非日常への逃避行

導火線

第1話

退屈な日常に飽き飽きしていた。ドラマチックな非日常に少しあこがれもあった。

例えば不良に絡まれてる女の子を助けるとか、悪の組織に命を狙われるとか。大好きになって日常生活や将来を台無しにするような大恋愛をするとか。

でもそんな話は映画やアニメの中だけの話だ。それに実際起こったら困る。そんな度胸もないしリスクを負えるほどの人間でもない。

俺はいたって普通でどこにでもいる高校生なのだから。


さてバイトの時間までもう少し。少し余裕を見て俺は家を出た。

今までバイトをさぼったこともないし遅刻すらしたこともない。当たり前のことだがザ・普通で退屈とも言えた。

すると前方から走ってくる女の子がいた。俺のほうに向かってくる。

いやそんなはずはない。俺はそこまでイケメンでもないし女の子に知り合いがいるわけでもない。でも俺に向かってきてくれたらいいな、なんて思ったりもした。

ところがその女の子が俺の目の前で止まったのだ。

そして遠くからは見えなかったが近くで見ると今まで出会ったこともないような美人だったのだ。ずっと見てたら視力がよくなるだろうってくらいの。そして


「逃げて!!」


「えっ?」


いきなり自分に話しかけてきたのだ。何がなんだかわからずうろたえる。関わらないほうがいい系のヤバい子か?


「いいから早く!!」


彼女は俺の手を握り引っ張ってここではないどこかへ連れて行こうとした。


「ちょっ、まって・・・」


手を振り切ろうと思ったその時、彼女の後ろから黒服にサングラスの屈強な男が2.3人が「おい!待てよ!」と迫ってきた。


「早く!一緒に逃げないとあなた殺されるわよ!」


はっ?えっなんで俺が?わけがわからなかったがなぜか俺は彼女に手を引かれるまま走り出していた。

走り出したその先に”退屈な日常”から抜け出すヒントがあるんじゃないかと何の根拠もなく思ったからだ。

そんなことを考えるより先に黒服に服をつかまれてしまった。「どけ!ガキ!邪魔だ!」ガツンという音とともに頬に激痛が走った。

”ドラマチックな非日常”のあこがれが”ドラマチックな非日常”の現実(リアル)となった瞬間だった。

現実(リアル)は想像よりずっと痛みを伴う。人にグーパンチされるなんて小学校3年生の時同級生の”たけしくん”と喧嘩して以来だった。


【バキッ】


すると彼女が黒服の股間に膝蹴りをくらわした。


「今よ!早く!!」


俺は我に返り勇気を振り絞って黒服のつかんだ服を振りほどいた。

彼女の”スカーレッドニードル”が炸裂していなければ黒服から逃れられず俺の人生の幕は閉じていたかもしれない。

そして一心不乱で彼女と走った。

「はあ、はあ…」苦しい。心臓が張り裂けそうだ。肺が「酸素をよこせ」と罵倒を浴びせてくる。

でも走らなかったら捕まってしまうから走った。ただひたすらに。


どれくらい走っただろう。こんなに走ったのは生まれて初めてだ。中学校行内マラソン大会は仮病で出てないし。

黒服も撒いたようだ。「いててて」気が抜けたら頬の痛みが復活した。


「大丈夫?」


彼女が話しかけてくる。そういえば”視力がよくなるくらいの美少女”と逃走デートをしてたのだった。

それより何でこんな騒動に巻き込んだのか。俺にお嫁にいけなくなるほどの怪我まで負わせて。


「大丈夫だよ」


大丈夫なわけねーだろ。この関わらないほうがいいヤバい系ビッチ美少女が。この頬の傷が目に入らぬか。でもここで強がるのが男のさだめ。


「でもどうして黒服なんかに追われてたの?」


「ごめん・・・。私の家って金持ちで規則に厳しいの。ずっと我慢して守ってきたけど嫌になって喧嘩して飛び出してきたんだ・・・」


意外と普通な理由だった。悪の組織に追われてるとか、政府の陰謀を知って命を狙われてるとかドラマや映画だけの話だ。


「なんで俺を巻き込んだの?俺関係なくない?」


彼女は申し訳なさそうな顔をして


「ごめん・・・。捕まるのが嫌で誰か助けてくれる人いないかなって思ってたら目の前にあなたがいたの」


そんな理由で巻きこんだんかい!災難だ・・・。


「ほんとごめんね。この日常を何とか抜け出したかったのよ」


うるんだ瞳で見つめられ、そうつぶやく彼女にドキッとする。まあ災難もたまにならいっかと思った。

彼女と俺は違う”日常”を送っている。でもこの”日常”から抜け出したいと思う気持ちは一緒だった。

人は皆違う”日常がありそれ以外の”日常”に憧れを多少なりとも抱くのかもしれない。


「別に気にしないよ。このくらい。それに退屈しのぎになったしね」


考えてみればこんなワクワクしたのはじめてかもしれない。ちょっとの間だったが俺があこがれていた”非日常”を味わえたのだ。


「お詫びにこれからご飯おごらして!」


初めて笑顔を見せた彼女に俺はまたドキッとさせられる。”非日常”はまだ続いていた。彼女との”非日常”ならなるべく長くづづくれたらいいなと俺は思い


「じゃあ飯行こうか」


と今度は自分が彼女の手を引いた。

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非日常への逃避行 導火線 @tekitou8116

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