スケートタイプ:初級編

「ふっふっふっふっ!ついにおいらの力を見せる時が来たにゃ!」


怪しげなポーズをとりながらリンシェンが現れた。


こういう時はだいたいロクでもない結果に終わることが多い気がする。


「おいらがカスタムしたスケートタイプのギアが完成したにゃ!」


真面まともそうに見えるが…


何度か爆発や暴走してるのを見たことがあるトウヤ、リリス、ミナ、ルーは疑いの目だが、

それを知らないクルルとミイナは目を輝かせている。


「さすが科学の国の人間ね。機械とかに強いわね~」


「マスターも知識はありますが、こんな細かいことはしませんねー」


「にゅっふっふっふっ」


スケートタイプ…と言っても見える本体はまるで耳当てのようだった。


「これが…スケートタイプ?ただの飾りにしか見えないんだが…」


他は興味が無さそうだが、トウヤはじっくりと見始めた。


「あれ?きみ、もしかしてスケートタイプ初めて見る?」


「ああ。これで走れるのか?」


「うだうだ言うより見たほうが早いにゃ」


リンシェンは早速、自分の足に取り付ける。


足首に着けると、足首をロックするように輪が閉じた。


「見てにゃ、これがスケートタイプにゃ!」


両足の内側にある部分同士を軽く当てると起動し、勢いよく風が吹き始めた。


キーーン


まるで飛行機のエンジンのような音が響く。


身長より高い位置まで浮かび上がると、そのまま訓練場へ飛び出した。


「すげぇ。あんな小っちゃいのにボードタイプみたいだな」


「でも最高速度はボードタイプに負けている。スケートタイプの持ち味は加速だ」


そう教えてくれたのはミナだった。


「魅せるレースと言われててね、トリック後の加速でどんどん追い抜くのが魅力よ。

あと両足に着けるから奇抜な曲がり方でカーブを制するのも特徴よね」


「でもー、あのギアかなり速くないですかー?」


「そうね。そこがあの子のカスタムなんでしょうね」


スラロームの壁を跳ねるよう進み、直後の直線で一気に加速。ヘアピンも壁を這うように走っていた。


「どうにゃ!!」


片足を前に出し、ギアから噴射される風を使い一気に減速したリンシェンは自慢気に戻ってきた。


「すごいわ!これならボードに負けてない。…でも……」


「リンシェンさんって何か武術をやってるんですかー?」


「にゃ、おいらはニャンフーの使い手にゃ!」


「ニ…ニャンフー?」


さも知ってて当然のように言われた。初めて聞く武術にミイナは困惑した。


「ワンガオって国で有名な武術にリンシェンのオリジナルを加えたものだ。

基本ベースはカンフーってやつらしい」


「ああ。じゃあ納得ね」


「それがどうしたにゃ?」


「んー、あの動きはさすがに真似できないですねー」


つまり、リンシェン好みでカスタムしたのでリンシェンしか扱えないものになってしまった。


「ダメじゃん!!」


「うにゃあ!せっかく作ったにょに!!」


頭を抱えて崩れ落ちるリンシェン。


「…ホント、バカよね…」


「…同意せざるを得ないな」


完全に呆れてしまったルーとミナは、さっさとギアの練習に行ってしまった。




「ねえ、練習用のスケートタイプある?」


「え?あるけど、スケートタイプは左右独立してるから、扱いが難しいわよ?」


「ああ、わかった」


そう答えると練習用を足に着け、立ったまま目を閉じた。


(…たぶん…いける)


勘と言ってもいい。なぜかこれを見て相性の良さを感じた。


キン。


ギアの内側を軽く当てる。魔力を通してないので、まだ何も動かない。


ふうと溜息を吐き、目を開ける。


(いける!)


両足に魔力を送りギアを起動させる。


キーン。


出力が上がると同時にふわりと浮かび上がる。


身体のブレもなく、真っ直ぐ、ゆっくりと。


「へぇ…」


クルルの目が輝きだした。


(ゴー!)


そう心の中で合図すると、トウヤは勢いよく訓練場に飛び出した。


「へぇー、トウヤさんこっちのタイプの人なんですねー」


「そうね。意外だったわ」


ギアを扱う魔導士の一部にスケートタイプを天性の感覚で乗りこなす人がいる。


どうやらトウヤはそういうタイプだったようだ。


「え!?リリスちゃん!?」


そのトウヤを見ていたリリスが練習用スケートタイプを取り、訓練場へ走り出した。


キーーン!


一気に出力を上げたため回りながら飛び出るリリス。


「あぶない!!」


するとリリスはギアで壁を蹴るようにして姿勢を立て直し、そのまま走り出した。


「まさかリリスちゃんも!?」


ボードタイプで苦戦していた二人がスケートタイプだと別人のような走りをしていた。


「二人ともスケートタイプと相性良かったんですねー」


「二人とも昔似たような経験あるのかしら?」


「んートウヤはわからにゃいが、リリスはずっと森の中で暮らしていたにゃ。

だから空間の把握や身体の動かし方、どう動けば進めるか学んでいたかもしれにゃいにゃ」


「あー、よく言う生活の知恵ってやつですかー?」


「そんにゃ感じにゃ」


「どんな感じ!?」


ただ森の中ということは枝葉を避け、足元にも注意を払う。


自分の周囲を注意し、気を付けながら進むことで空間的な注意が出来る。


そして左右に足で微妙な起伏を感じながら進むことでバランス感覚も身につく。


その感覚頼りだと、両足を固定するボードタイプは苦手とするのは納得がいった。


「あの二人…案外ブラックホースかもね」




ボードで走っていると後ろから何かが追い付いてきた。


「何!?」


一気に追い抜かれたが、顔は確認出来た。


「トウ…ヤ?」


「今のスケートよね?」


「ああ」


そうもたついていると、また後ろから何か来た。


さっきと同じくスケートタイプだが人が違った。


「リリス!?」


そう驚くと同時に一気に追い抜かれた。


「ちょ、待ちなさいよ!」


そう言いながら追いかけるが全然追い付かない。


練習用とはいえ、ここまで差がつくなんて思いもしなかった。


一周し終える頃には相手はもうピットインしていた。


「あんた達スケートなら乗れたの!?」


「みたい。かなり相性がいいんだと思う」


「ああ。たまにそっちの方が相性がいいって人いるな」


「でも、止め方は×バツ!あんまりよろしくない止め方してるから、それは練習が必要ね」


「まぁリンシェンの真似だからな」


「おいらのせいか!?」


ミイナ以外が黙って頷く。


「ガーン!」


「とりあえず戦力の幅が増えたから、作戦を追加した方が良さそうね。

いろいろ考えてみるから、みんなの能力をしっかり教えてくれるかな?」


「一人で大丈夫なの?」


「クルルは軍師としてかなり優秀だ。任せて平気だ」


「と・く・に。融通の利く能力の君と、絶対防御みたいな能力の君には期待してるよ」


「ああ!」

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