リリスvsラヴィ

「いひひひ、お前があたしの相手になるのかねえ?」


リリスが手を動かすとラヴィの片腕が石化になった。


「いぎっ!?」


ラヴィは即座に石化を解除する。


「えぐい事してくんじゃねぇか」


部分的に石化させると痛みがある。


リリス知る通りの結果だ。


リリスの家族はこの力を医術的に使い、病気や怪我の治療を行っていたと聞く。


その家族が残したこの力の資料を読み、自分の魔法をより深く知ろうとしているが、

わからないことが多すぎるし、講師であるジュリアに聞いても、

ジュリア自身、この魔法を知らないので答えが解らず終いだった。


「そういえばどこかの亜人が、あたしたちの魔法とよく似た魔法を使うとか聞いたな。

そうは見えないが、もしかしてお前も亜人か?」


ラヴィの問いにリリスは黙っていた。


「いっひっひっひ、そりゃ答えないよな。どの亜人かによっては即殺されるからなあ」


リリス自身何度か暗殺されかけたことがある。


局は亜人でも気にしない風潮だが、よくわからない亜人は牽制しておこう、

くらいの考えだと思っていたが、やはり一部分しか見れていなかったようだ。


「あたしも昔は苦労したぜ。見た目が気持ち悪い。尻尾が気持ち悪い。口が気持ち悪い。

足が無いのが気持ち悪い。一緒にいるだけで気持ち悪い。存在が気持ち悪い」


ラヴィは両手を地面に叩きつけて怒りをあらわにする。


「気持ち悪いのはてめぇらだ!気持ち悪い見た目で、気持ち悪い言葉。

口も行動も何から何まで気持ち悪い連中が、何ふざけたこと言ってんだ!!」


自分に言われても、とリリスは思っていたが気持ちはわからなくない。


リリスも亜人ということは知られているので、奇異の目で見る連中は多い。


たまたますれ違う人、言葉も交わしたこと無い連中に、そう見られることも少なくない。


そんな連中が気持ち悪い。似た経験があるリリスにも理解は出来る。


「臭い物には蓋をしろ。腐った果実は早く捨てろ。これがお前らのやり方だろ?

ならばあたしが同じことをやっても文句を言われる筋合いが無い!

そしてあのお方はこれを許してくれた。受け入れてくれた。

だからあのお方のために、あたしのために、敵である局をぶっ潰す!」


ラヴィは思いを高らかに叫ぶ。


「お前も、そうなんだろ?」


そう言われ、リリスにザワザワとした何かが体中を走った。


確かに似ている。


誰かのために、ラヴィはあのお方、キョウ・ネリウムのために。


リリスはトウヤ、ポーラといった人のために。


それ以外がどうなろうが興味が無い。


亜人というだけで奇異な目を向ける局にも。


その人のために自分が居ればそれでいい。


「確かに……」


そしてリリスは……


「なら、わかるよね?私はあなたが許せないことを」


「およ?ほぼ初対面だと思うが、あたしがお前に何かしたか?」


「あなたが、私の友人にした仕打ちを」


「ああ、あんな雑魚を友人とか、苦労するな」


同時に魔法を放ちぶつかり合う。


が、能力的にはリリスが優位のようでラヴィの魔法は石となった。


「ちぃっ!」


ラヴィは躱しきれず、尻尾が部分的に石に変わるが、即座に解除した。


「いひひ、能力的にはお前が上か。でもそれだけだなあ!」


そう、石化が解除されるならばリリスの脅威は半減される。


だがまだ能力の全てを出したわけではない。


それはリリスにとって切り札になる。


だが……


「これにも弱そうだなあ!」


ラヴィはそこらへんにあった瓦礫を投げた。


が、さほど早くなかったので難なく躱せた。


「いひひひ、避けた。ということは正解だな!」


ラヴィは確信するとさらに瓦礫を拾い、勢いよく投げた。


しかも数が多くなっている。


「いひひひ、魔法でなければ無力なもんだなあ!」


躱しながらもリリスは攻撃に転じた。


だがラヴィは容易く避けた。


「しっかり隠してはいるが、隠し方が解れば見えるんだよ」


リリスの魔法は壁という概念があるため、“ごう”でよく見れば見えてしまう。


それを防ぐために見えにくくなる隠蔽魔法を同時に使っている。


しかしこの隠蔽魔法は非常に扱いが難しく、種類が無いため、

同系統の魔法を使うラヴィには、見破られていたようだ。


「形は自由に変えられるが、常にお前と一体になってなきゃならないようだな」


ラヴィもまた攻めあぐねていた。


リリスの魔法が壁一枚だったらまだ良かった。


壁を抜ける際に石化しても即解除してしまえば突破は簡単だ。


しかし実際は壁じゃない。範囲だ。


リリスは壁のようにして石化し始める場所を操作してるだけで、

実際は壁の向こうが安全である保障が全く無い。


なので石化解除を前提にリリスの魔法を受けても、連続で石化させられたら動けなくなり、

そのまま魔力切れまで放置したらリリスの勝ちだ。


だが一定の距離を保ち、遠隔操作でのみ攻撃している。


何か狙いがあるのだろう。


そしてこちらの魔法は全て石化させられる。


と言ってもラヴィは強化系主体だ。


距離を取った戦闘はあまり得意ではない。


放出系魔法は、散々使った石化魔法のみだ。


「厄介な相手だがちょうどいい、あの方のために高みへ行きたかったところだ」


ラヴィは石化魔法を一点に集中して放った。


普通に放って当てた場合、石化してもある程度進んでいたので、

当たってもしばらくは慣性が残り、奥へ進もうとすることはわかっている。


ならば強い慣性を持たせて石化した場合は?


石化した魔法が奥へ進み、いずれリリスに当たる。そう考えていた。


だが実際は……


「いひひひ、お前の魔法は二重に覆われているんだな」


石化しても奥へ進み続けた魔法は粉々に崩れ消えていった。


「お前の能力は近づくほど石化の力が強くなる。風化に近いものか」


ただ魔法で守っていた。それだけで見抜かれたことにリリスは動揺した。


「いひひひ、顔に出てるぞお、駆け引きとかも苦手なようだな」


リリスは必死に隠そうとしたが、わかりやすい。


「これは戦闘経験の差だな。それにいい事を教えてやろう。

何かを狙っているようだが、お前にそんな余裕は無いぞ。

あたしはこの後も戦闘に参加する予定だったが現れないとなると、

あたしの仲間がこっちに様子を見に来るだろう。そうなればニ対一。

お前にとっては避けたい場面じゃないのか?」


リリスにとって増援は脅威でない。広範囲で魔法を使えばいいだけだ。


いや、周りに味方が居た場合、巻き込んでしまうか。


ならば自分の周囲だけ……いや、それも難しいのをつい先日知ったばかりだ。


圧倒的質量を持つ水の塊を頭上から落とされた場合、大量の砂に埋もれてしまう。


「いひひひ、頭は回るようだな」


数時間、この状態を維持することは問題ない。


だが数時間も誰も来ないことは考えづらい。


ここにいち早く来る増援が敵か味方かは判断出来ない。


「……せっかく出会えた同系統の魔法を使う人。使い方をもっと見たかったが……」


リリスは目的を捨て、ラヴィを倒す覚悟を決めた。


だが……


「お前……もしかして解除出来ないのか?」


ラヴィの指摘に覚悟が揺らいだ。


ラヴィはそれを見逃さなかった。


「いひひひ!そうか!だから速攻で殺さなかったんだな!!」


ラヴィを殺すことは先の戦闘で石化したミナとルーの石化解除を諦める事。


そしてリリスが解除を会得するまで何年、何十年と待つことだ。


そうなった場合、二人の命の保証が危うい。


この場でラヴィから解除方法を盗み、リリス自身使えればと思っていたが……

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