崩れる石像
「石化の魔法について知りたいだと?」
リリスは一人でステラとティーナに会いに行った。
そして自分の魔法について聞いてみた。
「魔法のことならジュリアンに聞けばいい。あいつは優秀で知見も広い。
大体の魔法についてはあいつが教えてくれるし、教えるのも上手いだろう」
「聞きましたが知らないと言われました」
「……まあ、お前の魔法は亜人であるが故の魔法なんだろうな」
「あらあら、ジュリアちゃんには荷が重いわねぇ~」
二人とも、この結果を予想していたと言わんばかりの口ぶりだ。
「そのジュリアにも解らない魔法について、なぜ私達なら答えられると思ったんだ?」
多くの人が師事を乞うならジュリアを選ぶ中、リリスはステラやティーナを選んだ。
その理由を二人は気になっていた。
「この魔法について、教えてくれた……」
「ただ単に過去の資料から似た魔法を教えたんだ。お前の魔法は“
似ているからそう呼んでいるにすぎないだけで、正確には名称未定魔法だ」
「だったら“
「……お前の本来の目的はそこか」
二人は紅茶を飲み、少し時間を空けた。
「率直に言って、解らないということになる」
「でも――」
「あらあら、焦らないの」
納得のいかない答えにリリスは落ち着いていられない気分だ。
「少し長くなるわ。だから、これでも飲んで落ち着きなさい」
ティーナは数種類のハーブを漬けたお湯をカップに注ぎリリスに差し出した。
差し出されたがとても飲む気にはなれなかった。
「飲みなさい」
ティーナからの圧がきたので渋々口にする。
爽やかな香りにほど良い甘み。普通に美味しいと思った。
「少し、落ち着いたかしら~?」
どうやらリリスを落ち着かせることが優先だったようだ。
「では、話を戻そう。“
なぜなら風石の魔女は解く前に死亡しているし、石化したものは全て崩れている。
そして蛇族の石化魔法は、その使い手が解いた記録のみ存在している。
これが、どういうことか、お前には解るか?」
リリスは首を横に振る。
「蛇族の人間以外でこの魔法を解いた者はいないのだよ」
「え!?……でも、魔法を打ち消す魔法が存在するのでは?」
「デスペルのことか?あれは効果の発生を打ち消すのであって、既に完了した魔法を
打ち消すものではない。根本的に違うので、石化を解く魔法としては不適切だ」
「なら蛇族の人に――」
「蛇族と言っても、使っていたのはごく一部で、今は行方知れずだ」
「つまり局が石化の解除方法を知るのは難しいのよね~」
「そ、そんな……」
もし味方に当たってしまったら取り返しのつかない状況だ。
リリスの魔法はより危険で慎重に扱わなければならなくなる。
トウヤ達の力になりたいのに、自分の魔法は足枷に成り得る。悩ましいことだ。
「だが、お前の勘は間違っていないだろう」
「え?」
「お前は我々なら答えを知ってるかもしれない、そう思ってたんだろ?」
「……」
リリスは黙って頷く。
「……やっぱり、同族には妙な勘が動くのでしょうね~」
同族、なぜそんな不思議な物言いを言ったのかと疑問に思ったが、
その答えが目の前に現れ、リリスは驚いてしまった。
「そう、お前の勘の通り、我々はお前と同じ、亜人だ」
ステラには蝙蝠のような翼が、ティーナには長い耳が現れた。
「私は
貴族には亜人を嫌う人間は少なくないのに、こうやって溶け込んでいたなんて……
リリスは驚きのあまり、声が出なかった。
「お前の勘では、我々なら手がかりを持っているかもしれない、だろ?」
考えていたことを言い当てられ、さらに驚き、何も話せず身動きも出来なかった。
「その勘は当たりだ。ある仮説と共に、一つの答えを導き出している」
「!!」
リリスは有益な情報に思わず前のめりになった。
「石化魔法は亜人特有の魔法であり、亜人にしか干渉できない部分を使っている。
だから亜人にしか解くことが出来ず、
知られないということは解析もされていないということだ」
だからこそ、ジュリアも知らない魔法であった。
「そしてまず、謝らなければならないのが、まだ解析しきれていないので、
この見解は我々が独自に仮定したものとして認識してくれ」
亜人の数だけこのような魔法が存在するのであれば、二人で解析するには多すぎる。
物理的に難しいことを理解し、リリスは黙って頷いた。
「お前の“
なぜ、石なのか。鉄ではダメなのか。そのあたりは不明だ」
言われてみれば、流体などであれば殺傷能力は格段に上がる。
なのになぜ、石として固めるのか。
「次に距離が近ければ砂のように崩れ飛んでいく効果があるが、なぜ近づいたらなのか。
最初から石として固めずに、砂のように変化させたら良い物を、なぜ二段構えなのか」
身を守るためならば、二弾構えにせず、最初っからそのようにしたら良い。
つまり二弾構えなのは何かしら理由があると推察出来る。
「そしてこれは我々の仮定だが、“
「え!?」
思わぬ仮定にリリスは声を出して驚いてしまった。
「そう、お前は操作系を得意とする魔法使いだ」
魔法使いはそれぞれ得意な系統を持つ。
リリスは操作系、それ以外は不得手なはずだ。
「まさか、調べ方が間違っていた?」
「いいえ、“水見式魔力判断法”は正確な調べ方として多くの結果を残しているわ~。
だから今さら、その方法が間違っていると考えるのは違うと思うわね~」
系統は間違っていない。とすると……
「亜人は得意系統の他に、それを無視した独自の魔法を宿しているのだろう」
つまり操作系が得意なリリスだが、それ以外の得意な魔法が存在するという事。
「その独自の魔法が“
「おそらくは、な」
「それに、あなたの種族は“
「私の……種族?」
「あらあら~知らなかったのかしら~?」
「“
自分が亜人であることくらいしか知らなかったし、そこまで興味が無かったが、
人の括りで言えばトウヤ達よりステラが近いという事には驚いた。
“
そして亜人なら“
だから変化系の可能性がある。
言われてみればその通りだ。
リリスが操作系だからと思い込んでいたから見逃してしまったが、
石化が主な効果で、結界のような形で発せられることも、
その効果範囲を変えられることも全て石化させるために付属された効果だ。
「じゃあ……なぜ石なの?」
「そこはお前自身が考えるべきだろう。そしてそこに石化解除の鍵があるはずだ」
自分を知り、なぜこの魔法を使うことを先祖は選んだのか。
石化解除の手がかりが見えたが、道はまだ遠いことを実感した。
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