第30話 呪いの咆哮

 呪い。

 それはまさに世界を破壊する根源。

 この世界の人間を喰らうものである。

 

 それは人間の悪意に侵された存在。

 肉体を求めて彷徨う悪である。

 決して門との接触者に近づけてはいけない。

 さもなくば……


 世界が滅ぶであろう──

          (古い記録より)


                  ⚔


              別世界の王のDifferent world 金彩の戦火


                  ⚔


 ここはインフェルノ帝国。

 城のベランダから広大な街並みを見ているのは、炎帝ルジウス・インフェルノ。

 夜の街は静寂に包まれ、人の通りは一切なかった。

 風が冷たく吹き、少し肌寒さまで感じる。

 酒を飲みながら、この不気味な風景に違和感を覚えずにはいられなかった。


 「なんだ?

 今日はやけに気味の悪い夜だな」


 風が『ヒュー』と吹き抜ける。

 もう深夜だからか住人は寝静まり、明かりはどこもついていない。

 そんな中、建物の奥の塔に人影が見えた。。

 ルジウスは目を凝らす。


 「ガッ、ガガ、ガガッガ」


 街の塔の上に人のような形をしている黒い影。

 何やら何か物を食べているようであった。

 首が『カタカタ』と音を立てる。

 ルジウスは驚いて目を見開く。

 なんとその者は、手足が異常に長く、明らかに服も着ていない。

 ただただ人の形をした何かであった。

 するとこちらに気づいたのかゆっくりと振り返る。

 目は無く、口には大きな牙がたくさんあった。

 その牙はサメのように何列もあり、何かを捕食していた。

 そして体には、血脈のように赤い筋が浮き立っている。

 明らかに異形なその姿にルジウスは魔法で鎧を構築し、槍を持ち臨戦態勢を整える。


 「何者だ!てめぇ」


 異形の者は答えない。

 すると手に持っているのをこちらに見せてきた。


 「なっ!

 てめぇ、それは人か!」


 なんと手にもっていたのは人間の腕であった。

 よく見れば塔の下の家々の上に死体が何人か四肢や頭が無い状態で乗っている。


 「貴様、俺の民たちを……

 何者だ!どこからやってきた」


 話が分かるかは知らないが、話しかける。

 相手は首を『カタカタ』と振りながら、長い舌を出して持っている腕をなめる。


 「ガッ、ガガガ。

 オ、オマエ……シヌ」


 明らかに言葉を発した。


 「どうやら言葉は通じるみてぇだな」


 怪物は持っている腕を口に入れると、骨を吐き出す。

 そうしてまた城を見た怪物であったが、城のベランダにいたはずのルジウスは姿を消していた。


 「ガッ?」


 首をかしげる怪物。

 すると後ろから声が聞こえる。


 「こっちだ間抜け」


 怪物は急いで振り向く。

 そこにはいつの間に移動したのだか。同じ塔の上に笑みを浮かべ立つルジウス帝の姿だった。

 槍を床に擦り、火花を散らしながら歩いてくる。


 「おい、下にバラバラに散らばってる死体はてめぇの仕業か」


 「ガ?」


 怪物がとぼけたように大きい口で笑みを浮かべながら首をかしげる。


 「どこぞの悪魔か知らねぇが・・・

 俺の民を食い殺したんだ!有無を言わさずぶち殺す」


 風が危険を告げるように吹き抜ける。

 怪物は首を傾げ、長い腕で頭をかく。


 「ガ?……

 ガガ、キョウシャ」


 「ん?」


 こちらに指をさす。口からは涎を垂らして赤い血脈模様がうっすらと光る。


 「ガ、コロス……クウ!」


 ルジウスに「ヒャー!」と言って襲い掛かる。


 「ふん。」


 だがそれをルジウスはいとも簡単によけ後ろに槍をまわし、突きを繰り出す。


 「グアー!」


 怪物は頬にかすり傷を作り、急いで上に飛びあがる。

 そして塔の天井に張り付いて舌で頬の傷をなめる。


 「ガ!

 オマエ、ツヨイ。」


 そして今度は手の爪で攻撃してくる。


 「小汚ねぇ獣が、そんなもんで俺が殺せるかよ!」


 またしても簡単によける。

 爪による怒涛の連撃を繰り出すが、ルジウスの足さばきで軽くいなされる。

 そして足で腹を蹴り上げた。


 「ガー!ガッ、ガガガ、グア」


 痛いのか床をのたうち回る。

 そして再びルジウスから距離をとる。

 

「存外大したことねぇな!

他の腕の立つ冒険者連中でも倒せそうだ」


 そう言って槍をまわし威嚇する。

 だが怖気ついたのか「ヒャー!」と言った後飛び上がり、かなりの速さで逃げる。


 「逃がさねぇよ」


 そう言ってルジウスも飛び上がり、かなりの速さで走り抜ける。


 「グア?」


 怪物が振り向くと、自分と同等それ以上の速さで走り抜けるルジウスに驚き、速度を上げる。

 例えるならスピードを出した自動車並みの速さだ。


 「くそっ!このままじゃ追いつけんか。なら!」


 ルジウスは構築された鎧を解き、さらにスピードを上げる。

 陸上選手のような走りで街道を駆け抜け追いかける。

 すると怪物は長い腕で街灯に摑まり住宅の屋根の上に飛び上がる。

 そして先ほどとほぼ同じペースで駆けて行った。

 つかさずルジウスも速度を落とさず槍を棒高跳びのようにして飛び上がる。

 怪物はまだ追いかけるルジウスを振り向いて確認すると、屋根の煙突や板を破壊して、後ろに投げまくる。

 それを俊敏な動きでよけ、追いつこうとする。


 「ガー!グアッ、ジャマダ!!」


 怪物は店の看板をその長い腕ではがし、ルジウスに投げつける。

 

 「ちょこざいな!」


 ルジウスは槍を前に出すと叫ぶ。


 「燃え上れ!炎槍!!」


 そう言って大きな看板に槍を向けると槍の周りに炎が舞い、看板は一瞬で灰と消えた。


(このまま追いかけっこしてもらちが明かねぇ)


 そう思ったルジウスはさらに加速する。

 その速さは目に見えないほどの速さで、圧倒的に怪物の速度を上回っていた。


 「グワ?」


 怪物が振り向いた瞬間には、すでに目の前にルジウスが走り抜けていた。


 「ガー!!」


 怪物は驚き、急ブレーキをかけて応戦する。

 爪をその長い腕で鞭のように振り回し、周りの建物はズタズタに引き裂かれた。

 だがルジウスも槍を巧みに振り回し、相手の腕をいなす。


 「ガガ!グッ、ガー!!」


 相手は必死に振り回し、何とか接近を抑える。

 戦況は圧倒的にルジウスが上であった。

 だが、ルジウスには何かこの怪物に違和感を感じていた。


 (なんだ?こいつ、さっきよりやるようになってやがる。

 ついさっきまでのこいつならこの一瞬で殺せているはずだ!)


  ──つまりこいつは……


  違和感を感じながら槍でいなし、徐々に近づいていく。


 「グア!グアー!!」


 怪物は近づかれるとふんだのか、また飛び上がり逃げようとする。


 「ちっ!またか!

 このまま時間をかけるのは厄介だ!」


 そう言って怪物の腕に槍を投げ、家の屋根に固定されるように吹き飛ばした。


 「もう逃げらんねぇぞ!さぁ、どうする」


 怪物は必死に槍を抜こうとする。

 だが槍には熱が込められており、熱くて触れられない。

 すると怪物は意を決したように肩に手をやり……


 「グア!グウゥゥゥゥゥアアアアアアアアアア!!」


 「なに!」


 なんと怪物は腕を引きちぎってまた走り出した。

 ルジウスは槍を回収せず、また駆け抜ける。

 パルクールのように屋根の上を駆け抜けて怪物を追いかける。

 すると怪物はスピードを落とし、大きな女神像の掌に飛び乗った。


 「ガガガ!オマエ……マケ」


 怪物は笑みを浮かべて言う

 それにすかさずルジウスは反論する。


 「別に俺はお前と追いかけっこしてたわけじゃねぇよ」


 そう言うルジウスを笑いながら怪物は指をさして言った。


 「オマエ……オレ、ツヨクシタ」


 ルジウスは明らかにおかしいそいつに、また違和感を感じたのか、手を後ろに回し言う。


 「我が炎槍よ!来い!!」


 そう言うと突き刺したまま置いてきた炎槍がルジウスのもとに一直線に飛んでくる。

 その様子を見ながらも、普通は焦るであろう怪物は笑ったままであった。


 「オマエ……オワリ」


 そう言って怪物は手を広げる。

 体をつたる赤い血脈模様は大きく光輝き、周りの景色を侵食する。


 「オマエト、タタカウアイダ。オレ、ニンゲンクウ。オマエ……オワリ、シヌ。」


 「なに!」

 

 ルジウスは振り向く。

 直径2キロ周辺が赤黒い沼に覆われ人が眠る建物ごと呑み込んでいた。


 「きさまー!!」


 「ガガガガガガガガガガガガ!ツギ、オマエ!」


 そう言うとすごい速度で赤黒い沼から何本も手が伸びてきた。

 ルジウスは槍を振り回し、手を斬り落としていく。

 だが一つの手がルジウスの足首を掴む。


 「なっ!」



 ルジウスは一気に引きずり回された。

 周りの建物は振り回されるルジウスとぶつかり、倒壊する。

 ルジウスは空中で手を切り裂き、伸びてくる手を足場に空中で槍を振り回す。


 「ヒャー!!」


 すると、突如上に怪物が現れ、ルジウスを蹴り落とす。

 ルジウスは下の沼に飲まれまいと、下に炎槍をトップスピードで投げつける。

 隕石がぶつかったような衝撃波と爆発で、下の沼は吹き飛ばされ、何とか着地する。


 「きさま!!」


 「オマエ!オワリ!シネー!!」


 怪物は空中で降下の体制をとり、急降下してくる。

 そして口を大きく開き、口に赤い光が集まる。


 「カースロアー!!」


 そうして地上に赤い光のブレスが注がれた。

 それを見たルジウスは槍を構え、上に投げる体勢をとる。

 筋肉を引き絞り、炎槍は炎を舞わせる。


 「焼き尽くせ!炎槍ビースト!!」


 大きな炎の柱は螺旋状に上へと伸び、赤いブレスを焼き切り、怪物へと一直線へ向 かっていった。


 「バカッナアァァァァァァァァ!!」


 怪物の体は炎のもとに消え、上空へと吹き飛ばされた。

 地表の沼は消え、あるのは一区画が更地のなった大地に、ボロボロのルジウスが立っているだけであった。


「ハァハア。あの野郎、辛うじて生きてやがるな。

 ハァ、こりゃ、とんでもねぇことになりそうだ」


 そう言ってルジウスは地表に背をつけた。

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