第5話デンター組織への認識

ゴウミの負傷は数時間で治った。

それを聞いたハル姫は


「ええ! もう治ったのですか!」

「はい、ゴウミの折れた歯も全て綺麗に治りました」

「……そんなことがあり得るのですか?」

「分かりません、気付いたときにはもう……初めてあった頃と同じく」


とナンジーは今までに見たことのないケースに戸惑っていた。

いくら回復術をしたところで魔法の効果が体全ての怪我を治す事は出来ない。

戦闘時でも一時凌ぎの為の応急手当ぐらいにしか治すことが出来ない。

しかし、ゴウミは数時間で体全ての怪我を全快させてしまった。

助け出した際もナンジーは疑問に思っていた。

あれだけの数の子供達が疫病や酷い怪我をして死んでいたのに、何故かゴウミだけ酷い怪我を負っていなかったのであった。

見た目はボロボロであったが深刻な状態ではなかったのが不思議であった。

ハル姫は驚きながらもナンジーに


「彼自身の体の耐久力でしょうか?」


と問いかけると、ナンジーは

「それだけではないでしょう、歯が抜けてもすぐに生え変わってしまったところを見ると彼自身の自然治癒能力が飛び抜けているのかもしれません……そう考えると納得がいく」

「そうですか……そう考えるほかありませんね」


と疑問が残る部分もあるが取り敢えずは事実を受け入れることにした。

ナンジーは


(もしかしたらデンター組織で何かをされているのかもしれない……だがまだそれだけで決めてしまうのは早計すぎるか……もう少し慎重に調べてから確信を持った方が良さそうだ……そうでないと患者である彼の体に負担を掛けるかもしれないしな……)


とゴウミの調子を考えながら状態を分析していた。


「確認なのですがゴウミ君はここに呼ぶことが出来ますか? もし難しければ明日に話すことになりますが……後、ベイリーのその後の処分も彼に教えてあげて欲しいのです……出来るだけ早く安心させたいので……」

「そうですね、明日には動けるとは思いますので話を聞くだけならば問題はないかと……ただ働くには一応はもう少し様子を見てからにして欲しいと私個人はそう考えております」

「分かりました、では伝言だけでも今日は伝えて明日に話をするという事でよろしいですね……お願いします……」


とナンジーの意見を聞き入れて納得した。

そして、ナンジーは嬉しそうにしながら


「ではそれでお願いします……では伝言の方は任せてください……」


そして、そのままゴウミのいる病室へと戻った。


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「え……ベイリーさんが国外追放マジでするんですか……」

「え……ああそうだが……何だ? 浮かない顔だな……お前にあんなに酷い事をした奴なんだぞ?」

「いやあ……少し間とはいえ上司だったので寂しくて……」

「……そうか……」


浮かない顔をしているゴウミにナンジーは戸惑った。

しかし、ナンジーはすぐに切り替えて


「まあともかくだ……君を嵌めようとするものはいなくなったそれで明日は君にハル姫から直接話があるそうだが……体に問題はないか?」


ゴウミの体調を確認しつつ、ハル姫の伝言を伝えた。

ゴウミはまっすぐな表情で

「ええそれは問題なく大丈夫です」


とキッパリと言い切った。

ナンジーはそんなゴウミに少し引きながらの


「そっそうか……では明日はそれで頼む……私も同行するからな」


と言って取り敢えず病室のドアを開けて


「何かあれば言ってくれ……」


と少し心配そうにしながらも部屋を立ち去る。

ゴウミは顔をすぐに伏せて


(チクショオオオオオオオオオオオオオ!!!)


と心の中で叫んだ。


(せっかく恵まれた職場環境で過ごせると思ったのに! もう少しでこの城から追い出されて惨めでゴミの様な夢ある生活に戻れると思ったのに!! どうして! どうして!!)


やり切れない思いが込み上げる。

破裂寸前の風船が突然割れてしまうような感情の爆発がゴウミを襲った。


(こんなことってあるかよ!! あんまりだよおおお!! 不安が的中するって酷すぎるよおおお!!)


いくらハル姫が伝えていたとはいえ、いくら聞いたとはいえ、やはり心の中では納得しておらず、現実味もなかった。

目の前の理想の上司が居なくなってしまう現状を本気には思えなかった。

しかし、今その言葉をナンジーに聞かされてそれが事実だという事が分からされてしまう。


(諦めるか……僕の理想の環境を絶対に作ってやる……諦めきれない! 絶対に! 絶対に!!)


ゴウミはそんな現実を受け入れた、起こってしまったのは仕方ないと考えるほかなかった。その現状化で自分がどうするべきかを考えることにしたのであった。


(絶対に僕の理想の環境を作ってやるううううう!!)


ゴウミは固く決意した。


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ベイリーサイド


国外門


「おら!! とっとと出て行け!!」

「っぐうう!!」


ベイリーは沢山の荷物を持ったまま門番に乱暴に放り出される。

ベイリーは涙を流しながら


「チクショオオオオオオオオオオオオオ!!」


と心の中で叫んだ。


「せっかくあのゴミをこの国から追い出せると思ったのに! もう少しであのゴミを惨めでゴミらしい生活を戻すことが出来ると思ったのに!! どうして! どうして!!」


やり切れない思いが込み上げる。

破裂寸前の風船が突然割れてしまうような感情の爆発がベイリーを襲った。


「こんなことってあるかよ!! あんまりだああああ!! こんな!! この私の地位を落とすだなんてええ!!」


と悔しそうに地面をバンバンと叩きつける。


「諦めるか……私が正しかったことを絶対に証明してやる……諦めきれない! 絶対に! 絶対に!!」


顔を上げてベイリーは歯を食いしばりながら


「絶対に私の正しさを証明してやるううううう!!」


固く決意した。


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次の日

ハル姫はゴウミを王座の間に呼んだ。

そして、ゴウミは跪きながら


「ハル姫様……どのようなお話があるのでしょうか?」


と畏まりながら顔を上げると


「ゴウミ君、貴方は文字が読めませんね」


とハル姫が単刀直入に聞いた。


「はい、そうですね……そのような勉強はしたことは無かったですね……」


と申し訳なさそうに話す。


(アへエエ、文字も読めない人間なんて汚らしいと罵ってくれるのかなあ……どんな罵倒をして……)

「分かりました、では貴方はオイエアに文字を学んで貰おうと思います」


と優しく伝えた。

ゴウミは少し残念そうに


「はい……オイエア様がよろしければ……」


と善意を受け取った。

その上でゴウミはハル姫に


「勉強は何日間籠っての勉強になりますか? オイエア様は休むとして僕は徹夜6日ぐらい出来ますが」

「いえ、そこまで根を積めないでください……しっかり休んでください」


と呆れながら伝える。

そして、ハル姫はゴウミに


「後貴方と一緒に私の妹のメル姫が一緒に勉強をすることになりますよ」


と話すとリブアイは驚きながら


「よっ宜しいのでしょうか! いくら警備やオイエア様がいるとはいえ妹様と一緒に勉強を……」

「そうです! どこの馬の骨と分からない汚らしい元奴隷など! 妹姫君様の悪影響になります!!」


とリブアイに続いてゴウミが発言するとリブアイは


「ゴウミ……自分でそれを言って悲しいと思わないのか……」


と気まずそうにする。


「リブアイ、貴方の心配は分かりますがそんなことを言えばゴウミ君が自分を悪く思ってしまうので気を付けてくださいね」


と優しく注意をした。

リブアイはさすがに申し訳なさそうに


「すみません、ゴウミも申し訳ない」


と頭を下げて謝罪をした。

ゴウミは慌ててリブアイに


「や! 止めてくださいよ! そんなつもりではなかったんで!!」

(僕としては自分を卑下する奴とかキモいって言って欲しかっただけなのに!!)


ゴウミの思いとは裏目に出てしまった。

ハル姫は微笑みながら


「ありがとうございますゴウミ君……ではリブアイ、あなたはここに残ってゴウミ君はオイエアとともに退出してださい、詳しくはオイエアに話を聞くように」

「「はい!」」


と言って2人は王座の間を出た。

リブアイは少し困惑しながらもハル姫に


「ハル姫様……私をここに残したのはメル姫様と一緒にゴウミを勉強させる理由についてでしょうか?」


と確認を取るとハル姫は


「はい、そうですね……貴方の疑問も理解出来ます、理由としてはあの子にも人との関りをっ持ってもらおうと思っております、その為に今回外から入ってきたゴウミ君と関わることで外の事を理解して貰おうと思っております」


と理由について話し始める。

リブアイは


「しかし、ゴウミは元奴隷です、外の常識もかなり欠けていると思います……そう考えると失礼ながら外の常識を知るには……」


と意見を述べているとハル姫は


「私が教えたいのは彼の様な環境に置かれた人間もいると言う事を知って貰いたいのです……あの子も学園には平民出身の者もいますので外の常識についてはそこで学ぶ事が出来るでしょう……」

「確かに……そうですが」

「しかし、彼の様な普通の暮らしを送ることが出来ず学園にも通うことの出来ない上にデンター組織に奴隷として囚われてしまう者もいれば貧民の生活をしている者もいます、国を担う者であるならばそのような者とも関りを持ち知ることも私は必要だと思いました、心配は分かりますが大丈夫です、あの子は酷い事をしませんよ」


と微笑みながらリブアイに言った。

リブアイは頭を下げつつ


「分かりました……ハル姫様の御身のままに」


と言って納得した。


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その後、オイエアはゴウミをある部屋に案内した。

そして、ドアを開けると1人の少女がいた。

部屋にはぬいぐるみや人形などが置かれていて、辺りは明るく実にそこにいる少女が好きそうな装飾が施されていた。

その子は先程のハル姫と同じような見た目の幼い少女であった。


「先生、その方はどなたなのですか?」

「執事見習いのゴウミだ、今日から一緒に勉強してもらうことになった、一応何かあるかもしれないからリブアイや他の騎士が外で待機するが気にしないでください」


とオイエアは少女に伝えた。

するとゴウミは


(もしかしたらこの娘はドSかもしれないな! 貴族社会のお約束! 先生が見てないところで僕を見下してくれるかも!)


と淡い期待を持っていた。


「分かりました、今日からよろしくお願いしますね、ゴウミさん」


と笑顔で向かいいれられた。


「ゴっゴウミですこれから、よっよろしくお願いします」


取り敢えずゴウミは期待をしながら挨拶をした。


「そう固くならないでください、私が姫だと聞いて気を遣っているのですか? メルナガアガルウと申します、メルとお呼びください」

「あ、分かりましたメルナガアガルウ様」


と事務的に返事をした。


「えっと……メル姫で良いですよ」


「すみません、ちゃんと名前を呼ばないと落ち着かないので」

「……そうですか……」


と寂しそうにメル姫は俯く。

ゴウミはメル姫に見下されるようにしっかりといじめ伏線を張っていった。


「ゴウミさんはどこから来たのですか?」


ハル姫は笑顔でゴウミに質問すると


「デンター組織という職場で奴隷を務めておりました」


と社会人的対応をした。


「!! 奴隷! 大変だったのですね! 大丈夫ですか!」


メル姫は驚愕しながら心配そうに聞くと


「はい? 大丈夫とは?」

「だって奴隷といえばとても酷い事をさせられると聞いていまして……」

「大変ですか~まあやりがいはありました」


とゴウミは当たり前のような顔をして答えたので、


「……そうなのですか」


とメル姫は困惑しながら言った。


「どうかしました?」


「いっいえ、何でもありません!」


ゴウミの質問にメル姫はそう答えるしかなかった。

するとオイエアはメル姫に


「すみません……少しゴウミを借ります、勉強の時間を少し頂いても宜しいでしょうか?」


とメル姫に聞いてきた。

メル姫は不思議そうに


「それは構いませんがどうかしたのですか?」


キョトンとしながら聞いた。

するとオイエアは


「いえ、少し彼に話がありましてね……ではゴウミ君少し来てください」

「はい……?」


とよく分ってなさそうにしながらオイエアについて行った。

そして、オイエアに連れられて行き隣の部屋に入った。

部屋には机が一台、椅子が二つ置かれており向き合う状態であった。

一つの席にオイエアが座るともう一つの席に手を翳して


「座ってください」


とゴウミに指示をした。

ゴウミはキョトンとしながらも席に座り


「あのお? 話したい事って何ですか?」


ゴウミは少し興奮しながら聞いた。

ゴウミは怒られる可能性を信じていた。

するとオイエアは神妙な表情で


「貴方はデンター組織についてどう考えていますか?」


と質問をしてきたので、正直にゴウミは


「素晴らしい職場だと思いますよ? 食事もあるし睡眠時間もあるし」


とキョトンとしながら答えるとオイエアは


「そうですか……やはり先程から聞いていましたがデンター組織に対して悪い印象を持っていないのですね……」


と少し困った表情をしていた。

ゴウミはそんなオイエアを見て


(困っているみたいだが……僕に対しての攻撃的な感じがしない……いや! まだ分からない! 最後まで希望を持て!)


と思い込んでオイエアの様子を見ていた。

オイエアは考えた。


(この子にデンター組織が麻薬や人身売買や人体実験を行ったり等様々な悪事を行っていると言って理解出来るだろうか……人間としての常識を持っておらず文字すらも知らずに育っている……もしかしたら彼にとって奴隷は日常なのかもしれない……ならばこの子にも分かる様にデンター組織の危険性を伝えるにはどうすれば良いか……)


と悩んでいた。

そして、オイエアは


「ゴウミ君、君が奴隷であることに疑問を思っていないのは分かった」

「はあ……まあそうですけど?」


それを聞かれてゴウミは取り敢えず頷くと暗い顔をしながらオイエアは


「理解できるか分かりませんが私の過去について話しをしようと思います……」


と苦しそうな表情で言った。


「? え? 何故?」


ゴウミはどういうことか分からなかった。

するとオイエアは悲しそうな表情をしながらも真剣な表情で


「ゴウミ君にも伝えておきたいんです、彼はまだデンター組織の洗脳を受けていると聞いています、奴等がどれだけ恐ろしくどれだけの犯罪を犯してきたかを!」


ゴウミに対して思いをぶつけるように言った。

それを聞いてゴウミは困惑しながら


「え? ああ……そうですか……分かりました」


ゴウミはその時点で嫌な予感が走った。


「私の息子が奴隷だったんです」

「!! そうだったんですか!」


ゴウミは仲間が見つけたように少しワクワクした。


(おおっと! 落ち着け! まだ話は始まってもないぞ! これで僕の性癖も理解してもらえる可能性があるかどうかが決まる!)


そして、一旦頭を冷静にさせて話を聞いた。


「4年前、私は前の夫と結婚した、そして息子を産んだ、しかし夫が最低でね、最初は仕事をしていたんだがいきなり仕事を辞めて俺には他に向いている仕事があると言いだしたんだ」


と先生は自分の過去を話し始めた。


「そして最初は私も夫を信じてついて言ったんだが、全く仕事を探そうとせず私ばかりに仕事と子育てを押し付けた」


しかし少し懐かしそうにしながら写真を見た。


「しかし私は仕事を大変だと思っても子育てを苦とは思わなかった、息子が可愛いくてな……」


と嬉しそうにして懐かしそうに写真を撫でながら微笑む。

だがすぐに険しい顔になった。


「だが、私が仕事を終えて帰ってくるとそこには息子がいなかった、夫に息子はどこにいるかと尋ねたらあいつは一言……一言……」


辛そうに話しがら先生は


「売ったと言われたんだ……」


と涙を流しながら言った


「それが、デンター組織なのですか?」

「……ああ、そうだ」


先生は涙が溢れながら話した。


「そして、私は夫を捨ててデンター組織を調べた、その組織の勢力は大きく、すべて探すのは難しい、その中から私の息子が売り飛ばされた場所を特定するのは至難の業だった」

「それでハル姫の力を借りたのですか?」

「いや、私の情報を騎士長に見せた、そして協力を騎士長に持ちかけられて協力関係を結んだ」

「なるほど、息子さんはどうなったか聞いてもよろしいでしょうか」


ゴウミはなんとなく分かっていたがちゃんと聞くべきだと思って質問した。


「見つかったさ、無残な状態でね……」

「……」

「だからこそ貴方にはちゃんと伝えてデンター組織の恐ろしさを伝えたかったんです、姫から貴方の事を聞いてちゃんとデンター組織の恐ろしさを伝えたかったんです、洗脳されてデンター組織にしか居場所がないと思ってるみたいですがそんなことはありません! 貴方にはデンター組織が間違っているという事をまず初めにこの授業で伝えたかったんです、それが私の息子の様に被害者を持つ人間の言葉です、貴方にも家族がいると思います! 貴方の家族もきっと心配していますのでどうかそのことを心に留めてください」


と真剣な表情で言われた。

それを聞いてゴウミは思った。


(そうかあ……僕の部署とは違って息子さんの部署はとてつもなく大変だったんだなあ……そういう部署もあったんだなあ……)


と自分のいた場所がそうだったという思いにはならなかった。

そして、オイエアがゴウミの家族について心配していたので


「それは大変だったんですね……まあ僕の家族はデンター組織に送り出してくれたから別に心配はしてないと思いますから大丈夫だと思いますよ?」


とオイエアに自分の家族の心配をしなくても良いことを伝えた。

それを聞いてオイエアは再び悲しそうな表情になり


「そう……だったんですか……申し訳ありませんでした……」


苦しそうな表情になってゴウミに謝罪をした。

ゴウミは


(えええ……どういうことおおお……何で謝るのおお……心配ないって言ったのにいい……)


と困惑しながらオイエアを見ていた。

その後、メル姫の部屋に戻り文字の勉強をしていった。

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