ラヴィ・スケイル

白狐月しろこづきの君って言う鈴狐すずきつねの君のお兄さんの命令で救援に向かえた。何処へ向かった方が良い?」


「ミナとルーが苦戦してる!そっちに向かってくれる?」


指揮系統をポーラに集めたので各地の戦況が知らされる。


パースレールのメンバーの多くが駆け付け非常に大きな戦力となっており、

住民の避難誘導も順調に進んでいる。


このあたりの連携は非常に強く、ポーラの指揮を手伝うように指揮系統が増え、

メンバー各々の対応も迅速で、混乱が少なく対応出来ている。


問題はアルカナフォート側だろう。


駆け付けたメンバーは総数の四分の一にも満たない。


先の事件から大きな事件だと人が減ると認識され、かなり消極的な人間が多い。


そこに加えて


「すまない、クラリスにしてやられた」


ステラがアルカナフォート側の危機的現状を教えてくれた。


どうやらクラリスはかなり前から動いていたようで、

主要メンバーの多くを人形にすり替えていたようだ。


見知った人間と見分けがつかないほど精巧な人形。


時間が限られていたのか、局全体でそれをやられなかったことだけは救いだ。


だが十分な戦力を削ぐことが出来ている。


格上と呼ばれているアルカナフォートだけ削げば問題ないということだ。


「とりあえず、ミナとルーに合流。そこから敵勢力を殲滅する。

そこから何処へ向かうかは随時送ってくれ」


「わかったわ」




ミナとルーが居る地点に到着した。


だが戦闘中と思えない程静かだ。


トウヤ達は注意しなが進んだ。


「およ?ようやく援軍のお出ましか。遅かったなあ!」


どこからか声がする。


「気配を消そうとも無駄だ。お前らが生物である以上、消せないものがある。

あたしはそれを感知することが出来るんでね、根本的に違いがあるんだよ」


声のする方へ進むと女が一人居た。


ギョロリとした目がこちらを見ていた。


「あいつ……ラヴィ・スケイル」


「いひひひ、あたしも名が知られるようになったねえ」


ラヴィが腰かけていた瓦礫の中に見覚えのある形をしたものがあった。


「その……石……」


「ああ、お前らのお仲間だ」


腰かけていた石は石像。しかもミナとルーの形をしていた。


「あたしが遊んで丁度良いとか、貴族は腑抜けた連中が多いと聞くが、ここまでとはな」


つまり、ミナとルーは石にされ敗北したと言う事だ。


ルーの石像を足、というか尻尾で揺らすラヴィに、

怒りを感じながらも、トウヤは冷静にデバイスで切りかかった。


そのお陰かラヴィの目が光ったように感じ、それに危険を感じることが出来た。


蛇のような見た目の亜人、石像にする力、そして目。


地球人のトウヤには無意識に関連付けてしまった魔法が思い浮かぶ。


石化の魔法。そしてそれを操るメデューサという生物を。


そのイメージに合わせて、トウヤは身を低くして目線から外れた。


そして体を切るようにデバイスを動かしたが、体を曲げ躱された。


「いひひ!初見で躱した奴は久々だ!」


ラヴィは体をしならせ反動をつけると、尻尾で突いてきた。


速いが直線的な攻撃。トウヤはしっかり躱した。


だが……


「まだまだあ!」


今度は連続で仕掛けてきた。


だが、トウヤは全て躱した。


「やるねぇ」


ラヴィが感心すると後ろから誰か近づく気配があった。


「背後からとか良い御身分だな!貴族様が!」


ラヴィは後ろを向き、近づいたスプニールとリヤナに魔法を仕掛ける。


「目線に入るな!」


トウヤの叫びにスプニールは攻撃を止め、回避した。


リヤナは構わず突っ込むと“不侵の毒コルドン”に何か当たったような反応があった。


「ちっ!!」


ラヴィは効果が無いと判断すると、即座に回避に移り、距離をとった。


「マリア、とりあえず回収してくれ」


トウヤがそう言うと、ミナとルーの石像が消えた。


「空間転移……いひひ、無駄だ、助からねぇよ。

お前らに石化を解くなんて出来ないんだからな」


そんなことは解っている。


だがこの場に放置して割ってしまうよりはその方が良かった。


「いひひ、上級貴族がこんなにいたら、さすがに厄介だな」


接近戦に目の魔法。ラヴィのどちらの攻撃もトウヤ達は上手く躱した。


「だがここに集中してくれたのは有り難いぜ!」


どこからか爆発音が聞こえた。


「増援!?大量に転移された!」


急にポーラの声が響いた。


「このタイミングで増援!?狙われたか?」


相手にとって上級貴族は脅威に成り得る。


その上級貴族がラヴィのところに集まっているということは、他が手薄になる。


「なるほど、藤躑躅ふじつつじの君と人造人間ホムンクルスが最初の合図で、

あんたが囮になり、七剣徒セプトレアを集めている隙に、というわけか」


「いひひ、ご明察だが、あたしは囮で終わるつもりはないぞ?」


「なに?」


「あのババアが倒れたことは予想外だが、その二人の七剣徒セプトレアを相手することは想定済み。

ここからお前を連れ去れば、あたしの勝ち。あのお方のお傍に近づけるというわけさ」


何か策があるのだろう。


スプニールとリヤナが居てもトウヤを連れ去れる算段。


かなり自信があるようだ。


「だったら、トウヤを逃がせばいいってことよね?」


リリスがトウヤを守るように前に立つ。


「リリス?」


リリスが手を動かすとラヴィが石になった。


リリスの魔法“崩れる石像ストーンアッシェ”の効果だ。


だが


ピシ


ピシピシ


パリン!


「同じ魔法が使える人間がいたとはな……」


ラヴィは石化を解いたようだ。


「相手にとって七剣徒セプトレアがこの場に居ないことは不都合になる。

だから私が足止めをするから他へ行って!」


「逃がすわけねぇだろ!」


ラヴィの目が光るとリリスの周りに砂のようなものが現れ、飛んで行った。


「お前のも魔法に効果があるのか」


今度は直接、尻尾を突き刺そうとしたが、リリスの近くで尻尾が石化した。


「くっ!」


ラヴィは石化してもそのまま突き刺せばいいと思っていたが、

危険を感じたので即座に引いて距離を取り、石化を解いた。


そして冷静に周りを見るとあることに気付いた。


「これは……囲まれたか」


魔法を通して見ると、ドーム状に魔法の壁があることに気付いた。


リリスはラヴィを捕らえたようだ。


「さあ、早く行って!」


リリスに促され、トウヤ達は他の戦場へ向かった。

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