学園編入編

第10話編入生

ゴウミは学園に入る為にまずは基礎知識を学び、編入試験対策をした。

編入の際に必要なのは知識でありここジャーティス王国の歴史や魔法の予備知識などが必要な記述テストであった。

そして、編入試験に合格した者が学校へと編入出来るのであった。

オイエアはゴウミの高い能力を買い、推薦状を作った上で編入手続きをした。

そして、ゴウミはブラック会社で鍛えられた能力を存分に発揮して試験勉強に取り組み、結果編入テストを満点で合格した。

そのことを知ったオエイアは


「私の推薦状って……意味あったのでしょうか……」


と少しぼやいていたがハル姫やリブアイやヘルミーやナンジーに


「大丈夫です」

「もしもの時の為ですから! 気を落とさないでください!」

「そうですよ、こういうのは気持ちが大事ですよ」

「その通り、悪い事はしてないのだから堂々としたまえ」


と言われて取り敢えずは納得していた。

ゴウミはハル姫、ヘルミー、オイエアと学園へ入る為に手続きや執事見習いとしての仕事のシフトを決め、休みの日取り、復讐予習の時間のスケジュールを立てて、ついに学校へ行く準備が出来た。

そして、それを聞いたメル姫は


「ゴウミ君! 合格おめでとうございます! 頑張ってくださいね! ゴウミ君ならきっと素晴らしい才能を持っています! きっと素晴らしい未来が待っています!」


とキラキラした目でゴウミを見た。

ゴウミはドキドキしながらも


「ありがとうございますメルナガアガルウ様」


と微笑んだ。

メル姫は困ったような顔で


「未だにきっちりとした呼び方なのですね……まあ構いませんが……ゴウミ君と一緒にお勉強出来ないのは寂しいですけど……それでも別に出て行く事は無いんですよね!」


と寂しそうにしながら聞くとゴウミは


「そうですね、休みもあるのでお話することはあると思います」


とだけ伝えてゴウミは


「では明日の準備をするのでこれで……」


と言いながら部屋を出た。

メル姫は


「全く、ゴウミ君は淡白な人なんですから……」


と困ったように呟いた。


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そして、次の日朝早く起きたゴウミはある程度執事の仕事を手伝って朝食を取っていた。

ゴウミは思った。


(朝食抜きにしての登校を貧乏だった頃はやってたけど……ここだとそれが叶わないのかあ……)


という少しばかりの欲求があった。

そして、時間となり制服へと着替えたゴウミは


「行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい」


とヘルミーに笑顔で見送られた。

そして、ゴウミは街を通って学校へと向かった。

ゴウミは街を眺めながら


(ああ、前の休日以来だなあ……SMクラブあるかと思って探してたけど……全然なかったんだよなあ……普通さあ、どこの国でもああいうのって営業してるもんじゃないの? でもやっぱり僕のいた世界の方が特殊でこの世界ではあまり知られてないのかなあ……)


と考えながら歩いてく。

すると同じ道を同じ服装の自分と同じ年ぐらいの少年と同じ系統の服装の少女が歩いていた。

ゴウミは


(そういえばここは異世界で魔法もあるんだよなあ……奴隷時代は時たま獣人っぽい奴もいたし……この国でもいるのかなあ?)


と思い周りを見渡すと自分と同じ人間しか見えなかった。

ゴウミはその様子を見て


(もしかして数が少ないだけでいるにはいるのか? まあいいや)


と考えながら学校へと向かった。

そして、見えてきた大きな建物が見えてきた。

そして、その建物の屋根に刺さっている国のマークを記された旗が目に留まり


(ああ、そういえば学校は王立の学校だっけ? だからジャーティス国の旗が……)


とオイエアと勉強した歴史を思い出しながら眺めていると門番らしき人物達が大きな校門前に立っていた。


(ああ、俺はこれからあの学校でたくさん虐められて、たくさん迫害されて、将来性がないと現実を突きつけられて、未来に絶望して、皆の期待に応えられなくて、友達も出来ない青春を送るのか~楽しみだああ!)


とワクワクしながら学校へと早足で向かった。

1人はゴツイ体の男ともう1人は筋肉質ではあるが細い体の若い男であった。

ゴウミはそのまま入ろうとすると


「待て」


と言って2人の門番が槍を使って門を塞いだ。

ゴツイ体の門番が


「君、見ない顔だ……何者だ? 制服を着ているようだが?」


と睨みながら質問してきた。

ゴウミは


「アへえ!!」


と興奮と驚きが混じった悲鳴を上げた。

門番は


「あへ? 何を言ってる? 貴様は何者だ? 答えろ」


と少しキツイ命令口調で言った。

ゴウミは


「アヘエエ! えっと……今日から入学のゴウミと申します!! えっと……」


とあまりの興奮にテンパってしまった。

門番はそんなゴウミを見て


「少し怪しいな……」


と疑いの目を向ける。

もう1人の若い門番は


「しかし、編入生が来ることは聞いていますし……彼だと思うんですが?」


と言うとゴツイ門番が呆れながら若い門番に


「そういう思い込みでのみ判断するな……俺達の仕事は生徒達の安全だ、例え失礼であってもここで厳しくチェックしないと失敗しましたでは済まされないんだぞ」


と注意するように言った。

若い門番こわばった顔になりは


「申し訳ございません、以後気を付けます」


と言って頭を下げるて、ゴウミに対して警戒心を持った。

ゴツイ門番は


「すまないが証明書などはないか? 身分を示せる物があれば良いんだが?」


それを聞いてゴウミは


「ああ、それならカバンの中に」


と言ってカバンを漁り始めた。

昨日ハル姫が手続きをしてくれて、渡された証明書を探した。

そして、カバンの中を探していると


「待った!」


と言ってゴツイ門番はゴウミの手を掴んだ。

少し力強く握られた為ゴウミは少し握られた部分に痛みを感じて


「アへえ!」


と少し快感を味わった。

するとゴウミに向かって門番は険しい表情になり


「何だその縄は?」


とゴウミが今の時点でカバンの中で握られている縄を見つけた。

ゴウミは顔を高揚させながらも


(あ、これは休日SMクラブがなかったからせめてマイロープぐらいはと思って買った物だ、学校内でも亀甲縛りぐらいは良いかと思って持って来たんだが……)


と冷静に考えながらゴウミは門番に


「私物です」


と真剣な表情で伝えた。

とするとゴツイ門番は


「そんなものを持って……いったい何に使うつもりだ!」


とさすがに警戒して問い質す。

ゴウミは正直に


「自分を縛ろうかと!!」


と事実のみを伝える。

だがゴツイ門番どころか痩せた門番も険しい表情になって


「そんなことがあり得るか!」

「貴様! 何者だ!! 怪しい奴め!!」


声を大きくしながらゴウミを2人係で拘束した。


「とにかく一緒に同行して貰おうか!!」

「話は詳しく聞かせて貰うからな!」


と言って無理矢理手を引っ張って連れて行こうとした。

ゴウミは興奮しながら


「あへええ……そんな強引な~」


と少し嬉しそうにしながら引き擦られる。

一部始終を見て聞いていた周りの生徒達はとても不安そうな表情で


「何々?」

「怪しい奴が学園に入ろうとしたんだって~」

「ええ……怖い……」

「あんな奴が? ……同じ学生だと思っていた……」

「すぐに捕まって良かったあ~」


と怯えるような声や安心する声で溢れていた。

ゴウミは皆からの冷たい目線に


「アへへへへえええ」


と快感を覚えていた。

その時だった。


「待ちなさい」


と言って1人の眼鏡を掛けた三角帽子を被ったとてつもなく綺麗な女性が現れた。

門番2人は敬礼をしながら


「レチア先生!」

「この少年が縄を持っておりまして怪しい人物の可能性がありまして!」


とレチアと呼ばれた女性に報告する。

それを聞いてレチアはゴウミを見つめながら


「なるほど……貴方があのデンター組織で……」


と言ってゴウミに近づく。

門番2人は慌てて


「危ないですよ!」

「近づかないでください! 危険です!」


と注意を呼び掛ける。

レチアの言葉を聞いた生徒達は


「凄い……レチア先生、美しい上にあの危険なデンター組織に属する人間に堂々と近づけるとは」

「でも危ないんじゃ……」

「止めて先生い~」

「大丈夫かなああ……」


と不安そうに見つめている。

するとレチアは


「安心してください、確かにこの少年はデンター組織にいましたがいたと言っても奴隷としてデンター組織に囚われていたのです」


とそこにいる皆に説明をした。

それを聞いて生徒達は


「奴隷って……」

「嘘でしょ……あんな私達と変わらない人が?」

「そんな風に見えなかったから驚いた」


ざわざわと話す。

そして、門番2人も


「まさか……この少年が……とてもそんな風には……」

「それに……奴隷だったとしてもその縄は……」


と疑念を持って言った。

ゴウミは


「いやあ、縛られていないと何だか落ち着かなくて~テヘ!」


と舌をペロっと出して顔を赤く染める。

レチアは


「このことはハル姫様から直接聞いた話です……まだあまり知らされてはいませんでしたがこの子があらぬ疑いを掛けられそうだったので独断で伝えさせて貰いました」


と眼鏡をくいっと上げて話した。

そして、レチアは


「ゴウミ君、ハル姫から渡された証明書を」


と言って手を差し出す。

ゴウミは


「ああ、それならもう手に持ってます、後は渡すだけだったんですけど」


と言ってカバンからすでに取り出していた証明書をゴツイ門番の人に渡した。

ゴツイ門番の人は証明書を確認した。


「ゴウミ……確かにこの学校の生徒のようだが……先程自分を縛らないと落ち着かないとはどういう事かな?」


とさすがにゴウミの持っている縄を見てまだ疑念の念を晴らす事は出来なかった。

普通に考えれば縄なんて学校へ持ってくる必要がない、それなのにわざわざカバンに入れてそれを持って来た、しかも自分を縛る為に何て言われたら信じられる訳がなかった。

するとゴウミは


「いやあ、以前いた場所でも良く縛られてたもんで……何かそれがないと変に落ち着かない体になってしまったんですよお」


と手を振りながら照れ臭そうにゴウミは門番に伝えた。

レチアはそんなゴウミを見て


「なるほど……デンター組織で縛られる罰を与えられすぎて恐怖が変な形で残ってしまったのか……もしくは縛られている間は罰を受けなくて済む為、恐怖から縄で縛らないと落ち着かないってことですね……」


と勝手な解釈をした。

ゴウミはそんなレチアを見て


「いや、ちが……」

「そんな……酷い」

「なんて残酷な」

「糞! 下種なデンター組織め!」


とゴウミが訂正する前に他の生徒達がざわざわと騒ぎだす。

門番の2人も申し訳なさそうに


「すまなかった!」

「すみませんでした!」


と深々と頭を下げて謝罪した。

それを見てゴウミは


「いや、ちが……」


と何とかして誤解を解こうと思ったが


「ゴウミ君、彼らを許して上げてくれ……彼ら門番も仕事でやっていたことなんだ……」


と申し訳なさそうにしていた。

あまりの誤解とそして自分を同情するような目線に対して精神的に追い詰められていたゴウミは真っ青になりながらも


(ここで縄に縛られるのが趣味って答えても大丈夫か? また変な誤解になってしまうのでは……それどころか俺はまた変な同情を掛けられるのではああああ!)


と考え込んでしまい


「べ……別に怒っていないので……気にしないでください」


とその場の空気に身を任せてしまった。

ゴウミは羞恥プレイ好きであるがこのような相手から同情されるようなことは耐えることが出来なかった。

そして、ゴウミはレチアに連れられて学校へと入ることが出来た。

そんな歩いている途中の中


(糞お……どうして俺はあの時縄で縛られるのが好きって答えなかったんだ……あの現状で答えようとしていたのに何で……やはり同情の目線があまりにも辛かったからか……そうなのか?)


と悩みながらもついて行った。

そして、レチアはある場所で立ち止まった。

レチアは


「ここが職員室です、中に今日から貴方の教室の担任教師がいますので紹介しますね」


と言って職員室のドアを開けた。

中は以前にいた転生前の教室とほとんど変わりがなかった。

そして、目の前には教師の席があって様々な教師がいた。

すると


「サクラ先生、今日から編入する生徒を連れてきましたよ」


とレチアは目の前の教師に言った。

サクラと呼ばれた教師は


「ああ、来ましたか! ようこそ! 王立ジャーティス学園へ! 歓迎しますよ!」


と自分とほとんど変わりない慎重で他の生徒より少し幼い感じの教師が目の前に立った。

ピンクのセミロングに黄色い瞳でワイシャツとスカートを履いているとても可愛らしい教師であった。

ゴウミは頭を深々と下げて


「至らない点があると思いますが今日からよろしくお願いします!」


とサクラと呼ばれた教師に対して敬意を示した。

ゴウミはここで同じ学生がどうしてここに! と考えてしまったがそんな野暮な事は言わない主義であった。

そんな事をするという事はブラック会社で禿の上司に


『なんで禿げがここに!』


という暴言を吐くも同然のとても失礼な行為であった。

そして、ゴウミが二郎だった頃働いていた会社では体育会系の様な雰囲気を醸し出していて年配の方には敬意を示さないといけなかった。

すると周りの教師達は


「へえ、サクラ先生が珍しく同じ学生とからかわれないぞ?」

「へえ、変わってるなあ」

「まあアレが普通なんですけどねえ」


等とざわざわとしていた。

それを見てサクラは周りの教師にムッとするも


「先生?」


とゴウミが話し掛けるとパアッと笑顔になって


「ええ!! そうですともそうですとも! 私が貴方の先生のサクラ先生ですよおお!」


と嬉しそうにくるっと回った。

レチアは呆れながら


「サクラ先生、生徒の前ですよ? そんなんだから子供っぽく思われるんですよ?」


と注意をするように言った。

サクラはハッとなりつつもレチアに


「!! こっ子供じゃありません!」


とムッとしながらプンプン怒った。

レチアはそんなサクラに


「分かりましたから、まずは生徒を教室へ案内してあげてください」


と面倒臭そうにしながら言うとサクラはハッとして


「そうでした! それではゴウミ君行きましょうか! 先生と!」


と機嫌良くルンルン気分でサクラはゴウミを案内した。


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一年三組の教室で

王立ジャーティス学園のある教室にて1人の少年が自分の席に向かう。

彼の名前はラクナ・バルナトという名で短髪の黒髪と黒い瞳に少し平凡な顔立ちの少年である。

彼は剣を携えながらカバンを置き席に着いた。

すると隣の席の白髪で白い瞳のスレンダーの少女が


「おはよう、ラクナ君」


とにっこりと微笑みながら少年に挨拶をする。

ラクナと呼ばれた少年も


「おはよう、エリーエさん」


と少女に向かって挨拶をする。

彼女の名前はエリーエ・アネリスである。

エリーエは幼馴染ではあるが貴族の出ではあるが、ラクナは逆に没落貴族で今は父が刀鍛冶をして生計を立てている平民の子供である。

父親の昔馴染みとしてエリーエの父親と関係を持ちエリーエとも

そんなラクナは昔から父が騎士として働いていた話しを聞いて興味を持ち自分魔法剣士に興味を持ち自分も将来魔法剣士になることを誓った。

必死に勉強して、テストをギリギリで合格して、この学園へと入学した。

ラクナは他の者と違いあまり魔法剣士としての才能はなく、平凡な物であったが少しずつ努力をして実力を伸ばしている最中であった。

一方エリーエはラクナとは違い回復魔法に優れており、学園の医術の先生や他の生徒からも認められており憧れの存在である。

ファンクラブが存在しており、学内での美人コンテストで入賞してしまう程の実力を持っている。

誰に対しても分け隔てなく接して皆から聖女と呼ばれるほどである。

そんな幼馴染の彼女にラクナは気があるにも関わらず圧倒的な差が必然的に生まれてしまった為に高嶺の花になり、自分の心に素直になることが出来なかった。

今は普通に友達として接することは出来ているぐらいがやっとであった。

するともう1人の金髪で青い瞳の凛とした顔立ちの少年が


「よお! ラクナ!」


と笑いながら挨拶をする。

ラクナも


「おはよう、アレクア君」


と笑いながら挨拶を返して


パチン!!


とハイタッチする。

彼の名前はアレクア・ラナクナという名である。

アレクアはエリーエと同じく貴族の出で魔法剣士として他の学生より実力が秀でている。

魔法剣士のエリートと呼ばれ、いずれ魔法騎士の頂点に立つだろうと言われるほどの実力を備えているのであった。

そんなアレクアも以前は明らかに劣っていたラクナを見下していたが、努力により成長を続けているラクナをだんだん認めるようになっていき今ではすっかり友人になっている。

そんな彼もエリーエに対して好意を抱いているが自身に婚約者がいる事や信頼しているラクナの思いを知っており、何よりエリーエ自身がラクナと両想いという事に気付いている為、なかなか告白する事が出来ないでいた。

いつもの仲の良い3人が揃いアレクアは


「知ってるか? 今日編入生が来るって?」


と2人に話を振った。

ラクナは

「うん、知ってるよ? 王城で執事見習いをしてるの人って僕は聞いたけど?」


とラクナも編入生に着いて知っている情報を話した。

エリーエは


「私もそれぐらいしか知らないかなあ……あ! でも男の子って聞いたけど!」


と微笑みながら思い出すように話す。

するとアレクアは


「俺その編入生について親から話を聞いたんだけど……」


と2人に耳を潜めて話す。

2人もあまり知られてはいけないのかと考えて耳を澄ませた。

アレクアは話を続けた。


「何かその編入生はあのオイエアというメル姫の教育係が推薦状を用意するぐらいの認められている奴で、しかも数週間で文字も歴史も魔法の予備知識をマスターするぐらいの頭脳の持ち主らしいんだ、しかもテストは全て満点だったらしい」


とアレクア自身もその事実に驚いきながら話す。

2人はそのことを当然知らない為


「嘘! 凄いね!! もしかしてここに編入する人って僕らより年下なの!?」


とラクナは驚愕しながら質問した。

するとアレクアは


「いや、年齢に関しては俺等とは変わりはない」


と説明を補足した。

それを聞いてエリーエは不思議そうに


「え? でも数週間で文字も歴史も魔法の予備知識も覚えたって聞いたけど……ラクナだってこの学園に来る前は勉強していたし、執事見習いになる前に勉強していたならそこまで驚くことないと思うのだけど? まあそれでも満点は凄いけど……」


と疑問になった部分をアレクアに質問した。

するとアレクアは


「ここからが少し暗い話になるんだが……どうやらその編入生はあのデンター組織に数週間前まで奴隷として囚われていたらしい」


とすごく言いにくそうに伝える。

それを聞いてラクナは顔を歪めながら


「デンター組織って……あの大きな犯罪組織の……」


と拳を握り締めた。

アレクアは目を瞑って


「ああ、そうだ……お前の妹も捕まったことがあったな……」


と真剣な表情で話す。

ラクナの妹は夏休みの時、デンター組織に掴り奴隷になる寸前でラクナとエリーエとアレクアに助けられた。

たまたまラクナが夏休みで帰省していたこととエリーエが遊びに来てくれていた事やそして、たまたまアレクアが通りかかってくれたこともあり何とか助ける事が出来た。

エリーエは


「確か……奴隷攫いの女だっけ、名前は確か……」


「ジョイミールだよ」


とラクナが怒りの表情を見せながら先に言った。

エリーエはラクナを気にしながらも


「あの時ラクナと私だけだと絶対に殺されてたね……」


と辛そうに言った。

アレクアは


「本当だぜ? 俺が通らなかったらどうなってた事か……」


と呆れながら話を続ける。


「だが奴等は恐ろしい、あのジョイミールとかいう下っ端だけでも俺達で何とか撃退出来た程度だ……殺されていてもおかしくない……そんな組織だ」


と少し悔しそうにしていた。

負けたわけではないが勝ったわけでもない、何とか逃げ果たせたことがアレクアは悔しかった。

アレクアは今まで誰にも負けたことはなく、自分を追い付こうとするラクナですらまだアレクアにとってまだ勝てる相手なのだ。

それなのにデンター組織の下っ端相手に不覚を取ったことを屈辱に感じていた。

そして、何よりラクナとエリーエなしでは自分も死んでいた事実を一時的に受け止めることが出来なかった。

しかし、ラクナやその両親から助けた事を感謝された事、ラクナの妹が助けられた時の笑顔を見て自分が今まで自分の為だけに強くなろうとしていたことを自覚した。

だがそれだけでは自分は強くなれないと感じて、アレクアはこれから、自分の為でなく守りたい者の為に強くなるという切っ掛けになったのであった。

エリーエ自身もデンター組織の恐ろしさを実感しており話を聞いて少し体に力が入っていた。

紙一重で何とか撃退出来たとはいえ、エリーエもその時死ぬかもしれないという恐怖が多少なりとも残っていた。

アレクアは


「それに、助け出されたときそいつ自分の居場所を奪われたと言って嘆いていたそうだ」

「!! そんな!! どうして!」


とエリーエは信じられない表情アレクアに問いかける。

アレクアは深刻そうに


「分からない……だがそれだけデンター組織に囚われていた時間が長かったんだろう、なんせ助かったのは俺等と変わらない歳の最近だ……いつからそいつが奴隷としていたのか知らないが精神も不安定で助けられて少しの間までは自傷行為もあったそうだ」


とその説明を聞いてラクナは驚きながら


「大丈夫なの! その人! 学校に来ても平気なの!」


と不安そうに聞いた。

それを聞いてアレクアは


「それに対しては大丈夫みたいだ、最近では精神も落ち着いて来たのかそういった行為も無くなったそうだ、だからこそ次は学校に編入させて少しずつ普通の生活を送れるようにしていきたいと考えての事だそうだ」


それを聞いた2人は


「そうなんだ……でもその話を聞くとデンター組織の話はあまりしない方がいいかもしれないね」

「そうね、ただでさえ嫌な思いをしているかもしれないのに傷口を開くようなことはしたくないわ」


アレクアも頷きながら


「その方が良いだろうな……まあ変に気を遣って嫌な思いをすることもあるだろうから普通に接すれば良いと俺は思うよ?」


と笑いながら話していると

ガラガラ

と教室のドアが開いていつも通り教師のサクラが入ってきた。

サクラは笑顔で


「皆さん! おはようございます!」


と元気よく挨拶をし、それに対して他の生徒は


「サクラちゃんおはよう!」

「サクラおはよう!」

「俺の可愛いサクラ! おはよう!」


とまるでクラスメイトにでもするような挨拶をした。

サクラは不満そうな表情で


「もう! 私は先生で君達の担任です! 決して同級生ではないんですよ!」


とプンプンと怒る。

そんな彼女を見て生徒達は


(可愛い)

(愛でたい)

(可愛がりたい)

(撫でたい)


等々の様々な感情が沸き上がる。

サクラは顔を真っ赤にしながらも


「もう! 分かってるんですか? まあいいです、今日は皆も知っての通り編入生が入ってきます! ちなみに皆さんとは違ってちゃんと先生の事を先生って言ってくれるんですよ!」


と嬉しそうにしながら語った。

それを聞いて生徒達は


(威張ってる先生も可愛い)

(うん! こんなサクラちゃんも悪くない!)

(撫でたい!)


と再びそんな感情が沸き上がる。

そして、サクラは教室のドアに向かって


「どうぞ! 入ってきてください!」


と同時に皆笑顔でその転校生を迎えた。

ガラガラガラ

とドアが開いて1人の栗色の髪をした灰色の瞳の可愛い顔をした少年が入ってきた。

そして、教卓の前へと立った。

そして、


「皆さん、今日からこの学校で一緒に学ぶことになったゴウミと申します、以前はデンター組織という職場で奴隷を務めていましたが、諸々の事情で今はお城で執事見習いをしています、至らない点がございますがどうぞこれからよろしくお願いします」


と深々と頭を下げて自己紹介をした。

教室内は一瞬にして凍り付いた。

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