪

戦況は有利。


というより明らかに相手が弱い。


タイミング的にキョウの一味だと思っていたが弱すぎる。


いや、兵器が中心なので本体はいないようだ。


だが厄介なのも存在する。


藤躑躅ふじつつじの君の人造人間ホムンクルス集団のworksだ。


worksは戦闘メイド集団とも呼ばれており、その強さは量産型で上位魔導士と同程度。


数が少ないが、ミイナのような特別製は下位の上級貴族と同程度とまで言われている。


幸い、クラリスと特別製の一体であるニイナがいないので、そこまで苦しくないが……


「ポーラ!リリスがラヴィを討伐したよ。それに石化解除も出来るようになったって」


「よし!じゃあ、ミナとルーは」


「ええ。安全な場所に転移させて頼んだから、助かるかもしれないわ」


殉職と思われた二人が助かる可能性が高い。それだけでも良い知らせだ。


「こっちも被害があるけど優勢。このまま本体が来ないことを祈るばかりね」


しかしその願いは脆くも崩れ去るように、ひと際大きな爆発が起こる。


「キョウ――うわああ!」


何処かの部隊が通信を絶った。


「中央棟上部で爆発を確認、通信記録から敵の大将が現れた様子。トウヤ、頼める?」


先日の接触でキョウは「マミの子供は生きて連れて帰る」と言っていた。


つまり、トウヤとミズキを連れて帰る。


連れて行こうとしている人物を相手の目の前に出す危険な行為だ。


「ああ、すぐに向かう」


敵は元麗王れいおう


勝てる可能性があるのは同じ麗王れいおう、それに近い存在の七剣徒セプトレアのみ。


ポーラが直接指示することが出来ないのでトウヤに向かってもらい、

あの二人に守ってもらうことで、間接的に戦闘に参加させることが出来る。


それを理解しているトウヤは即座に向かってくれた。


危険で強すぎる相手。ポーラは祈ることしか出来なかった。




中央棟上部にトウヤは到着した。


人が倒れていたので確認したが、皆息は無かった。


デバイスのような武器を持った人もいれば、一般職員と思われる人がいる。


どうやらこの場に居た人全てを殺したようだ。


「惨いことを……」


トウヤはポツリと呟いた。


「ああ、この国で下人の命は虫けら同然だ」


あの人物の同意する声が物陰からした。


「……あんたはこの国の人間を恨んでいるのか?」


「いや、興味が無くなった、というのが正しい。恨みがあるとするともっと上だ」


「なら上だけ恨めばいい。ここの人たちは関係ないだろ?」


「いや、あるさ。上を引きずり下ろす礎という役目がな」


「……っ!」


「勘違いするな。と言っても無駄だろうが、俺が来た時には既にこのありさまだ。

恨むんならそこの人形たちを恨むんだな」


メイド服を着た女がゾロゾロと現れる。クラリスの人造人間ホムンクルスだ。


そして完全に囲まれた。


いつ襲われても対処出来るように、トウヤ達は構えた。


「ここはあいつらを待つにはいい場所だ。戦闘で破壊されたら困るんだ」


そう言われると赤黒い景色へと変わっていった。


「封絶!?」


局の魔導士以外が使っているのを初めて見た。


「効果は知っての通りだ。これで存分に暴れても構わないぞ」


その声に合わせてロボット型の兵器がぞくぞくと現れる。


「!?一体どれくらいの戦力を……」


クルルが数の多さに驚いた。


「私の存在はイタノークの件で知られていたのでしょうね。

ならばそれに対抗出来るだけの兵力を揃えるのは当然」


スプニールの顔は知られていたので早い段階から知られていた可能性は高い。


つまり七剣徒セプトレア、いや麗王れいおうを相手にすることを想定しているに違いない。


「あのメイド達は量産型です。難しい指示は出来ませんが、

それぞれのデバイスに特化させたスタイルですので、気を付けてください!」


シンプルイズベストという言葉があるように、あれこれ出来るようにするより、

一つの能力を徹底的に極めさせたのが量産型戦闘メイドの特徴らしい。


同じ人造人間ホムンクルスでもミイナとはまた違った強さを備えているようだ。


「どうする?これだけの数は、さすがに辛いわよ?」


異能に自信のあるリヤナでも心配する数。


数の暴力は魔法でも同じようだ。


「指示はこの前と同じ、マミの子供は生きて連れて帰る。それ以外は好きにしな!」


キョウがそう指示するとメイドもロボットも一斉に動き出した。


「マリア!俺以外を退避!!」


トウヤがそう叫ぶとトウヤ一人を残し、スプニール達の姿が消えた。


(ほう、瞬時に転移できるのか。便利なやつもここに居るんだな)


スプニール、ミイナ、リヤナの顔は知っている。


この三人の魔法に転移系は無い。


もう一人の赤髪の女。顔からしてアマリリスの家系だろう。


あの一族は歌による召喚系の能力。似ているが少し違う。


となると隠れている誰かの能力ということになる。


それも気になるが一人残ったマミの子供。


これだけを相手に何をするつもりだろうか?


キョウはトウヤの動きを注視した。


トウヤは後ろに下がりながら正面に魔法陣を展開。


そして手を引き構えた。


「ラジエーション!バスター!!」


そう叫ぶと魔法陣を叩いた。


すると、何かが飛んだような気がした。


キョウはそれに危険を感じ、即座に退避。


だがメイドとロボットはお構いなしに突き進んだ。


何かを受けたのだろう。


ロボットは全体が膨れ上がり破裂後、爆発を起こし大破。


メイドは悲鳴を上げながら体の一部が破裂。そして黒焦げになり倒れていった。


一瞬で数十のメイドとロボットを戦闘不能にしたことにゾクッとした震えと、

予想以上に強力な攻撃を行ったことに嬉しく思えた。


(マミ、やはりお前は最高な女だったみたいだな)


そう思いながらトウヤの魔法の結果を確認した。


どうやらトウヤの魔法は広範囲だと効果に差が出るようだ。


トウヤの近くが一番効果があったようで、ロボットはもれなく爆発、大破。


だが離れた位置に居たロボットは爆発とはならずとも、一部が肥大化。


パーツを取り換えれば動きそうだがすぐには動けないだろう。


問題はメイドの方だ。


近い位置は黒焦げに、離れるにつれて焦げ具合が変わっていく代わりに、

体の一部が破裂しているように見える。


場所は様々だが、目が一番多く見える。


(これはいったい、どういう原理だ?)


熱系ということは火属性?いやそれなら表面だけ焼けるはずだ。


それに破裂の理由が出来ない。


わからない。だが使える。


麗王れいおうを相手にするなら、魔法世界の人間が理解しづらい魔法の方が良い。


対策しづらいという優位性が保たれる。


「さあ、次は何を見せてくれる?」


キョウがそう言うと背後から気配がした。


驚き確認するとナイフを持ったスプニールが突き刺そうとしていた。

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