第31話 悪夢の始まり
炎帝と怪物の戦いの三日前──
レイブンブル家屋敷。
ここには一人の少女と魔術師が話をしていた。
「キルビエル。
ねぇ、何でお父様はいつも帰ってこないの?」
少女はとても悲しそうに、とても寂しそうに言う。
「いえ、あの方もお嬢様に会いたいと思っておられますよ」
「でも今日私の誕生日だよ」
少女は今日誕生日であった。
数日前に少女の父親は連合の会議で忙しい中、少女との会話で約束したのだ。
『お父様!私の誕生日の日は必ず帰ってきてよ!絶対だよ!』
『ああレティシア。約束する。必ず帰ってくるよ』
『うん!絶対だよ!』
交わした約束は守られることは無かった。
お嬢様はどれだけ待っていただろうか。
寝るように言っても聞かず、帰りを待っていた。
気づけば、日にちを跨ぐほどに……
「御父上は連合のトップです。
それゆえ忙しいのでしょう。今日のところはお眠りくださいお嬢様。
明日にでも祝ってもらいましょう」
「うん」
閉じた瞬間に、涙をこぼしながら少女はゆっくりと目を閉じた。
私はしばらく寝顔を眺めた後、部屋に戻り、私が行う実験の続きをした。
(賢者の石を作ったものの、人間の悪意によって穢れている。なんとかしなくては……)
そう思い私は得意の錬金術で人間の心の結晶石を使い、賢者の石の浄化を行った。
この賢者の石は持つだけで、火をおこす程度でしかない魔法を何倍にも威力増加を行うことができる。
いうなれば万能の石である。
だが、この石の新の力はそれではない。
この石があれば、生贄を使わずとも召喚することができる。
森羅万象の門番との契約は、膨大な魔力がいる。
魔力さえ差し出せば、人は死ぬことは無い。
だが、そんな魔力量の人間など、極わずか、1パーセントにも満たない。
そのため、人間2人の命で契約を行い、召喚の儀をすることができる。
そして国は生贄を使い、戦力増強のため、異世界から来た勇者を召喚する。
だが、この石を差し出しさえすれば、生贄を使わずに召喚を行える。
誰も死ぬことがない、まさにこの世界のバランスを覆せる石。
私はその石を生み出したただ一人の錬金術師だ。
この屋敷でお嬢様の家庭教師をして、当家から多額の援助金をもらい作り出した。
そのはずだった。
この石は確かに完成した、使えば門番は契約に応じそれらの願いに沿う者を呼び出すこともできるであろう。
だが、作り出した石は瞬く間に色が変色し、美しかった黄金色が、真っ黒に染まってしまった。
そう、この石は漂う人間の悪意により穢れてしまったのだ。
なんとか他の石で浄化を試みているが、その浄化も悪意に染められていく。
このまま使って召喚の儀を行えば、どんな者が出てくるか分からない。
屋敷の玄関の扉の開く音がした。
どうやらご主人様がおかえりになられたようだ。
私は実験を中断し、ご挨拶に向かう。
「おかえりなさいませ。シュルスタン様」
「うむ」
丸眼鏡をしたシュルスタンという男が使用人に荷物を預ける。
「レティシアは?」
「今は寝ておられます。
ご主人様に会いたがっておられまして、さっきまで起きておられましたが……」
シュルスタンは何も答えない。
そしてそのまま廊下を進んで行った。
「明日はお嬢様とご一緒に過ごしていただければと思うのですが……
お嬢様も誕生日をとても楽しみにされていましたよ」
「分かっている!
わかっているんだそんなことは!
だが!私は!わたしは……」
何かぶつぶつ言いながら歩いていく。
(何かあったのか?
ならばそっとした方がいいか)
そう思い、私は実験室に戻る。
「な!」
目を見開いた
なんと賢者の石が無くなっていたのだ。
誰が盗んだのか、私は思考を巡らせて考える。
私は先ほどご主人の様子がおかしかったことに気が付いた。
「まさか!」
私はそのまま急いで部屋を出て、5階の召喚室に向かった。
「なんとしてでも、なんとしてでも最強の存在を召喚する」
賢者の石を持って会談を上るのは、シュルスタンであった。
そして召喚室の扉を開けて魔法陣の前に立つ。
「森羅万象の守護者よ。
5帝王を殺せるほどの物をここに召喚せよ。勝利を得よ!召喚をここに命ずる!」
魔法陣が展開される。
『生贄を求める──』
森羅万象の門が開き、門から手が伸びる。
「ハハハハ!5帝王の台頭もここまでだ!
本来世界を支配していた家系は我らの家なのだ。それをいつの間にか、我が物顔のように、支配する者がこうも現れるとは……」
明らかに狂っている。
そして涙を流し男は続けた。
「しかも、再び世界を支配する者が現れれば、今度こそ我が家は滅亡しよう」
魔法陣の前に立ち、賢者の石を前に出す。
「許されぬ。許されぬそれだけは!
さぁ、ここに召喚せよ!
貴様との契約において、この賢者の石を使用する」
門は賢者の石を真っ白な手の上に乗せた。
そして門はしまった。
「さぁ、告げる。ここに我が願いを聞き届けたまえ!!」
召喚の陣が、赤色に光り輝く。
赤雷が舞い、風が吹き荒れる。
「くっ、なんという魔力の流れだ。これは、期待できる」
やがて魔法陣から赤黒い泥が溢れる。
「泥?」
その泥は何倍にも膨れ上がる。
「これは……スライムの類か?」
シュルスタンは怒りに包まれる。
(こんなものが、こんなものが我が願いをかなえると!ふざけるな!!)
期待していたものに程遠かったためシュルスタンは落胆する。
「もういい!
貴様は強そうに見えないが、門番がよこしたのだ。利用させてもらうぞ!!」
シュルスタンは契約の腕輪から石を抜き取り、泥に埋め込もうとする。
「なに!」
『ガッ!!』
その音と共にシュルスタンは下半身のみとなっていた。
倒れる音とともに血が床に流れ出す。
そして先ほどまで形を持たなかった泥はみるみる人の形となっていく。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
屋敷、階段上──
「シュルスタン様をを止めなくては!」
キルビエルは階段を駆け上がっていた。
あと少しで5階というとこで、奇妙な声が屋敷中に響きわたった。
「この声、もしや!」
キルビエルは召喚室へと駆け抜ける。
その時、ドアを突き破って怪物が飛び出した。
「遅かった!!」
キルビエルはチラっと部屋をのぞく。
そこには下半身だけ残して倒れるシュルスタンの姿だった。
「おのれー!」
キルビエルは4つの魔晶石を取り出し、目の前に放り投げる。
そして右手を伸ばすと、差し出された右手を軸に4つの石は回転しだした。
「今ならまだ殺せる」
4つの魔晶石を基盤に魔法陣が展開し、右手を逃げ出した化け物に向ける。
「貫け!ルーンレイ!!」
魔法陣から膨大な魔力の光線が飛び出た。
その光線は、螺旋を描き怪物に向かっていく。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアア!!」
怪物の横腹を射抜き、痛いのか怪物は声を上げたがそのままスピードを上げて逃げ去ってしまった。
「くそっ!逃がしたか!!」
キルビエルは刃を食いしばって怒りを抑える。
「ねぇ、キルビエル。なにしてるの?」
キルビエルは声に気づき急いで後ろを向く。
そこにはぬいぐるみを抱え、眠そうにするレティシアだった。
「お嬢様!入ってはいけない!!」
レティシアはドアの壊れた召喚室に入る。
「おと……うさま?」
レティシアは目を見開き、涙を浮かべる。
「いやー!!おとうさまー!!」
レティシアは涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、下半身しかない死体に抱きつき泣いていた。
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