第8話 「大学生」になった朝

カーテンの隙間から刺す日光が、まぶたの裏まで焼く。手で日光を遮りながら上体を起こし、周囲を見渡す。理路整然とものが並び、質素ながらもきちんとオシャレな部屋。家具や小物が優しい色で統一されている。


気づくと、服は着ていなかった。

隣から寝息が聞こえるのでふと見てみると、サークルの二個上の先輩がいた。同様に服を着ていない。やたらと股の間が痛む。ベッド脇のゴミ箱には血がついた使用済みのコンドーム。

頭が痛い。確か昨日は、サークルの初めての飲み会でたらふく飲まされた。それから、それから、どうしたっけか。思い出せない。しかし思い出す必要もないほどに周りに物的証拠が散乱していた。乱雑に放置された私と先輩の衣服が、綺麗な部屋で目立った。

すぐに、浪人生として地元に残り頑張っている彼の顔が浮かんでしまった。心臓を黒い悪魔の手がぐいっと掴んだように感じる。人が持つありとあらゆる感情が喉から出そうになって、それを必死に押し込もうとする。代わりに視界が潤い始める。ボロボロと大粒の涙が布団にこぼれ落ちる。現役で第一志望の学校に入学してこんなになってる私より、一生懸命勉強している彼の方が何倍も立派だった。私は一夜で人として、女として穢れたのだ。この乾燥してカピカピになった薄汚いコンドームが、今の私と重なって見えた。頭も心もぐちゃぐちゃになった。


だけど今の私に泣く資格はない。何を拭いたか分からないくしゃくしゃのティッシュを拾い上げて、涙を吸わせる。

そして何事も無かったかのように布団に戻り、隣に寝る男にしがみつく。抱き返してはくれないが、それでいい。今はただ誰でもいいから体温を感じていたいだけだった。

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即興小説トレーニングシリーズ 赤坂大納言 @amuro78axis

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