第8話暴露
ゴウミは次の日に姫やリブアイ達に自分の性癖を暴露することを決行した。
わざわざ王室に呼び集めた結果、ハル姫やメル姫、騎士達にヘルミーやオイエアやナンジーもいた。
そんな中ゴウミは自分の性癖を暴露するのである。
云わば羞恥プレイをするつもりだった。
その状況はゴウミにとって
(アヘエエえ……ご褒美だああ……)
と感じてしまう程であった。
するとリブアイは
「おい、ゴウミ? 話したい事って何だ?」
と心配そうに呼びかけた。
そんなその声に気付いてゴウミはハッとなった。
(おっと! 危ない危ない! 目的を忘れてイッちゃうところだった……)
そして、いったん冷静になる為深呼吸をした後、本題へと入った。
「実は皆様にまだ伝えていないことがありまして、この場を儲けさせていただきました」
と丁寧な挨拶から始めた。
それを聞いてハル姫は
「そうなのですか? もしかしてデンター組織の事でしょうか?」
と確認を取った。
それを聞いてオイエアは少し反応を示した。
しかし、
「いえ、デンター組織の事ではありません」
という答えに少し肩を落とした。
そして、ゴウミは
「実は私には最大の秘密があるんです」
と緊張した表情で
「実は私は! ドM何です!」
と自分の性癖を暴露した。
その場が一瞬静かになった。
そんな中ゴウミは
(言った! 言ってやったぞ!! 久しぶりだ! この感覚は! この一瞬凍り付いたような空気! とんでもない奴を見ているようなこの皆の表情! そして戸惑った表情! いつもそうだ! 僕がその性癖を暴露すれば皆気を使ってなのかいつもそんな表情をしてくれる! そしていつも僕はその皆の表情に興奮を覚える! ああ! 快感だ! 興奮だ! この頬へ一気に体温が爆上がりする感じ! 皮膚が燃えるようなこの感触! ああ! 良いよ! 良いいいいいいい良いい!! 良い!)
と沸き上がるような熱で大興奮していた。
するとハル姫は涙を流した。
それを見てゴウミは
(!! え! 何で泣いてんの! 泣く要素あった!? いつもなら蔑視の目で皆僕を見るはずなのに!)
と信じられない光景に戸惑った。
すると
「糞! デンター組織め! どうしてこんな子供に!」
と悔しがるリブアイを見てゴウミは
(で? デンター組織? 何故それが今……ドMと何かつながりが? ある? ない? え? あるの?)
と困惑するしか出来なかった。
どのタイミングでデンター組織になったのか、さっき自分はデンター組織とは関係ないと言ったのにどうしてそんな話になるのかが理解できなかった。
するとハル姫は
「ドールエムーリズ……」
「え? どー? 何て?」
と突然出てきた聞き覚えのない単語にゴウミは反応した。
ナンジ―は
「なるほど……身体検査はしたが見つけることが出来なかった……まさか奴等は……」
と何か深読みをしているようだった。
メル姫は
「うう……酷い……」
と何故か泣き出していた。
冷たい目線を貰えると思っていたはずのゴウミはそんな不穏な空気に
(え? どういう事? 変な事は言ったけどこんな重苦しい空気になってるの? 何で不穏な空気になってるの? メル姫様はいったい何に対して泣いてるの? 何が酷いの?)
と戸惑いながら周りをキョロキョロと見回していた。
するとハル姫が
「ゴウミ君」
と言って王座から突然立ち上がった。
訳が分からないままゴウミはハル姫の様子を見ていた。
するとハル姫はそのままゴウミに近づいていった。
それを見てゴウミは
(引っ叩く? 引っ叩いて貰えるの? そういうあれ? そうだよね? だって僕自身の性癖を暴露すれば今までは皆ゴミのような目で僕を見てくれたんだもん! そうだ! 自分の経験を信じろ!)
と考えを巡らせていた。
ゴウミは転生する前の世界で自分の性癖を暴露する機会があった。
その時、皆の目は汚物でも見るようなそういう人間を見る目であった。
当時の二郎にとってドMは当たり前であり普通であった。
そして、何度かそんな人間を見かける機会もあった為、別に自分は特別変わっているという意識がなかった。
当たり前だからこそ皆からは別に変な目で見て貰えるとは思ってもみなかった。
しかし、気を遣ってなのか皆は二郎をゴミ同然の様な目で見てくれた。
その時気を使って貰っているにもかかわらず何故か二郎は興奮出来た。
そして、心の中で
(ああ、この気を遣ったような見下すような蔑んだような目もなかなか悪くない)
と思うようになったのであった。
なのでゴウミにとって性癖の暴露は気を遣って見下してくれるという印象であった。
しかし、今は違った。
なのでゴウミ自身もどうなるか分からなかった。
しかし、ハル姫は近づいてくる。
何の為に近づいているのかは分からないがそれでもゴウミに近づいて何かをしようとする意思を感じ取ることが出来た。
なのでゴウミにとって近づいてされることは1つであった。
それは引っ叩くである。
前世の親や妹以外で近づいてくるとすれば引っ叩かれることが多かったゴウミにとって今されるであろう選択肢は引っ叩くであったのだ。
ゴウミは期待と興奮で顔を赤らめながら目を瞑った。
そして、姫が跪いているゴウミの顔を叩く為にしゃがんだ事が分かる様にと息が顔に当たる。
ゴウミは
(叩いて貰える!! 叩いて! 見下すように!)
と期待していると
ガシ!!
と柔らかい何かがゴウミを包み込む。
驚きながら恐る恐る目を開けるとハル姫はゴウミを抱きしめていた。
ゴウミはそんな状況に
(うん?)
と自分の置かれている状況が分からなくなっていた。
聞きなれない単語、ハル姫の意味不明な行動、どれを取ってもゴウミの予想していた状況とは明らかに違っていた。
するとハル姫は優しい声で
「よく正直に話してくれました……ありがとう」
と何故かお礼を言われた。
ゴウミは
(え? これは……僕がドMであることを理解……してくれたのか? でも何でお礼? 今までご褒美をくれなかったことに対してか? ならばごめんか……じゃあ何だ? それにドー何とかエム? 何だ? その聞きなれない単語が頭に引っ掛かる……)
と考えているとナンジーは
「ハル姫様、とにかく彼はもう一度身体検査をします、そして分かり次第また報告という形でよろしいでしょうか?」
と突然聞いてきた。
それを聞いてゴウミは
「え? 何「お願いします、ナンジー医師」
と聞く前にハル姫がナンジーに答えた。
ゴウミは再び戸惑った。
(身体検査って……今更何の為に……ドー何とかと何か関係しているのか?)
と考えてゴウミは
「あの……僕はド……「ゴウミ、皆まで言わなくともよい……辛かったな」
「何が!」
とゴウミの言葉を遮る様にリブアイが心配そうに言った。
その言葉を聞いてゴウミは1つ分かったことがあった。
今の状況がすでにゴウミの考えうる状況下で最悪であることであった。
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ハル姫は嘆いていた。
「ドールエムーリズ……まさかあんな子供にそんな酷い呪術魔法を……」
と悔しそうにしていた。
ドールエムーリズとは、都合の良い人形を作る為にデンター組織によって開発された最低最悪の呪術魔法である。
それの呪いを受けたものはデンター組織に尽くさなければならないという強迫観念に襲われて自分の置かれている状況に対して疑問に思わせないよう縛り付ける為に開発された呪術魔法である。
逆らおうとした者は発狂・自傷行為・精神の崩壊を起こさせて呪いを受けた者を壊して情報を流さないようにすることも可能である。
そして、その呪いには必ず刻印が刻まれておりそれを見つけて解呪しないとその魂は永遠に救われないと言い伝えられていた。
ハル姫はそんなゴウミを可哀そうに思えた。
最初はデンター組織に恐怖を植え付けられているのだと考えていた。
デンター組織が呪術魔法を使う相手は基本反乱分子で組織の情報を漏らさない為でもあった。
しかし、まさか奴隷に対してその呪術魔法を使うとは予想していなかったのであった。
するとナンジーが玉座に現れた。
「ハル姫、少しお話宜しいでしょうか?」
と悩ましい表情で言った。
それを聞いてハル姫は緊張しながらも
「ゴウミ君……の事ですね……」
と尋ねた。
ハル姫は信じた、きっとナンジー医師ならば彼の刻印を見つけて解呪したであろうと、
そして、彼は救われたに違いないと
ナンジ―は
「彼にある呪術魔法の刻印を探したんですが……見つかりませんでした」
とハル姫の期待を裏切る答えを出したのであった。
ハル姫は
「どうしてですか!!」
と予想もしていなかった為、声を荒げて立ち上がった。
だが即座に冷静でないことに気付き
「ごめんなさい……続けて」
と冷静さを取り戻して理由を尋ねた。
するとナンジーは
「私も……隅々まで調べたんですが全くその刻印が見当たらなかったのです……」
と報告された。
最初はその言葉をハル姫は疑ってしまった。
しかし、そんなことは無いとすぐに自分の中で答えが出た。
ナンジー医師が自分を裏切るとは思えなかったのであった。
彼女は素晴らしい医師である。
そして、彼女は医師の誇りとしてか決して嘘を言ったりしないのだ。
例え相手が重い病気で寿命が決まってしまっていたとしても嘘をつかず包み隠さず話すのである。
そして、彼女の医師としての腕は良く、ミスをするとも思えない。
ならば、刻印は無かった。
とそう考えるしかなかった。
そして
「つまり、ゴウミは自分にドールエムーリズの呪術魔法が掛かっているとそう勘違いしていたという事になるのでしょうか?」
と期待をしながら聞いた。
そうでないと辻褄が合わないからだ。
しかし、ナンジー医師の言葉はその期待すら裏切る形になった。
「いえ……目に見える場所にはなく……もしかしたら目に見えない場所の可能性があります」
という残酷な回答であった。
それを聞いてハル姫は
「ど! どうして! だって刻印が無いのに! どうしてその可能性を!」
と声を荒げて聞いてしまう。
すると、ナンジーは
「実は……先程、」
と事情を話し始めた。
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ゴウミは医務室へと連れて行かれた。
ゴウミはドキドキさせながら
(今から何をされるんだろう……ああ……この感じが良い……何か今から解剖実験でも始めるような気がしなくもかくて何だか喜びが芽生えてきたよおおお……と感じたいところだけど……身体検査って……さっきのドー何とかの事だよなあ、それの検査って言ってたし……)
と多少期待をして興奮しながらベッドへ寝かされた。
そして、ナンジーはゴウミに
「では、服を脱がせますね」
と言ってゴウミの服を取る。
そして、胸や腹を魔力で込めた手で調べていく。
すると
「あれ? ここではないのか……」
と言うとゴウミに
「すまない、ズボンも脱いでもらう……恥ずかしいかもしれないが我慢してくれ」
と頭を撫でるとゴウミは
「分かりました!」
と言ってすぐさまズボンを脱いで自分の恥部を晒した。
ナンジ―は頭を抱えながら
「まあ私は医者だから動揺はしないが……少しは躊躇いなさい」
と注意を受けつつ股と下肢も調べた。
しかし、ナンジーは驚いた表情で
「何で……こんなこと……もしかして背中か?」
と険しい表情へと変わる。
そして、
「すまない……仰向けになってくれるか?」
とお願いしてゴウミはその通りにした。
そして、再びナンジーは背中から下肢に掛けて魔力を込めた手で調べていくが、
「そんな……馬鹿な……いや、でも……」
と少し戸惑っている様子であった。
すると
「もういいぞ……少し質問したいんだが?」
と言われたのでゴウミはベッドに座った。
そして
「えっとお……君はドールエムーリズになっているというのはデンター組織で言われたからか?」
と質問してきた。
ゴウミは
「いや……ドールエムーリズでなくドMと言ったんですけど?」
と言葉を訂正した。
するとナンジーは
「え? ドM? 何だそれは?」
とキョトンとして聞かれた。
ゴウミはその時悟った
(もしかしてこの世界にはドMという言葉がないのか? ならば……ドールエムーリズ? 2回も聞いて覚えることが出来た……そうか……ここは異世界かあ、ならばマゾヒストと言えば分かるか? しかしまた勘違いで訳の分からない勘違いを受けて欲しくない……ならば! 具体的に説明をすればいいんだ!)
とどうにかして自分の性癖を伝えるための説明を考えた。
そして、ゴウミはナンジーに
「ドMっていうのは苦痛や罵りに対して喜びを感じる者です!」
とそのままの意味を説明した。
するとナンジーは難しい顔になって
「そんな人間がいるわけないじゃないか」
と当たり前のように言われた。
ゴウミは真剣な表情で
「います……僕がそうです」
と胸に手を当てて言い切った。
しかし、ナンジーは笑いながら
「そんなことあるわけないだろ? 面白いこと言うなあ」
と手を振りながら言った。
そして、
「取り敢えず結果だけを言うと君にはドールエムーリズは掛けられてないよ、勘違いが恥ずかしくて誤魔化しているのかもしれないが別に恥ずかしい事はないぞ、勘違いでも言ってくれれば調べるよ、私は医者なんだからそういう不安な心を治すのだって仕事だんだから」
とゴウミの頭を撫でながら言った。
そして
「では私はこのことをハル姫に伝えることにするよ、君にはドールエムーリズは掛かっていなかったから安心して部屋に戻って良いよ」
と言って報告書を書いていた。
それを聞いてゴウミは
(まさか……僕が……この僕が自分に病気があると勘違いで来た患者みたいになっただとおお……それで医者に同情されて不安を解消して貰っただと……僕はMなのに……ドMの僕が痛みから逃げた……苦しみから、不安から……そんな僕が……僕は今までドMだったんだぞ……今までの喜びから逃げる行為をしたことなんてなかったんだぞ……それなのに……いやだ……いやだああああああああああああああ!!)
と頭を抱えながらショックを受けた。
ゴウミはこのまま自分のアイデンティティーが崩壊する勢いで悲しみが襲ってきた。
だからこそゴウミは自分が保てるようにどうすれば良いかを考えた。
考えて考えて考えた。
思考し、自分がドMであることを証明出来る手段を探りに探った。
そして、
(そうだ! 今自分に痛みを与えて喜べば痛みや苦しみに快感を覚える人間だという事が証明出来るんじゃないのか! しかもここは医務室だ! そう! ここになら自分を痛めつける道具が揃って! どこだ! どこにある! 絶対にあるはずだ!)
と辺りを見回すと近くに万年筆があった。
それを見つけてゴウミはすぐさま手にした。
そして
(強硬手段だ!)
「フン!」
「どうした?」
と自分の腕に万年筆をそのまま勢いよく
グシャ!!
と刺した。
「な!」
たまたまナンジーがゴウミの声と共に振り返るとそこには万年筆で自分を刺しているゴウミがいた。
ゴウミは
(!! いいいってええええええええ!! あああ! 良い! 良いよ! この感覚はああ! この痛みが脳天を貫くような快感!! 良いい! 良いい良いい良いい良いい良い良いい!!)
とアへ顔になった。
そして、そのまま
ブシャアア!
と腕の肉を抉り、そのまま引っこ抜いて血が腕から噴射した。
そして
「アヘエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
と歓喜の声を上げた。
それを見たナンジーは
「何をしてるの!」
と言って再び自分を万年筆で刺そうとするゴウミの腕を押さえた。
ゴウミはお構いなしに
「アヘエエ!」
と叫びながら自分を刺そうとする腕を止めようとしなかった。
完全にヒートアップしてしまったのであった。
そんな声を聞きつけたのか
「どうした!」
「何かありましたか!」
と声に驚いたリブアイとベリダがドアを勢いよく開けて入ってきた。
ナンジーは
「止めなさい! 一体どうしたの! リブアイ!! ベリダ! 彼をすぐに止めて!」
と言って必死でゴウミを押さえようとするナンジーを見て2人は一瞬唖然としたが
『分かりました!』
と言ってすぐに冷静になると、2人がかりでゴウミを押さえ込む。
そんなゴウミを見てナンジーは
(一体どうしたんだ……なぜ彼はこんなことを……まさかこの症状は……ドールエムーリズの呪い! しかし、刻印は彼にはなかった……それなのにどうして……)
と頭を必死に回転させて原因を探った。
そして、あることが頭に浮かんだ。
(まさか……ドールエムーリズの刻印は体の見える範囲ではないのか……まさか体の中!)
とナンジーは一番恐ろし可能性を想像してしまったのであった。
(それに彼は痛みや苦しみが快感だと言っていた……もしかして彼はそうなる様に体の一番重要な部分に刻印を……そう思い込ませて彼は痛みを受けて当然だという思い込みをさせているのか! もしそうなら彼は自分を傷つけ続けることになる! そんな事が続けば彼の体はいずれ限界を迎えてしまう! しかしいくら回復魔法があっても体の中を開けて刻印を探すのはリスクを伴う! それにどこにあるのかさえ分かっていない状態の今では!)
と命を伴う状態の可能性を考えてナンジー自身刻印を解呪するのは出来ない事実を悟った。
だがナンジーは諦めなかった。
(だが、今はダメでも将来! 将来この子の刻印を絶対に解呪する! 例えどれだけの時間が掛かったとしても! 医師のメンツにかけて必ず!)
と心の中で誓った。
ナンジーは
「とにかく眠り草で眠らします! その間に2人はゴウミを拘束してください!」
と指示を出し
『はい!』
と2人は万年筆を刺そうとする腕を止めて顔を突き出させた。
そして、眠り草を用意したナンジーはその香りをゴウミに吸わせた。
眠り草は臭いを吸わせると2日分の睡魔に襲われる。
その効果を使えばどんな患者も沈静化しておとなしくなるのであった。
しかし
「アヘエエえええええええええええええええええ!!」
ゴウミは一向に大人しくならなかった。
ナンジーは
「な! 何で!」
と驚きながらも何度か臭いを吸わせたが
「アヘエエエエエ!! アヘエエええええ!」
と叫ぶだけで一向に眠りに着くことは無かった。
リブアイは
「ゴウミ! すまない!」
と言って首の後ろを叩いた。
「あへ!!」
そして、ゴウミはそのまま気絶した。
ナンジーは
「……すまないリブアイ、後は頼めるか?」
と言うと2人は
「分かりました」
「お任せください」
と言って頭を下げた。
そして、2人はゴウミを担いで部屋に戻しに行って、ナンジーはハル姫へ報告に向かった。
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その報告を聞いてハル姫は
「そんな……体の中に……しかもどこにあるかも分からないなんて……」
と泣きそうになっていた。
ナンジーは
「その為、今すぐにはその呪術魔法を解呪することは出来ません……場所を特定して確実に刻印を解呪する必要があるでしょう……もし失敗すれば呪いによりゴウミは自分を殺す可能性があります……その危険を避けるためにも今は保留することしか出来ません」
と伝えた。
ハル姫は俯きながらも
「そうですね……まさかあの少年にここまでの事をするなんて……もしかしたらゴウミ自身も気付いていないだけでデンター組織にとって何か重要な秘密を持っているのかもしれませんね……もしくはゴウミ自身がデンター組織にとって重要な何かと言うかのせいもあるのでしょうか?」
と考えていた。
ナンジーは
「ならば何故奴隷として働かせていたのですか? 重要であれば処分するかどこかの研究機関で実験動物の様に扱うと思われますが?」
と当然の疑問に持つ。
すると
「いや、だからこそ奴隷として扱ったという可能性もある」
とオイエアが話しに割って入った。
ハル姫は
「オイエア、それはいったい?」
とその言葉を聞いて質問した。
オイエアは
「もし研究機関で重要な実験体として扱えば襲撃された際に確保されて徹底的に調べられてデンター組織としてもかなりの痛手だ、そして処分する対象だったとしても重要な研究機関で処分してしまえば少ない証拠から何とかデンター組織の情報を掬い上げる可能性も0ではない……だが奴隷ならばどうだ? 実験体としての研究は罰という名目で行えるし例えデンター組織から逃げるもしくは助けられたとしても奴隷がそんな重要な存在と思う者は少ないだろう……いないといっても過言ではない……そして、本人自身も自分が奴隷という立場から重要な人物として認識することもないだろう……奴隷として自尊心を潰されて酷い扱いを受け続けて死ぬ者もいれば助けられても思い出したくないという者もいる、そうすれば逆に情報を漏らす可能性は低いとも考えれるのではないか?」
と解釈した。
それを聞いてハル姫納得したように
「確かに……そう考えると奴隷の中にいたとしても不思議ではありません、念には念を入れて呪術魔法のドールエムーリズを掛けていてもおかしな話ではないでしょう……」
と考える。
ナンジーは
「なるほど……そういう事か……しかし彼は今刻印があり呪術を解呪出来ていない……今強引に聞き出せば彼は情報も伝えることも出来ずに死んでしまう可能性もある……もし情報を提供して貰うにしても解呪してから出ないと医師としては認められない」
と警告した。
ハル姫もオイエアも
「それは分かっています……一刻も早くあの子を救い出せるように我々も尽力を尽くしましょう」
「彼がせっかく自分にドールエムーリズが掛かっていることを教えて貰ったのです……その努力を無駄にしない為にも必ず刻印を見つけ出しましょう」
と真剣な表情で言った。
するとハル姫は
「それにしても、もしそうならどうして彼はドールエムーリズの情報を話せたのでしょうか? その時は何も起こらなかったのでしょうか?」
とドールエムーリズの能力と比較して疑問に思った。
するとナンジーは腕を組みながら
「恐らく先程の自傷行為がそうでしょう、それに彼はドールエムーリズの事を話した後すぐに苦痛や罵りで快楽を覚えるという虚言を言ったり、自分を刺している時この世とは思えないような表情になっていました……おそらくドールエムーリズによる効果でしょう……精神への負荷がかかったのと自傷行為をいる限りそうとしか……」
と伝えるとオイエアは
「糞……惨いことを……苦痛や罵りで快楽を覚える者なんてこの世にいるわけがない!」
と怒りを露わにしていた。
ハル姫も
「ええ、許せません、そんな酷い虚言を吐かせるだなんて! 何が苦痛や罵りで喜ぶですか! あの子を! ゴウミを何だと思ってるのです!」
と同じく震えながら怒っていた。
こうして、3人はゴウミがドールエムーリズの呪術魔法を解呪してあげることを誓ったのであった。
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「本当に大丈夫か? もう少し医務室で休んだらどうだ?」
とリブアイは心配そうにゴウミの様子を見た。
ベルダーも
「そうですよ、無理は禁物です」
とゴウミの様子を見るように注意をする。
だが、ゴウミは元気が無さそうに
「大丈夫です、少し1人にして欲しいので……そっと、して貰ってもいいでしょうか?」
と2人を安心させるように笑顔で伝えた。
すると2人は心配そうにしながらも
「そうか? だが心配だから少しの間君の部屋の前で待機させて貰う、また君に何かあったら申し訳ない」
「そうですよ……何かあったらすぐに呼んでくださいね」
と優しくゴウミに伝えた。
ゴウミは嬉しそうにしながら
「ありがとうございます、何かあれば2人を呼びますね」
と言ってそのまま部屋に入った。
2人はそんなゴウミを見て
「あの子……大丈夫でしょうか?」
「分からない……しかし彼はあの地獄から生還した……信じてあげよう」
と話し合った。
そして、ゴウミはドアを閉じてベッドに座った。
「チッ」
と不機嫌そうに舌打ちした。
ゴウミは出来るだけ頑張って自分がドMであることを伝えたつもりだった。
もしかしたら他にも方法はあったかもしれないがそれでもあの場では考え抜いて伝えた。
挙句の果てには自分を万年筆で刺して自分が言っていることが事実であることも伝えたつもりだった。
しかし、引かれるどころか優しくされてしまった。
ゴウミにとってかなりガン萎えな状況であった。
しかし、万年筆で刺したことは無駄ではなかった。
もし、あの場で刺さなければ自分から苦痛や罵りから逃げたという事実に押し潰されたであろう。
しかし、自分を刺したことによって何とか自分を保つことが出来た。
(もし、あの場で自分を刺さなかったら……)
そんな事を考えると恐怖が押し寄せてくる。
その恐怖で少し興奮した。
だが、結局は空回りで終わった。
ゴウミは楽の事を思い出した。
(思えば……楽君はいつも僕にご褒美をくれた、どんな時も楽君が僕にご褒美をくれたから今までやって来れた……楽君……俺は君がいないとダメだよ……)
と少し弱気になる。
しかし
(何を諦めてるんだ! たかだか一回失敗しただけじゃないか! こんな事じゃ楽君に呆れられる! この世界に楽君はいないんだ! 自分で何とかするんだ!)
と奮起する。
そして
(見てて! 楽君! 僕は今異世界にいます! 君がいないから僕にとっていい環境とは言えないけど! 僕頑張るよ! 絶対に理想の環境を手に入れるよ!)
と空を見て決意した。
すると
『フン、ゴミ豚が……汚らしい、一生地べたを這いずり回っているんだな……』
と楽が声援を送ってくれた。
ように見えた。
ゴウミは
「ありがとう……楽君」
と涙を流しながら空に向かってお礼を言った。
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