第11話変わった編入生

凍り付いた教室内、サクラもアワアワ震えていた。

聞いていたラクナとエリーエとアレクアも


(えええ!! 自分から話をしてきたんだけど……)

(それどころか……デンター組織という職場って言わなかった……)

(奴隷を務めていたって……完全に仕事として認識してるんだけど……)


と複雑な感情が沸き上がってきた。

そして、サクラはすぐに我に返って


「ごっゴウミ君! 奴隷は仕事ではなくてですね! えっとえっと!!」


と必死に説明しようとするとゴウミはサクラの方を向いて

ゴウミは神妙な表情で


「……つまり、奴隷のような生産性のないものと自分達を一緒にして欲しくない、つまりはそういう事でしょうか?」


とサクラに聞いた。

サクラはその言葉を聞き真っ青になりながら


「チッ違います!! まるで先生が血も涙もない人みたいじゃないですか!! そうではなくてですね! 奴隷というのは無理矢理仕事をさせられてしかも報酬を与えられないとても酷い仕打ちの事を言ってですね!! つまりそれは貴方自身酷い目に合されていたという事を言いまして!!」


と必死にゴウミに説明をした。

それを聞いてゴウミは


「報酬なら貰いましたけど?」

「え? 貰ってたんですか?」


と唖然としながらサクラはゴウミの言葉を聞いた。

ゴウミはサクラに


「ええ、僕にデンター組織を紹介してくれた両親が大金を持っていたので、いやあ~親孝行が出来て僕も幸せです!」


と満足げな表情で報酬の説明をサクラにした。

サクラは真っ青になりながら


「それ! 貴方が両親に……ハッ!!」


とすぐにサクラはゴウミに嫌な事を言ってしまうところだと思い口を閉じた。

ゴウミは不思議そうにサクラを見つめながら


「?? どうしました? 先生? もしもーし?」


と神妙な表情でサクラの顔の前で手を振った。

サクラは


「な! なんでもないよ! とにかく先生は別に奴隷を侮辱しているわけではないのでそれだけは知っていて欲しいと!! その!!」


とアワアワしながら伝えようとしていた。


「……そうですか」


とその言葉を聞いてゴウミは露骨にガッカリした。

サクラは困った顔で


「ええ……どうしてガッカリしてるんですか……先生また何か不味い事言ってました……」


ゴウミを見つめながら気まずそうに聞いた。

ゴウミは再び目線を逸らして、


「いえ、何でもないです……」


の一言だけを言っただけであった。

そして、すぐにクラスメイトに目を向ける。

そんなゴウミとサクラとのやりとりを見ていた生徒は


(……)

(……)

(……)

(……)


と未だに凍り付いたままで呆然としていた。

サクラは頬をパンパンと叩いて気を取り直して


「とっ取り敢えず今日からゴウミ君がクラスの仲間になるので皆さん仲良くしてくださいね!」


と笑顔で生徒達に向かって言った。

生徒達もさすがにハッとなり


「よっよろしく」

「よっよろしくね!」

「これからよろしく!」


と無理矢理テンションを上げてゴウミを迎えた。

そして、サクラはゴウミに微笑みながら


「それではゴウミ君はあの席に座ってくれますか?」


と言って開いていた一番後ろの席を指さした。

ゴウミは笑顔で


「はい! 分かりました!」


と言いながら笑顔でそのまま席へと向かった。

ゴウミは席に向かいながら


(よっしゃああ!! 良し!! 作戦は今のところ順調だ! 今までの話で分かってはいたがデンター組織はあまり良く思われていない!! ならばそれを利用して僕はこのクラスで浮いた存在にならないといけない! その為には敢えて僕がデンター組織で働いていた過去を敢えて伝える必要がある! 奴隷として! しかも僕は皆より下の存在であることを! 僕の身分は最下層であることを伝えておけば! 僕的には正直普通だが皆がそれを異常と言うならそれでいい! 僕は真実を言っただけであって別に皆を困らせるつもりなんて微塵もなかったのだから! そう! 仕方ない!! だからこれから先虐められるのは自作自演ではない! いつか起こる事だったんだ!! それを早めただけだ!! うん! ……でも収入のくだりは何だったんだろう? 本気でそこだけは分からない……)


と考えながら笑顔を作りながら席に座った。

すると目の前の少年は少しギコチナイ笑顔で


「ゴッゴウミ君!! 僕の名前はラクナ! ラクナ・バルナト! よろしくね!」


と自己紹介をしながら手を差し伸べてくる。

ゴウミは少し戸惑いながら


「いいんですか? 僕の様な元奴隷という汚らわしい人間が貴方の様な高貴な存在に握手何かしても?」


と焦って質問をした。

ゴウミは転生前の二郎時代から上司や楽から言われていた。


『お前の様な豚屑が握手だと? フン! 分を弁えろ!』

『お前の様なゴミが! この俺様と握手だと! 馬鹿なこと言ってねえでお前はただ目の前の仕事をすればいいんだよ! 屑が!』


と言われ続けていた。

もちろん快感に思っていたが、ゴウミにとって握手は自分の様な下賤な人間がしていい行為ではなかったのであった。

だが、そんなことを知る由もないラクナは


「え……」


と明らかに戸惑ったような表情でゴウミを見ていた。

ゴウミはラクナの戸惑った表情を見て


「え?」


と困ったような顔で見つめた。

そんな思いっきり気まずい時間を


「それでは今から授業を始めます! ゴウミ君は初めてですので少し基礎から……」


とサクラの言葉で遮られた。

ゴウミはサクラの方を見て


「大丈夫です! 一昨日から徹夜で予習したので進んだ範囲からでも大丈夫ですよ!」

「一昨日から!! 徹夜!!! ちゃんと睡眠を取ってください!! 全く!! 分かりました、では昨日の続きから……」


とサクラは驚きながらも注意をし、その後仕方なさそうに授業に入った。

授業は医術の回復魔法の応用や効率的な回復方法、そして体の臓器や急所、そして精神の回復方法等の勉強であった。

ゴウミは


(へえ……僕はあまり転生前の医療は自分の外傷を治すぐらいだったからこの世界で初めて習う事の方が多いなあ……)


とかなり興味を持って真剣に勉強をしていた。

元々転生前は真面目で能力値的には東大を合格出来る程のスペックはあった。

しかし、ゴウミの人生を楽が道を示したことにより、念願のブラック会社へと入ることが出来た。

ゴウミはやはり貧乏な家庭の為に自分が何とかしないといけないという思いから人の上に立ってでもお金を入れないといけないという考え方に捉われていた。

しかし、楽がその道を邪魔してくれたことによってゴウミは自分自身の心を知ることが出来た、

ゴウミ自身は人から期待に対して苦手意識があった。

受けであるゴウミは攻めの態勢になることにあまり良く思っていなかった。

しかし、そんなゴウミの人生を楽は変えてくれた。

人生計画をぶち壊して攻められていく人生へと導いてくれた。

だが、意外と妹の学費も家族の生活費も何とかなった。

もし、そのまま人生計画のまま進めばゴウミは後悔した人生を過ごしていたであろう。

だからこそ、ゴウミはこの異世界で自分自身の望む未来を手に入れようと決心したのであった。

そして、その為にはよりたくさんの知識が必要だと感じた。

なにより、ゴウミは自身が真面目であることも含まれるが自身の夢を叶える為という部分が強かったことにより思ったより学業に身が入った。

そんな真剣に授業を受けるゴウミを見て


(凄い集中力だ……これが編入試験満点を取った人の実力か……才能だけじゃない!! 奴隷だったからこそその時その時に真剣に向き合えるのか! 命の尊さを知っているからこそいつだって真剣に生きることが出来るのか!! 僕も頑張ろう!!)


とラクナは感化され


(凄い集中力……これじゃあ追い付かれるかも! もっと頑張らないと!)


とエリーエは負けじと


(ほお、さすがは編入試験満点者だ……やるな……だが俺だってこんなもんじゃないぞ!)


と気合を入れて授業を受けた。

そして


「では今日の授業はここまで! 予習復習を忘れないように! 後ゴウミ君! 予習復習は良いですがちゃんと睡眠を取ってください! 良いですね! それでは皆さん次の授業の準備をしてくださいね!!」


とサクラはゴウミに注意をして、微笑みながら教室を立ち去った。

そして、少しの間休憩時間が設けられておりその間に編入生であるゴウミの元に質問をしに来る生徒は

来なかった。

一切来なかった。

誰もかもが


「おい、お前行けよ」

「ええっと……さすがにちょっと重いからなあ」

「それにいったい何を話せば」


とコソコソと遠慮をするような話をしていた。

それをゴウミは


(うむ、良いぞ! 皆意味深な目で僕を見ている……アヘエエ~きっと僕の事を見下してくれているんだ! ああ快感!!)


とそんな雰囲気で快感を味わっていた。

すると


「ねえ、ゴウミ君」


と1人の少年が話し掛けてきた。

それは先程握手を求めてきたラクナであった。

するとラクナが話し掛けたのを切っ掛けに後2人がゴウミに話し掛けてきた。


「ゴウミ君だっけ? 初めまして、私はエリーエ! エリーエ・アネリス! 今日からよろしくね!」


と元気よく挨拶する。


「おう! 俺の名前はアレクア・ラナクナだ! よろしくな!」


と言って握手を求める。

ゴウミは再び


「ええ? ああ……良いのでしょうか? 僕が皆様の様な高貴な方に握手をしても?」


と不思議そうに聞いた。

それを聞いてエリーエは少し笑いながら


「ええ? どうして? そんな事気にしなくてもいいのに!」


とクスっと笑いながらゴウミに言った。

ラクナも慌てながら


「そうだよ! 別にそんなこと誰も気にしないよ!」


とエリーエに同調するようにゴウミを安心させようとした。

エリーエは考えた。


(もしかしたら奴隷時代はそんな状態がずっと続いていたのかもしれない……だから皆とは距離を置いてしまおうとしているのかも……そんな悲しい生活はさせない! きっと彼もいっぱい話し合っていけば心を開いてくれるはず! 彼は傷つくのを恐れているからこそ! 誰かが関りを持たないといけない!)


とゴウミの事を思い、そしてこれからそんな悲しい学園生活を遅らせたくないという思いがあったからこそ彼女は行動にしたのであった。

そんな責任感を持っていた。

ゴウミはそんな悲しい生活を望んでいるとも知らずに

ゴウミは申し訳なさそうにヘコヘコしながら


「いやあ、でもさすがに上下関係はあるでしょ? 昔(転生前)はよく足拭きマットとかサンドバック係とかしてましたし! ほら! どんな威力でも大丈夫ですよ!」


と突然床に四つん這いになってケツを突き出した。

ラクナは目を泳がせながら


「ちょ! どうしたの!! 一体何をしてるの! 足拭きマットって!」


と慌てふためきながらゴウミを止めようとする。

エリーエは泣きそうになりながら


「それにサンドバックって!! 昔はそんな事されてたの!!」

「うん、されてたよ?」


とさも当然の様に言い切った。

エリーエは悲しそうな表情になった。

ゴウミは不思議そうに


「どうしたんですか? どんな威力でも大丈夫ですよ?」


と顔をグリっと回してそのまま目線をエリーエに向けた。

エリーエは震えながら


「あ……あの……えっと……」


と困惑した表情になる。

アレクアは


「はあ……」

と溜息を吐いてゴウミの首根っこを引っ張って立ち上がらせた。

ゴウミはその引っ張られた多少の痛みで


「アヘエエ」


と首を引っ張られた際の息苦しさと首へ掛った負担で少し快感を覚えた。

アレクアはゴウミの方を見ると


「お前はなあ……そんな事するんじゃない、今まではどうか知らんが……エリーエを困らせるな」


とゴウミに言い聞かせながらそのまま席に座らせた。

ゴウミは注意を受けて


「アへえ……すみません……」


と頭を掻きながら謝った。

エリーエは


「とにかく! 足拭きマットとかサンドバックにはしないから! 落ち着いて!」


とゴウミに焦りながらも安全であることを教えた。

ゴウミは少し俯きながら


「……はい」


とただ返事をした。

ラクナは困ったような顔で


「とっとにかく! これからの学校生活楽しく過ごそうよ! ね! ほら別に格差とかないから握手!」


と手を差し伸べて再び握手を求めた。

ゴウミは少し笑いながら


「わっ分かりました、こちらこそよろしくお願いします」


と言ってそのまま手を握った。

ゴウミは


(よし、作戦は順調だ、今の行為は明らかに目立って目に着いた! この3人からしたらどうかは知らないが僕が変な奴で気持ち悪いと思った生徒だっているはずだ! 別にすぐに結果は求めない! 明日ぐらいには僕への偏見を覚える人間がいるはず! ならばそれに賭ける! 城内では仕事の為にそんなことをしている暇はないが学校だとある意味で自由がある!! 例え城内でさっきの事をやったとしてもあの人達がいじめを行うように思えない! ならば学校という様々な人が! そして精神が未熟な学生の前でこんなことをすればいじめを不可避間違いなし!!)


と地味に学園内に自分へのいじめの布石を打っていた。

そして、次の授業は外で魔法の実技の授業であった為、移動をしていた。

そして、ゴウミの後ろに

ラクナとエリーエとアレクアがいた。

3人は何とかゴウミの心を開こうと一緒に行動しようと考えたのであった。

するとアレクアは


「そういえばゴウミは魔法の方は出来るのか?」


と次の授業内容に関連した話題を振った。

ゴウミは腕を組んで


「うーん」


と唸りながら思い出していた。

そして、ゴウミは


「いや、奴隷時代に魔法とかは習ったことは無いなあ……一応は基礎の方は王国のオイエア先生に教えて貰ったのと予習で学んだんだけど」


と思い出しながら話をした。

ラクナは物凄く微妙な顔をしながら


「えっと……ゴウミ君、もしかして別に奴隷時代の事って……あまり気にしてないの?」


と気まずそうに質問をした。

エリーエは慌てながらラクナを引っ張って


「ちょ……ラクナ何を聞いているの……さすがに今のは……」

「でもさすがにこのままだと彼の事分からないままじゃない? 少し踏み入った方がゴウミ君自身も話やすいかもしれないじゃない……」


と不安そうにエリーエに伝えるとアレクアもエリーエに


「確かに、俺達が勝手に気にしてゴウミ自身が全く気にしていないと変に気を遣った感じが続いてしまうかもしれない……そう考えるとここでもうはっきりさせた方が良いんじゃないのか?」


とラクナの意見に賛同していた。

エリーエは困った表情で


「確かにそうかもしれないけど……」


と煮え切らない様子であった。

アレクアは


「それに俺達だって過敏になり過ぎているのかもしれない……そういう部分がゴウミ自身へのプレッシャーになっている可能性だってある、ならば逆にこっちから話を聞いてしまった方が早いぞ……」


とエリーエに耳打ちした。

エリーエは


「はあ……分かったよ」


と溜息を吐きながらも頭を抱えて納得した。

するとゴウミは3人を見ながら


「えっと……どうしたの? 話しても良いの?」


と不思議そうに話し掛ける。

ラクナは慌てながら


「あ! うん! 大丈夫だよ!」


と誤魔化すようにゴウミの話を聞こうとする。

ゴウミは少し気になりつつも


「分かった、そうだなあ……奴隷についてねえ……まあやりがいはあったよ」


と笑顔で3人の方を見る。

ラクナは引き攣った笑顔のままではあったが


「そっそうなんだ! えっと奴隷ってどんなことをしていたの?」


そのまま会話を続けようとした。

そして、ゴウミは


「そうだなあ……時計とかは無かったから時間の感覚は無かったんだけど……朝はおそらくいつも同じ時間に起きて最初にレーションと呼ばれた食べ物を1つ食べる、そして次にすることは牢屋で病死したり衰弱死した同じ奴隷の死体を運んで捨て場に運んで捨てる、その後すぐに採掘仕事に入る、ミスをしたりすると鞭で打たれたりして、まあ仕事が終わった後も上司のストレス発散の為に鞭打ちしたりするかな? その後は……」

「ごめん……もう止めて」

「へ?」


と突然話をラクナに遮られてしまった。

ゴウミは不思議そうに3人を見るとラクナは顔色を悪くしており、アレクアは物凄く気まずそうにしていた。

エリーエに関しては顔を手で覆って涙を流して


「うう……ぐすん……うう……酷い……」


とすすり泣いていた。

ゴウミは


「えっと……大丈夫? 3人共?」


と心配そうに覗き込む。

それに対してラクナは辛そうにしながらも


「ごめん、本当にごめん……でももう大丈夫だから……」


と言ってゴウミの方に手を置いた。

エリーエに関しては突然ゴウミを抱きしめて


「本当にごめんなさい! 貴方の辛かった過去を最後まで聞くことの出来ない私達を許して! 私達に覚悟が足りなかった! 生半可な気持ちで聞いて良い事じゃなかった! 本当にごめんなさい! でももうあなたにそんな辛い思いはさせない! 何があっても私達が守るから!」


とゴウミにとって予想外過ぎることが起きた。

ゴウミは3人を見て


(何を言ってるんだろう……これぐらいは普通じゃないのか? まあ転生前だって朝同じ時間に起きて簡単な朝食後に出勤して倒れている社員を別の部屋に運ぶ、その後すぐに仕事をしてミスしたら罵詈雑言+愛の鉄拳制裁をされてその後、ストレスの溜めていた上司のサンドバックになる……うん! 同じだし普通だな!)


とやはり自分の転生前を振り返っても特に変わりはなかった。

取り敢えずゴウミは3人を見ながら


「まあ特に気にすることないんじゃないですか? 良くあることだと思いますよ?」


と笑いながら本心を伝えるとエリーエは涙を拭きながら


「大丈夫、これからここでの生活をしてもっと幸せな事や楽しい事を知っていけばいいの……ゴウミ君にとって楽しい思い出を作って行こう」


と涙ぐみながら笑った。

ゴウミは唖然としながら


(僕にとって前の方が普通であり幸せであったんだが……寧ろ城や君達の考えの方が僕にとってはあまり幸せな生活じゃなさそうなんだけど……)


と少し心が折れそうになっていた。

しかし、


(いや! まだ大丈夫だ! この学園を僕にとっての楽園にしていけばいい! いじめさえ僕に発生すれば何も問題はない! そうだ! まだまだこれからだ! 大丈夫! 自分を信じろ!)


と心の中で自分に言い聞かせた。

そして、そんな3人の同情を受けながらも次の授業が始まる。


学園に広がる大きな庭の様な運動場、

そこは砂場が広がっており目の前には的である案山子が置いてある。

魔法が誤射しても大丈夫なように分厚い壁があった。

そこでゴウミは待っていると


「皆さん! 今日は昨日の続きの炎魔法を使って的に当てる練習をしますよ」


と朝に出会ったレチアが現れる。

レチアは朝に出会った時とは違い少し厳しそうな顔つきになっていた。

ゴウミはその表情を見て


(ああ、良い! その表情僕にとって最高だ……)


と頬を赤くしながら見ていた。

するとアレクアが


「何だ? 惚れたのか?」


と茶化してきたのでゴウミは


「あの表情良いね」


と嬉しそうに答える。

アレクアは


「まああんな表情をしてはいるが別に厳しい先生ではないぞ、教え方も優しいし教え子に合った方法で魔法の使い方を指導してくれるぞ?」


と微笑みながら伝えるとゴウミは


「……そう」

「なぜ落ち込む」


と少し落ち込んでしまった。

ゴウミは俯きながら


(どうせなら出来るまで家に帰しませんとかどうして出来ないのとか責め立てて欲しかった……)


と欲望を心の中のみでつぶやく。

するとレチアは


「ゴウミ君、魔法を使う事自体は初めてでしょうか?」


と聞いてくるので正直にゴウミは


「はい」


と高揚しながらも一歩前に出る。

するとレチアはゴウミを見た後、すぐに他の生徒を見て


「では皆さんは各自で的に向かって魔法を撃ってください、私はゴウミ君に魔法の使い方を教えますので」

『はい!』


と伝えて生徒達が返事をした後、ゴウミを連れて行った。

他の生徒達は各自で


「ファイアー!」

「ファイアー!」


と手を翳した先から炎が現れて次々に

バンバンバン!!

と的に当たっていく。

そんな中ゴウミはレチアに


「先ほど見ていた通りに呪文を言えば簡単に魔法は放てます、慣れていけば……」


と言って手を翳して炎を出して的を


バシュン!!


と撃ち抜いた。

レチアはゴウミの方を見て


「このように想像をするだけで魔法を発動して放つことが出来ます、これを詠唱省略という技術です、まあこれは難しいのでまずは詠唱を使って出してみてください」


と言いながら的を指さした。

ゴウミはその先を見ながら手を的に翳して先程の詠唱を思い出しながら


「ファイアー!!」


と呪文を叫んだ。


ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!


と轟音が鳴り響いた。

その轟音を聞いて他の生徒はびっくりしながらゴウミとレチアの方に目を向けた。

しかし、砂埃のせいで視界は完全に映っていなかった。

そして砂埃が少し晴れていくとその中から驚愕したレチアが目の前に映った。

皆はそれぞれにレチアを見て


「まさか……あのレチア先生が驚愕するなんて……」

「一体どんな威力なんだ……さっきの轟音といい……」

「凄い爆発音だったね……」

「これはボヤボヤしてられないなあ……」


とゴウミの才能に驚きつつも感心していると完全に砂埃が晴れていった。

そして、そこにはゴウミの姿はなかった。

生徒達はそんな状態に対して疑問を持ちながらも的の方を見ると


「あれ?」

「あんな轟音なのに?」

「外れた?」


と全く傷一つない的に驚いきながらも外れて壁に当たったのだと思い目線を壁に向けるがやはり全く焦げている様子もなく傷一つなかった。

生徒達は困惑しながらレチアを再び目線を向けるとレチアは何故か目線を後ろに向けて驚いていた。

恐る恐る生徒達はレチアの目線に合わせると


「アヘエエ~」


と言いながらゴウミは後ろの壁にめり込んでいて焦げ焦げになっていた。

生徒達もレチア自身も一体何が起こったのかすら分からないでいた。

ラクナもアレクアもエリーエもゴウミの方を見て


「一体何が……」

「ゴウミ君……そんな……」

「そんなバカな……」


とあり得ないと言わんばかりに驚いていた。

他の生徒達は一斉に


『ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!』


と自然に叫んでしまっていた。

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