第34話 同盟宣言

 森羅万象の門。

 それは、あらゆる願いを叶える門。

 見合った生贄を差し出し、その者の願いを叶える。

 だが、それは悪意に満ちていた。

 

 そう。

 人間の欲望だ。

 それによって汚染されているのだ。

 誰かその門を破壊する時を願って、私は記す。

             (古い記録より)


                  ⚔


              別世界の王のDifferent world 金彩の戦火


                  ⚔


 「ガハハハ!!やはり余の目は間違いでは無かった!」


 王宮、大階段上──

 

 ここでは、ジノラバの夜の街を見下ろしながらレヴェルトと大地の王グランドロスが会食を楽しんでいた。

 テーブルには豪華な料理が並ぶ。

 そして大階段の下ではグランドロスの連れてきた兵士や、ジノラバの街の住人が広場にある街を照らす火の周りで踊っていた。


 「ところでグランドロスとやら、此度の同盟に際して、そこの宰相から聞いたであろう。

 どうだ?考えてみる気にはなったか」


 「ああ、金と労働力の交換だな。

 もちろん承諾しよう!ところでなレヴェルトよ。

 お主、同盟の証として余の娘を貰わぬか?」


 「貴様の娘か……」


 レヴェルトはグランドロスをよく見る。

 筋骨隆々。

 ガタイがいい。

 女から見ればワイルドでいい男なのかもしれぬが、そこまであの……娘がいい女にはちょっと……

 その娘はちょっと想像できん。


 「安心せい。余に似て美人だぞ」


 それが問題なのだが……

 いくら俺様系のレヴェルトでもさすがにその言葉は言えなかった。

 

 「まぁ、考えておく」


 「そうか!ちなみに言えば、魔術王ガナルゼラシュは余の娘と婚姻を結び、それはそれは良き夫婦仲だがな」


 「ほう、あの魔術王が……」


 それは興味深い。

 あの魔術王は話を聞く限りだが自分に近い思想を持ち、王の気風を持った存在だろう。


 「そうか。一度貴様の娘とやらに会ってみるのも良かろう」


 「そうか!貴様なら大歓迎だ!余の娘を娶るに足る存在よ!!」


 「ほう、そうか」


 そのように話しているところを、酔っぱらったフロースが近づき、大地の王に指を差す。


 「不敬ですよ!大地の王!!レヴェルトしゃまにそんな口きいて!!」


 本来ならこの女の方が不敬と言われ、この話は無かったことになるが、この大地の王は余異常の寛大な心を持っていた。


 「すまぬ。我が姉ながら、酒には弱いのだ」


 「いや、良い!元気で何よりではないか!!どうか、貴様の姉を責めてあげないでくれ」


 「貴様が言うなら、こ奴の不敬を赦す」


 「そうかそうか!貴様も寛大でいい王ではないか!!」


 「貴様もな。だが、貴様は王者の気風というよりは……」

 

 どちらかといえば、探究者と言った方がいいだろうか。

 だが、その夢に民や兵は魅せられ、ついて行くであろう。


 ──良き王だ。この者のような王が増えればよかったのであろうが……

 

 なぜこの世界がなんとも醜悪なのか。

 この王を見ているとよくわからなくなってくる。

 だがその疑問に気づいたのではなく、偶然なのだろうが、その疑問の答え。

 今自分が最も破壊せねばならない存在の言葉を大地の王は述べた。


 「ああ、そう言えば知っているか?

 ここからかなり遠くだが、聖剣の王というのが居るだろう」


 「ああ、余も知っている。それがどうかしたか?」


 「いやぁ、そこにな。あ~、うん」


 少し言うべきか迷っている様子であった。

 レヴェルトはその様子を見て、少し酒が回っているからただの聞くに耐えん戯言かと思えばそうではなかった。


 「そこに森羅万象の門の内側を見た少女とやらが居るらしい」


 「何!!」


 レヴェルトは目を見開き、席を立ちあがる。

 今まで感じていた気配の正体。

 ここ最近になって新たに増えた気配もあるが、この世界来た時から感じていた気配。

 そう、邪悪な気配の正体が分かったのだ。

 

 その少女だ。

 その少女はもう悪意に染められ、人間を超越した存在になっている。

 一刻も早く殺さねば。

 でなければ、この世界は悪意に呑み込まれてしまう。


 「どうした?急に立ち上がって」


 大地の王はレヴェルトがそのようなことを考えているとは思わず、そう言う。


 「いや、なんでもない」


 そう言ってレヴェルトも座る。

 だが、その目は決意に満ちていた。


 (これは由々しき事態だ。

 この会談が終わり次第、すぐにその聖剣の王の元へ行こう。

 たとえ聖騎士共と相対しようと、聖剣の王と激闘を繰り広げることになろうと、余はその悪意の女神を殺さねばならない)


 レヴェルトはそう心の中で決意をする。

 そして覚悟する。

 この世界に来て初めて五帝王と戦うことになるだろうと。


 「ではレヴェルト。此度の同盟は締結ということでよろしいな?」


 「うむ、余も承諾しよう」


 「そうか!!」


 そう言ってグランドロスは立ち上がる。

 そして大階段下のジノラバの民と自軍の兵に向かって呼びかける。


 「聞いてくれ!レヴェルトの民よ我が兵よ!我らはここに約定を交わし、志しを共にする朋友となった!皆も祝福してほしい!!ガハハハハ!!」


 こう言って一気に心を握る。

 さすがは王たるものを分かっている男だ。

 そして、それに負けまいと、レヴェルトも立ち上がる。


 「余も宣言しよう!

 この者との約定で、ジノラバはもっと豊かな土地となろう!!

 そして神たる余が約束しよう。此度の同盟はウルドニアの民にも、大きな恩恵を受けることであろう!」


 ジノラバの国中が歓声を上げる。

 グランドロスの兵も喜んでいる様子である。

 そうして二人の王の同盟宣言でこの会食は幕を閉じた。

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